悪巧みの相棒として
「おお、百目鬼さん。本日は何の御用で?」
しらじらしい笑顔と、いつもと違う厭味たらしい言い方で、髙が俺を出迎えた。
「檀家にしてくれなくても、僕は今までどおり百目鬼さんに親切にしようとね。」
嘘付け。
「すいませんね。駐車場の方にわざわざお呼びしてしまって。玄人は葉子さんの所です。あいつが署長室にいるものが黒幕かもしれないと言うものでしてね。」
髙は公安の顔になり、知っていたような口調で返した。
「そうですよね。」
「あなたも署長を疑われていたと?」
「手際が良すぎますからね。彼の言うとおりに彼が連れ込まれた住居に行きましたら、三人の言われたとおりの暴漢が拘束されて倒れていましたけどね。」
そこで髙はふぅっと息を吐いた。
「人間がどうやって鍵もなく手錠を外せるんですか。」
「手錠ですか?」
髙はいつものように肩を竦めた。
「鍵の部分が壊れていました。」
「それならば。」
「ありえない壊れ方です。署長は壊れていたから逃げられたと申しておりますがね。それから、机の上の写真は署長の身内でもなんでもないと。では、どうして彼は犯人に抵抗する事もなく従ったのでしょうね。」
そこで髙は俺を真っ直ぐに見た。
公安のいつもの共犯者の顔で。
「署長にお会いしたいんですがね。」
彼はニヤッとした笑みを作った。
俺を巻き込んで彼の裏家業をさせる時のいつもの顔だ。
「ご案内しましょう。」
くるっと俺に背を向けた髙の後姿に、俺は先日小耳に挟んだ事柄を思い出した。
「奥さん、マタニティーブルーでしたっけ?」
カチンと動きが固まった髙が、ゆっくりと、機械仕掛けの人形のようにして俺に振り返ってきた。
俺は髙がするようにして肩を竦めて見せた。
「誰がそんな事を?――あぁ、玄人君ですね。」
「山口ですよ。」
玄人はお喋りのようでいて、実は人の秘密に関しては絶対に漏らさない。
髙はそのことに気が付き、本気で忌々しそうに大きな舌打をした。
「おしゃべりが。それで、何でしょうか?」
忌々しそうに俺に聞き返す髙に、俺はニヤリと微笑んだ。
「原因は奥さんの躾けの失敗した犬と悪阻でしょう。玄人の幽霊犬。今は出雲に出張中ですけど、戻り次第お貸ししますよ。悪阻は無理でも、犬の面倒は見られるでしょう。」
「やっぱり僕は百目鬼さんの檀家になりたいよ。」
俺達は杞憂の無くなった朗らかな態で、署長室へと殴り込みをかけるべく足を向けた。




