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聞けないことってあるよね

 俺の馬鹿な子は、どうしてあんなに馬鹿なのだろう。

 隣の馬鹿な親友は、朝飯のあの時から今までも笑いが止まる事が無い。

 祭りだかなんだかに連れて行くとほざいていた婚約者はどうしたよ。


「煩いよ。いい加減に黙れよ。」


 助手席に座る楊は俺をチラッと見て、再び笑い出しやがった。


「だってさ。あいつがお前の誕生日を今まで知らなかったなんて、お笑いだろ。お前は俺の個人情報は簡単にちびに渡したくせに、自分の誕生日も年もちびに教えていなかったなんて。俺は考えも付かなかったよ。」


 そうなのだ。

 俺はそういえば玄人に誕生日やら俊明和尚の養子になる前のことなど詳しく教えた事が無かったのだ。

 玄人は知っているような顔をしていたから気づかなかった。

 聞けば良かったのに。


「まあさ、親しくなるにつれて聞き辛いこともあるだろうしさ。お前が俺の名前を知らなかった時のようにね。」


 俺は痛い所を突かれたと舌打ちをした。

 高校時代の同期でも仲が良かったわけじゃなかった俺達は、紆余曲折で俺が仏教系の大学に進学し直した時に再会した。

 その時、高校で人気者だった彼が「かわちゃん」と呼ばれていたことしか、再会した時の俺は覚えていなかったのだ。


「お前だって俺の下の名前を覚えていなかっただろ。」


「いいじゃん。上下うえした覚えていなかった奴よりもさ。」


 負け惜しみで言ったことが事実だと知り得た俺は、愉快になってワハハと大笑いをあげていた。

 これも馬鹿でも得難い息子のお陰かと、気分が良いまま目的地へと気持ちが先走る。


 思いつめた顔で俺の誕生日を尋ねた子は、俺が頭がまっ白になって言葉が出なかったことを「俺に拒絶された」と思い込んで、みるみると目の前で萎んでしまったのだ。

 そして、俺の隣で楊が壊れた笑い袋みたいなけたたましい笑い声をあげた。

 まぁ、楊の馬鹿笑いで俺の意識は戻ったがな。


「どんな女が好きだとか、真砂子をどう思っているか、そういうことじゃなくて、誕生日?俺の誕生日か?教えていなかったっけ?え?」


 俺は意識は戻ったが少々壊れてもいたようだ。

 思い出しても情けない。

 俺の壊れた喋り方で、玄人の隣に座る山口あほうまでも吹き出し始めたのだ。


 だが馬鹿な俺の可愛い子は、一人真剣な顔でコクリと俺に頷いた。

 それは俺でも可愛がってやりたくなる健気さであった。


 こいつは二十一歳の成人男性だったはずだ。

 いいや、今は少女の姿か。

 もともと童顔で百六十センチの華奢な彼は、大怪我からの生還途中で眠っていた遺伝子が暴走してしまったのだ。

 まるで第二次成長期を迎えたばかりの少女のようにして、胸がほんのちょっと膨らんで、上半身の筋肉も付き方も少々変わってしまったのである。


 しかし、ここが一番恐るべきところだが、彼の顔は女性化する前と後で、実は一切変わっていない。

 卵形の完璧な輪郭に小作りの綺麗な三角形の鼻がちょんと付き、口元は大きくも小さすぎもしない完璧なサイズに形だ。

 いや完璧さを強調するかのようにして、下唇が仄かにぷっくりとしている。

 まるで「齧って」と誘うかのように。

 それだけでも凶悪であるのに、さらに、大きな黒曜石のような瞳を飾る東北人特有の無意味に長くて濃い睫毛が、瞬きをする度に蝶々のようにはためくのである。


 ああ!馬鹿な男共が玄人に出会う度に求愛するのもわかるというものだ。

 だが、いまや顔だけではない。

 俺プロデュースもある。

 真っ黒で癖の少しある髪を、その顔を際立たせる一番の長さで揃えさせたのだ。


「良純さん、せめて前髪だけでも切って良いですか?」


 前髪が煩くて切りたいと玄人は強請るが、うるさい、俺の言う事を聞け、だ。

 玄人は今や町を歩けば男達が全員が全員必ず振り向く天女の姿なのだ。

 俺が玄人を連れて歩けば、買い渋っていた奴にも物件が売れ、リフォーム業者を入れれば同じ値段でも倍の丁寧さで仕事をしてもらえる。

 こんなに使える人間になれたのは俺のお陰だろ。


「それで、百目鬼。ちびの言っていた武本物産の倉庫には何があるのだろうね。」


 俺は楊の声に、玄人賛美をしていた自分のもの思いから戻された。

 前方には、ぜったいに武本物産だろう、というビルの影が見えてきている。

 玄人は遅くなった俺へのプレゼントを、武本物産の秘密倉庫で俺に選ばせようとしているのだ。

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