#1 どういうことだってばよ。
脳内でアニメーションを作りながら読むと楽しいです。ワクワクしますね!
#1
透き通った空気。舞い散る葉桜。穏やかな陽気な光が差す今日この頃。俺、松原 優は私立西園寺高校に入学する。校門前には既に人集りが出来ており、入学式と書かれた看板の前で写真を撮るたくさんの親子が眼に映る。
「なんでこのタイミングでいなくなるかな・・・。」
特段、古からの旧友を待ちわびて居るわけじゃない。祝福と歓喜の声に満ちたこの空間で場違いな溜息が零れてしまう。空気を読んで笑顔で居るつもりだがどうしても引きつってしまう。どうしてこのおめでたい日をブルーな気持ちで迎えてしまうことになったのか。それは一週間前に溯る。
***
「「ごめん。今から海外に行ってくる。」」
「どういうことだってばよ?」
ちょちょちょっと待ってくれってばよ。突然両親の口から飛び出した発言に思わず某忍者漫画の口癖になってしまった。海外ということは旅行?にしては唐突すぎる・・・というかパスポート期限切れていたような・・・?
「パスポートって確か去年あたりに切れてた気がするんだけど。」
「そういえばそうだったわね!」
「優も更新しておいた方が後々楽かもな。」
後々っていうか今すぐ行かないと間に合わないじゃん。というか荷物すら用意してないんだけど。フッ軽が過ぎるよ、うちの両親・・・。
「じゃあそろそろ行ってくる!詳しいことはそこに書き置きがあるから見ておいてくれ。」
父さんの視線の先には、ダイニングテーブルに置かれたメモがあった。枚数がやたらと多いのが少々気になるけど。
「俺も行くよ。本人いないと手続き面倒だろうし。」
「いやいや優は来週から学校だろう?」
「長くても5泊6日とかでしょ。まだ7日あるから大丈夫だよ。」
「何言ってるのよ。その100倍は行くわよ」
「100!?」
700日って、なんて大規模な旅計画してたんだよ。今から準備するってレベルじゃないぞ。ってあれ・・・?
脳裏に一つあまり考えたくない最悪のパターンが思い浮かんだ。まさか・・・この人たち。
「・・・それってもしかしt」
「「じゃあ!僕(私)たち海外で少し働いてくる(わ)ねえええええ!!!」
「なんでそんな重要なこと黙ってたのさああああああああああああ!!!!」
満面の笑みで扉を開ける両親とは対照的に、俺は文字通り膝から崩れ落ちた。憧れの華々しい高校生活を夢見てた自分は、今日ここで死んだのだ。ひとり息子になんて事してくれてんだ、あの二人。
***
とまあ、起きてしまったことはしょうがない。自炊に洗濯、掃除等々の家事が多少増えたものの、まだ憧れの高校生活が無くなったわけではない。入り口でもらったパンフレットでも読んで式典まで待つとしよう。少し厚みのあるパンフレットの中には、施設案内や授業概要のほかに部活動紹介のページもあった。
「テニス、バトミントン、美術、・・・軽音部かあ。」
少し前に軽音部を主題にしたアニメが流行っていたが、現実はそこまでメルヘンで平和なものでもないだろう。奇抜なファッションに身を包み、お祭りのように騒いで盛り上がる。そんな眩しい連中が跋扈するカースト最上位の集まりなのは間違いない。俺には少々手に余る。いや余るどころか溢れる、色んなものが。時折考えていたことが漏れていたのだろうか。気がつくとパンフレットには小さな影が一つできていた。
「軽音部に興味あるんですか?」
「えっと。音楽聴くのは好きですけど、弾くのはちょっと専門外かなって。」
苦笑いをしつつ話しかけられた方に顔を向けると、綺麗に艶のかかった長髪を持つ美少女が笑顔で話しかけてきた。
「なるほど・・・。でもせっかくの高校生活、何かを初めてみるのも楽しくて良いと思うよ。」
そう言って彼女は元の位置へと戻っていった。おそらく生徒会の役員か何かだろう。明るくポジティブ、そして行動的。まさに若き高校生のあるべき姿を目の当たりにして、若干の羨ましさを感じつつも、俺の目はますます「軽音部」という字から離れなくなっていた。
***
入学式と軽い説明会が終わり各々が点々と行動する中、僕はパンフレットの内容を頼りに校内探索をしていた。
「部室棟ってここかな。」
教室棟からは少し離れた古い校舎のような構造の建物。旧校舎を再利用したものだろうか。少し重たい扉を開け、ある目的の場所を目指して歩いた。上の階へ行くと一階の賑やかさが嘘のように消えている。誰一人いないが場所は間違っていない。教室名の書かれていない部屋がいくつか連なる先にその部室はあった。
「軽音部。勢いで来ちゃったよ。さっきの人の口車に乗ったはいいけど、楽器とか全然弾けないんだよな・・・。」
おそるおそる部室の扉を開けてみると、鍵はしまっておらず簡単に開いた。
「あのー・・・誰かいますか〜・・・。」
呼びかけに応じる声もなし。目の先には様々な楽器に箱のような機械に加え、大量の紙に細い木の棒?が立ててある。
「部屋は間違ってなさそうだけど、人もいないし、やっぱり大人しく帰るか。」
このまま此処で待って巨体の人とかギャルとかと遭遇するのも正直怖い。やっぱり俺にはこういう場所とは縁がなかったんだ。うん。帰ってゲームしよ。
少しの安堵と寂しさを感じつつ再び扉に手をかけると・・・
ガシャガシャ・・・ドゴッ!!! ・・・・ッッシャアアアアアン!!!!!
盛大なシンバル音とともに俺は後方に吹き飛ばされた。
***
「きゃあああああああああああ」
「咲ーなにごとー?」
「どうしよ紗理奈・・・私、ケーサツ行かなきゃかも。」
「大袈裟。部の備品壊したくらいならまあせいぜい反省文だっ・・・うわあ、キレーに倒れてんじゃん、人。」
突然の衝撃で視界がぼやけているものの、何か話し声が聞こえる。
「おーい。大丈夫?早く起きてくれないとこの子今すぐ自首しかねないから、起きてくれると嬉しいんだけど。」
自首?新手のカツアゲ?ふらつきながらなんとか身体を起こすと眠たげな少女がこちらをじっと見つめている。
「あ、起きた。咲ー、その手一旦ストップ。」
「・・・えっとあなた方は?」
「軽音部2年の結城 紗理奈。んで、今叫んで自首しかけてた子は、高篠 咲ね。薔薇つけてるし君、新入生でしょ。もしかして迷子?」
「いや、ここを目指して来たので迷子じゃないです。」
そう言うと眠たげな少女の口端が少しだけ上がった。
「ははーん。なるほどねー、この子か。ねえ咲ー、この子でしょ、さっき話してた子って。」
少女の奥にもう一人いる。おろおろしてるけど見覚えのある顔のような・・・。
「うわあ!そうこの子!パンフレットでうちの部ガン見してた子!」
・・・そこまで凝視していた記憶ないんだけど。というかそんなレアもの見つけた!みたいに指を差さないでくれ。
「ごめんね。血とか出てない?って、おでこ赤くなってるじゃん。ちょっと待ってて!」
早口にそう言うと先輩はぶつかった扉の向こうに走っていった。
「パンフレットガン見って・・・。今日の入学式って新入生とその親御さん、あと数人生徒会の人たちがいたくらいですよね。あと先生か。うーん、先輩たちいましたっけ?」
「うんにゃ。私はいないよ。朝からずっとここ。」
やっぱりそうだよな。そもそもこんな奇抜な髪色した先輩らが入学式にいたら気づくと思うし。
というか水色ってすごいな。何気にアニメ以外で初めて見たかも。さっきの先輩も金髪にメッシュ入ってたし。ギャルか、やはりギャルは実在するのか。そんなことを考えているうちに、また騒がしい足音が近づいてきた。
「お待たせ!はいこれ!熱さまシート!とりあえずおでこ貼るからじっとしてて。」
「いいですよ。別に自分で貼りま・・・っ!?」
目線の先に広がる景色は、おそらく人によっては絶景と評するに十分なモノだろう。だけどあまりにも突然すぎて正直ラッキーskbを楽しむとかそういうの・・・ってデカッ!やば、ぶつかる!!!
あらぬ冤罪をかけられるのを避けるためか反射的に思わず目を閉じてしまった。
ペトッ・・・。
さっきまでヒリヒリしていた部分が冷やされていく。同時に視界も鮮明になっていった。
「あははっ!!冷えピタ貼られる時って思わず目閉じちゃうよね。わかるわー」
頷きながら咲と呼ばれていた少女は残ったゴミを捨てながら朗らかに笑った。
いや目閉じたのはそれじゃないんだけど、それを事細かに言ったら捕まる。モラルに厳しい現代社会だ。ナニハラか知らないけど、冤罪がまかり通ってしまった事件も最近多いし、初日から停学RTAとかたまったもんじゃない。幸い気づいていないみたいだし黙っとこ。バレなきゃ犯罪じゃないんですよ。というかそもそもギリ当たってないし。そんな内情も露知らず、勝手に脳内で自己防衛していた俺の後ろで先輩たちは倒れた楽器を直していた。さっきの衝撃で一瞬忘れてかけたが、さっきから引っかかっていたパンフレットガン見疑惑について今度はもう一人の方に聞いてみた。
「パンフレットガン見って、先輩今日入学式参加してないですよね。何かの見間違いなんじゃ。」
そう淡々と言うと、『彼女』は振り返り、顔を少し膨らませてこう言ってきた。
「朝!話したでしょ!・・・覚えてないの?」
朝、話した?ただでさえ初日で友達もできていない&超絶ブルー状態でボッチを極めていたはずなのに。
頭の中でこの数時間を高速で振り返ると、ある一つの答えにたどり着いた。
「まさか、あの黒髪ロングの先輩・・・ですか?」
「ふふっ。あったりー♪」
悪戯っぽく微笑う目の前にいる先輩と記憶の中に鮮明に残っていたあの人の笑顔が一致した。
・・・いやでも何度思い返しても髪色が全然一致しないんだけど!!?
***
皆さん、おはこんばんにちは。処女です。・・・間違えました、処女作です。開幕喪女アピ(?)はさておき、夜中にテンション上がって書いたラブコメ!『ヘビ好き』始まりましたね〜。初回は音楽要素多めに入れようか迷った結果やめました。次回・・・うーん、第3話くらいからちゃんと音楽します。ユルシテ。話は変わりますが、実は中の人は大学デビューした若造です。・・・中国語って難しいネ!更新はマイペースですが、反響が良ければ早めに投稿します。正直サイトの仕組み全然理解していないまま始めてしまってますが、コメントいただいたら全て返していこうと思っているので、是非!感想ください!「you!こういう回やってよ。」系も大歓迎です!それではまた次回!ばいなら〜