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オカルティックエレベータートラベ(ブ)ル?

「ちびは業務用エレベーターを使えって言っていたね。」


「武本物産専用エレベーターはそこか、あの赤いライトがあるところだね。」


「え?赤?」


 薄暗い地下駐車場において、非常口の表示もあるような煌々と蛍光灯が照らしている明るいスペースには、通常の銀色の扉の最新式のエレベーターが二台設置されていた。

 二台の内右側の扉に白いプレートが張ってあり、遠目にもプレートには業務用と書かれていたのが読めたが、俺が楊に指さしたのはそのエレベーターホールから右側にある角の暗がりだ。

 そこだけ赤くぼやけている一角だ。

 恐らく消火栓の誘導灯だろうが、その灯りによってかすかに小部屋のようなものが見えるのである。


「うわぁ、あっちか。できるだけ近づきたくない雰囲気に仕上がっているね。」


 俺達はその暗がりへと歩き出し、近づいて見れば、もっと乗りたくないと思う、大昔の柵が付いている大型の古いタイプのエレベーターが待ち受けていた。

 おまけに、俺達が近づいた途端に突然エレベーター内の電気がパッと点いて、ガラガラと音を立てながらエレベーターの扉まで開いたのだ。


 扉が開いてエレベーター内の灯りも足されたが、エレベーター周囲の暗がりは殆どそのままだ。

 いかにもホラー映画の人喰いエレベーターの趣しかない中で、エレベーター内部の内装を見せつけられた俺達は、少々どころかかなり脅えてしまっていたと言ってもいいだろう。


 床には赤絨毯。

 天井には天使や小動物の絵やオブジェにゴテゴテしく飾られている。

 業務用にしては高級感とアンティーク感が無駄に溢れるものであり、装飾が全部無駄という所で、呪いのかかったオルゴールの中身みたいにしか俺達には見えなかった。


「これさ、古い海外映画に出てきそうな重厚感あるね。なんかさ、武本家っていちいち変なところに拘っていて面白いよ。あの青森の実家とかさ。」


 本拠地青森にある屋敷は、武本に掛かる呪い避けでアメリカのウィンチェスターハウスのように建て増しがされて、まるで和風お化け屋敷のような変な建物であったのだ。


「迷って手を叩くと愉快な未亡人ブラックウィドウさん達が助けに来てくれるところもね。ほんと、どっかのアトラクションみたいだよね。」


 吹き出した楊を背に、俺はまず柵を開けて中へと一歩踏み出した。

 青森の武本家の話をしているうちに、エレベーターが武本家が拘っただけの単なる玩具にしか見えなくなったのだ。

 俺の後から乗り込んだ楊が、少年のようにワクワクした風で柵と扉を閉めると、柵は開けた時と違って、ガラガラガラと、これまた古臭い金属音を立てた。


「この拘りで潰れない変な会社だからいいんだろ。」


 エレベータースイッチを玄人の言っていたとおりに押した。

 するとスイッチが全部煌々と数秒点き、その数秒後に一斉に消えた。

 がたっ。

 スイッチ下の金属板が下がったのだ。


「うわぁ。びびるわ。マジ、ホラー映画かホラーゲームのような造り。楽しい。」


 金属板が下がったそこに、上のスイッチ盤にはない地下三階のボタンが現れたのだ。


「俺が押すよ!」


 子供に還ったようにして楊が宣言すると、俺の返事も聞かずに右手の人差し指と中指の両方を使ってボタンを押した。


 ビー。


 エレベーター内で機械音が鳴り響き、ガコン大きく揺れれ、俺達の乗る箱が下へと動いていった。

 勿論、エレベーターが落ちるかと怯えた楊に抱きつかれたが。


「かわちゃん、監視カメラがあったら恥ずかしいからやめて。」


「こんなアンティークな代物で?」


 楊はフフンと鼻で笑い、俺から離れてエレベーター内を見回して、ぴたりと固まると大きく声をあげた。


「さすが武本。」


 楊が指差した天井の隅には、金属とクリスタルが合体した珠を抱えている天使がいて、天使が抱える珠がゆっくりと動いているところから、それが装飾された監視カメラだと判ったのである。


 ガガン。


 大きく揺れてエレベーターが止まる。

 だが、前の扉は開かない。


「これ、故障して止まっただけじゃね?」

「やめろよ。」


 楊を制しながら連絡ボタンはどこか目線だけで探した。

 俺は少し必死になっていた。

 何せ、ここは武本の土地だからな。


「五十歳まで長生きさせてください。」


 そう神仏に願かけた先祖がいるせいで、武本は「当主が五十歳までしか生きれない呪い」を背負った一族なのである。

 そして玄人はその呪いを実父と従兄に受けさせないためだけに生み出された生き物で、近親婚の結果の染色体異常で寿命が既に切れている。

 彼はその五十年の呪いによって生かされているが、その不幸を恨むどころか、もう少し生きていけるのだと喜ぶ大馬鹿者だ。


 ガガン。


 再びエレベーターが大きく揺れると、俺達の背中側に空気が抜けた気配がした。

 バっと同時に二人で振り向くと、壁だった所が上に開き、壁の向こうはエレベーターホールが待ち構えているではないか。


「期待を外さない武本だぜ。」


 楊はヒュウっと口笛を吹いた。

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