その後は打ち上げ!
十月十五日の夕方六時、相模原市某所の居酒屋にて慰労会が行われた。
焼け出された葉山姉弟と可哀相な加瀬への激励会でもある。
最初の乾杯だけして妻が妊娠中の髙夫妻は帰り、今は独身メンバーだけだ。
良純和尚は会にも出ずに僕を楊に預けるとどこぞに姿を消し、藤枝という新人は海外旅行中だそうで事件中も今も姿が無い。
僕の犬神も出雲へ強制出張中だ。
ああ、可哀相なダイゴ。
そして場は何度か盛り上がるが、加瀬の「ごめんなさい。」の連発で、許してあげたメンバーが「うざい。」と思い始めた危険水域の一歩手前にいる。
「加瀬さん、もういいじゃないですか。そのくらいのことでそんなに思いつめたら、僕はもっと淳平君に謝らなきゃいけなくなっちゃいます。」
「そのくらい?」
ちょっと怖い声が僕に返って来て、周りの人達の笑い声に包まれた。
その声は、僕から二人挟んだ離れた席でそっぽを向いてビールを飲んでいる山口、その人のものだ。
彼はしつこく僕を怒っている。
自分を介抱してくれなかったって。
彼は僕達の馬鹿笑いで目覚め、そして一人ぼっちの見捨てられた状態に寂しく涙したのだそうだ。
おまけに、彼は目覚めて誰も自分に意識を向けない状況を理解すると、泣きながら医務室に一人で駆けていったというのだ。
そんな自分を誰も追いかけてくれなかった、と。
確かに、僕達は彼の足音で一瞬気がそがれたが、彼の駆け足の音に「元気だな」としか思わなかったのだから申し訳ない。
が、言わせてもらって良いのなら言いますけれど、穂積に攻撃を受けて気絶したそのまま、床で爆睡しちゃってたのはあなたでしょう!
僕は山口が面倒で、一先ず加瀬に意識を戻した。
「いいから。加瀬さんは気にしないで。」
「でも、僕のせいでかわさんは死に掛けたし、髙さんにも酷い事を。みんなにも迷惑を掛け捲ってしまって。」
せっかくの場をまた彼は暗くしている。
どうしようと思ったその時、いつもの軽い声が場を救ってくれた。
「え、良いよう。お陰でちびからオコジョを貰ったし。全然平気。」
え?貰った?
僕が驚いて楊を見ると、彼のそばにちょこんと三匹のオコジョがくっ付いて、時々楊にそれぞれが撫でられている。
え?まだ見えている?
僕がじっとみていると僕の脇から三匹のオコジョがひょいっと飛び出して、トコトコと楊の方へ歩いていった。
すると新たなオコジョ隊はその三匹と無理矢理交代するなり、今度は自分達が撫でられようとそわそわしているではないか。
え?何これ。何が起きているの?
「かわちゃん、見えているんですか?まだ。」
「見えなくなるはずなの?」
彼はきょとんとした顔で僕を見返して聞き返してきた。
そのはずだ。
実際に、僕が彼に与えた力は完全に消えて気配もない。
「刺激されると開いちゃうこともあるんだって。」
そっぽを向いたままの、一人挟んで隣となった山口が教えてくれた。
「良いよなぁ。俺も見たいよ。山さんとかわさんがオコジョで遊んでいる脇で、俺だけ一人寂しくゴンタですよ。」
葉山にはオコジョなど一匹も見えていないだろうが、オコジョを撫でて喜んでいるらしき楊は知らない人が見たら変な人ぐらいに空中を撫でているだろうから、ああそこにオコジョがいるんだろうなって感じで本当に羨ましいらしい。
変な人になるのよ?良いの?葉山さん!
さらに小動物好きの葉山はゴンタを撫でても癒されないと嘆くが、ゴンタは大型犬でしかないものね。
獣医学的には犬は小動物だが、一般人には大型犬は大動物でしかない。
「若者よ。これは三十代になって死に掛けたご褒美だ。諦めろ!」
偉そうに自慢する上司に、葉山は突っ伏してわぁっと泣く。
まぁ、泣きマネね。
「俺はなんて可哀相なんだよ。見ず知らずに恨まれて攻撃された上に、せっかくのルームシェアなのに仲間外れだよ。」
「お前、見ず知らずじゃないじゃん。警察学校同期で相部屋の奴だろ。お前はクロ並に酷い奴だな。」
年上だろうがフランクな水野は、葉山を慰めるどころか追い詰めていた。
そうなのだ。
キャリアの葉山は警察学校を穂積と一緒に卒業してはいないが、警察学校時代に同室だった事があるのに、葉山は彼を完全に忘却していたのである。




