ええっと、教えて?
「でも、友君にはお世話になっているし、誕生祝いなら僕も参加したいな。」
「クロトは今日は僕と一緒だからね。明日友君のプレゼント買ってちょっと顔出すだけにしようよ。それならいいでしょ。そう返信しようよ。」
スマートフォンを僕の手から取り上げて、自分で勝手に返信しそうな勢いで山口が言い募った。
「俺も覗きに行きたい。お前らが顔出した時間帯限定で。」
いやらしい親父に成り下がった楊が口を挟んで、山口が彼を叩くマネをした。
僕は彼らのおふざけにハハっと笑いながら良純和尚に目線を動かしたら、彼はなぜか怒っているような顔をしていた。
「どうしました?真砂子さんは僕を連れてくるのが良純さんだと考えた上で誘っているはずですから、良純さんの事をまだ狙っていますよ。」
「違うよ。」
ギロっと怖い目つきで僕を睨むと、箸を取って朝食を食べ始めた。
僕も慌てて、いただきます、をして食べ始めたが、気に掛かる。
そして、僕は良純和尚と知り合ってから教えてもらっていない事を思い出した。
親子なら聞いてもいいでしょう?
「すいません。あの、どうしても嫌なら良いのですけど。かわちゃんや淳平君が帰った後でもいいので。あの。」
単純な質問なのに、言葉が続かない。
そういえば僕は良純和尚の事を行動で読んでいただけで、彼から詳しくプライベートなことは積極的に教えてもらっていないと今さらに気が付いた。
時々彼が話す俊明和尚の事や楊の話を聞いて勝手に彼の事を想像してきただけだ。
彼に踏み込んで尋ねて教えてもらえないとしたら、僕は――どうしていいのか分からなくなったのだ。
不安だ。
何でも僕を受け入れてくれていたわけではなく、どうでもいい人間だからどうでもいいと許されていただけだと知ってしまったらと、僕は怯えて不安になったのだ。
「やっぱりいいです。」
僕は卑怯者だ。
真実を知る前に偽りの今までを取る事に決めたのだ。
つまり、彼の事は何も聞かない。
はぁ、と大きな溜息が聞こえた。
目線を上げると、良純和尚がじっと自分を見つめていた。
「良いから、怒らないから。お前が俺に聞きたい事があるなら言ってごらん。」
とても静かな、心を安らがさせる低音。
僕の大好きな声だ。
「いえ。本当にいいんです。良純さんが言いたくない事を無理に聞くのも……なんか、ええと、違う気がするので……。」
腰に手を感じた。
山口が僕を力づけようとそっと手を回したのだ。
だが彼は僕を抱きしめない。
本当に僕を慰めたい時は、僕にそっと手を添えるだけなのだ。
それが、彼の優しさ。
「どうしようかな。」
いつもの良純和尚の口癖に顔を上げると、彼は箸を置き、右ひじをちゃぶ台について手の甲に顎を乗せて僕をじっと見ていた。
「クロ、俺が信じられないかい?お前が聞きたい事なら俺は何でも答えてやるよ。」
「でも、これはプライベートなことだし。」
「いいから。」
良純和尚は僕よりも堪え性がない。
彼の苛つき始めた声に僕は覚悟を決めた。
僕には山口がいる。
僕は大きく深呼吸をして良純和尚の顔を真っ直ぐに見つめた。
「良純さんの誕生日を教えてくれませんか。」