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お前を地面に貼り付けて背中を踏みにじってやりたい(馬11)  作者: 蔵前
十四 間欠泉が熱湯を吹き出すように
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俺でも間違えることはある

 魔術師と死人という主従関係では無かったようだ。


「むかつくんだよ、お前。適当に流せば良いのによ、朝から晩までチマチマ動いて、目障りなんだよ。それで、お前を盛り立てていたのがこいつらか?お前はこいつらを殺して俺はお前を逮捕だ。俺を死人にしたのだから、そのくらいしてもいいだろ。」


 加瀬は記憶を失っていた頃の玄人に良く似ていた。

 持ちたくも無い力をどうして良いかわからないまま、身を守るために力を使っては怯えている子供だ。


「加瀬、お前はこんなに大きな呪いを作らずにコイツだけ呪えば良かったじゃねぇか。」


 加瀬は俺の言葉に妙な顔をして返しただけだった。

 俺はそんな加瀬を見つめていると、加瀬は本気で意味が分からないという風に答えた。


「何ですか?大きな呪いって。この人を死人にした事が呪いでしょう。」


 加瀬は何を言っているんだ。

 こいつが町の大きな呪いを作ったのじゃないのか?

 再び大きく笑い声を上げた署長は涙を指先で拭いながら、署長席に座った。

 すると椅子がぎっと嫌な金属音を立てた。


「これ、芯ががくがくだよ。壊れちゃってる。気に入っていたのに。」


 俺は教授室にいた三厩そのままの姿に、思わず吹き出して大笑いをしていた。

 三厩という妖怪はそんな俺に嬉しそうに目線を寄越すと、自分の署内のまだ部下の一人に声をかけた。


「良かったよ。君はほんのちょっとその屑の手先をしただけで、殆んど何もしていなかったんだね。大丈夫。昨日の事件と同じに全部揉み消してあげるよ。ねぇ、髙警部補。」


 壊れた椅子にぐらつきながら座って楽しそうに語る男に髙は暫し固まり、それから、さっと頭を下げて署長室を出て行こうとする。


え?


「ちょっと、いいのか?」


 俺が慌てた様にして髙に声をかけると、肩を竦ませた髙はにやっと笑い返した。


「急いで事件簿から加瀬の名前やら存在を消しませんと。」


 そうしてスッと行ってしまったのだ。

 いいのか?


「え、え?じゃあ、僕は、僕はまだここで働けるんですか?」


「当たり前だよ。手錠の鍵に細工して、机に嘘の写真立てを立てたのは君でしょ。特定犯罪対策課に戻って、事件処理を髙警部補と一緒にしていなさい。」


 両目からボロボロ涙を零した加瀬は、出て言ったばかりの髙の後を追おうとするが、死人が拳銃を振り回した。


「てめぇら、ふざけているのか。」


「ふざけていないですよ。本来なら髙さんが部屋を出る前に止めないといけなかったと思いませんか?どうして動けなかったのでしょうね。」


 玄人と楊が入室してきたのだ。

 玄人は箱を持っていない。


「あれ、アンズは?」


 がっくりと玄人は肩を落した。


「葉子さんに人質に取られました。かわちゃんと交換だそうです。」

「了解。」

「ちょっと、百目鬼。え?」


「うるさいよ、この死人を何とかしてからだ。」


 そうして死人に向き直ったら、死人は拳銃を持ったまま動きを止めている。


「どうしたの?これ。」


 俺のしようとした質問だが、実際に口にしたのは三厩、署長だ。

 妖怪の彼でも不思議なのだろう。

 楊は事前に玄人に聞いていたのか、死人から拳銃を取り上げて署長に手渡している。


「彼は穂積充希。加瀬さんの先輩だってかわちゃんに教えてもらいました。名前と顔を知った死人相手なら、僕は支配できます。彼は女の人を乱暴しようとして、……反撃された時に亡くなる程の怪我を負ったようですね。加瀬さんのせいじゃないです。」


 玄人の説明に加瀬は、安堵ではなくのぼせていた。

 今日の玄人は黒色レース地の膝下丈のパンツにカチッとした白シャツだ。

 そこにワイン色のカーディガンを羽織っている。

 カーディガンは袖がベル型で、胸元で切り替えがあり裾が広がって長いものだ。

 袖の着いたジレと言った方が早いか。


 服の組み合わせは完璧で、玄人はいつもどおりの美女ぶりだが何か違う。

 朝からなんとなく思っていたが、昨日ほどの完成度が無い。

 俺がじっと見ている事に気づいたか、玄人が俺を見返した。


「あの、良純さん。それで相談があるのですけど。」


「あぁ、今日はちょっと服が良い組み合わせじゃなかったよね。」


 玄人はぽかんと俺を見上げ、楊がぐいっと俺の言葉に食いついた。


「分かってた?ちびは暖色系の濃い色が似合わなくねぇ?」


 楊の口出しに一理あるなと玄人を見返した。

 白い肌にはこの色は似合うはずだが、ちょっと赤黒すぎたか?


「カーディガンか。」


 楊に目をやると彼は頷いている。


「形は良いんだけどね。ワインじゃなくて青みのあるローズ色じゃねぇ。こいつは。」


 あぁ、ローズ色良いね、と思ったがそれだとパンツの黒が強すぎる。


「今日は失敗か。」


「お前が失敗するなんて珍しいな。」


 二人でハハハって笑いあっていたら、「いいかい?」と声をかけられた。

 声を掛けて来たのは三厩、もとい、署長だった。


「あぁ、この屑の事忘れていた。」

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