彼は何者?
「おお、ちびも来たのか。それで、やっぱりアンズも一緒なのか。」
僕が神奈川県警のダンボールを抱えながら葉子と一緒に病室に入ると、輝いた婚約者を脇に侍らした若々しい三十代が大いに歓迎してくれた。
「え、クロトって、モルモットをいつも持ち歩いているの?」
「しー。この子は寂しがり屋だし、かわちゃんを回収して警察署に戻ったら直ぐに世田谷に帰るからいいのです。」
「俺、回収されるの?」
「見舞いに来たら、さっさと退院させて下さいって、あたしが婦長に叱られたわよ。追い出されるなんて、あんたは看護師に手を出していないでしょうね。」
婚約者の孫の前で、葉子は酷い言い方である。
「おばあちゃん。まさ君はさっきまで起きられないくらいにぐったりだったんだから。」
葉子は孫の言葉に目を輝かした。
「あら、それじゃあ、今日は我が家に連れて帰りましょうか。看病してあげる必要があるものねぇ。」
祖母の言葉に梨々子はニンマリと笑顔を作って喜んだ。
梨々子は基本馬鹿だが、日本一偏差値の高い女子高に通っているだけあって、時々小賢しいぐらいに頭が回るのだ。
楊は勝手に話が進んでいるストーカーの人達の中で、蜘蛛の巣から逃げられないモンシロチョウの顔で固まっていた。
共感力が無いはずの僕に、楊の「助けて!」というテレパシーが届いたほどだ。
「まずは着替えて署に戻ってからですね。良純さんが先に署長に会いに行っていますので、かわちゃんもって。」
楊は刑事の目で僕を見て、直ぐに何時ものおどけた顔に戻った。
それから、ベッドから降り立つと、梨々子と葉子に声をかけた。
「着替えなきゃ!ちょっと出て行ってくれるかな?」
「クロトは!」
「ちびは男の子でしょう。」
そこで梨々子はハッとした顔つきに戻り、僕にごめんと謝って、それからそそくさと葉子と楊の個室を出て行った。
僕は楊の荷物を片付けだし、楊は着替え始めたが、僕は楊の先程の行為が少しだけ神経に触ったので言葉に出していた。
「梨々子達を追い出す時に僕の事情を利用するなんて。」
「どうして、署長?」
楊は僕に謝るどころか質問で返して来た。
僕は楊にムウッとなりながらも、それでも答えねばならないと答えてた。
「わかりません。ただ、僕よりも強い飯綱使いで、呪いだって解っているはずなのにここまでほったらかしでしたから、黒幕かなって。」
ハハハっと楊が笑い出した。
僕は彼をきょとんとして見返した。
「署長は一昨日まで二週間くらい奥さん連れて旅行に行ってた。再婚?とにかく五十代にして花盛りらしくてね、羨ましい話だよ。」
「あぁ。」
僕の余計な言葉で良純和尚が困った事をしていなければいいけれど。
「それでさ、ちび。」
昨日の飯綱の力のことだろうか?
僕は彼に「はい。」と答える。
「お前は暖色系の濃い色は似合わないよ。今日の服は駄目。百目鬼に言っておけ。」
僕はガッカリの彼に「はい。」と答えた。




