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自分の蒔いた種

「これが俺の引いた導火線で、俺が設置した起爆剤ですか?」


 警察署から次々と搬出される男達を見送りながら、青天目なばためは誰も居ないが隣に語り掛けるように呟いた。

 姿など見えなくても自分の言葉ぐらい聞いていると、彼は確信していたのである。


 穂積ほずみ充希みつきは、レイプした被害者の空港職員を脅して税関で押収した違法薬物を横流しさせ、それを使って次々に女性へのレイプという最低な汚職を繰り返している男であった。

 彼は友人達とフットサル愛好会のサークルを立ち上げていたが、そのサークルメンバーの男達が販売員でレイプ共犯者でもあったのだ。


 青天目は被害者全員を探し出し、被害者達を団結させ、さらに穂積達の情報を渡して集団訴訟をするように誘導までしていたのである。

 警察時代に信頼がおけると考えていた弁護士を彼女達に紹介し、犯罪行為については元の上司に相談までもした。

 上司は捜査に動かないだろうが、確実にどこかに投げてはくれるだろう。

 警備部の要人警護課の上司は刑事ではないから仕方がない。


 ポロシャツにジーンズ姿の彼は、ふいっと向きを変えて愛車の方へと歩き出した。

 青天目が愛してやまないGクラスの白いベンツに乗り込むと、後部座席に既に客が居た事を知った。


「あなたはクロちゃんの敵なんですか?」


「敵かそうでないかしかないって、詰まらない人間関係だね。可愛い子には悪戯がしたいって、正常な男性の証拠でしょう。とっても柔らかい唇だったよ。羨ましいでしょう。」


 青天目は質問した自分が馬鹿だったと、無言で、しかし抑えられない気持ちのまま少々乱暴にエンジンを入れた。


「せっかくだから街の中心に行ってちょうだい。」


「街の中心は暴動が起こりかけているではないですか!」


「祭りって言って欲しいね。僕達はこのために頑張ったのでしょう。僕達の成果を楽しもうよ。子供達の小さな隠れたいじめは表で盛大な暴力となり、子供を守ろうと親同士が大喧嘩だ。気に入らない近所に怒鳴り込む隣人の手には得物があり、室内では殴り合いの夫婦喧嘩。愛ってなんだろう。皆が自分が一番だと認めて、嘘くさい偽善を放り投げてさ、自分のためだけに生きようとすれば、ストレスも憎しみも貯まらないと思わない?」


「これはただの集団ヒステリーですよ。一番危険な群集心理状態だ。こんなものに日常での通常の人格も見識も性格だって関係ない。人を殺せるはずのない人が、人を殺してしまう事になる、恐ろしい状況なのですよ!俺達はこんなことをして何が得られるのですか?殺人が起これば俺達が殺人者です。」


 青天目が運転する運転席側の歩道でも、次々に殴り合いの喧嘩が起こり始め、その余波か新たなものか、ところどころで人々の諍いが目に入るのだ。


「人間はね、いつだって止められるんだよ。君も嫌なら止めればいい。僕が渡した純度の高い本当の麻薬を、穂積達の違法薬物と取り替えなければ良かったのさ。レイプされて脅される被害者に、戦えって弁護士だけでなく戦い方まで教えちゃうなんてね。彼女は君の言うとおりに穂積を跳ね除けて、でも間抜けな穂積があんな間抜けに死んだのは……うん、僕にも想定外だったから、それはいいか。」


 穂積は女に殴り倒されて、自宅のソファから転げ落ちた。

 女は俺の教えたとおりに体を押さえつける男を振り払っただけだ。

 押さえつける男の手は女の力では払えないが、横から入れた腕を縦にするという動きであれば相手の腕を払えるのだ。

 人間の間接稼動域とテコの原理を応用する防衛術を、彼は被害女性達に教えただけだ。


 けれど、穂積がソファ前のティーテーブルに頭をぶつけて死ぬなんて、誰にも思い当たらない事件である。

 そしてヤツが死人化することにも。


 警察署に殴りこんできた男達は、青天目が仕掛けた純度の高い麻薬で死に掛けて、それどころか完全な麻薬中毒になった哀れな人間である。

 彼らは麻薬への禁断症状で簡単に穂積の与えた肉に喰らいつき、そして穂積の完全なる駒となった。


 元々この計画を穂積が持っていたとは考え辛く、汚職によって警察から追い払われる寸前の穂積に計画の耳打ちをしたのは、後部座席に王様然として座る男だろうと青天目は考えている。

 穂積は絶対にこの男に唆されて騙されて、ただの反吐野郎から処断されるべき極悪人へと、知らずに破滅への道へとまっしぐらに堕ちたのだ。


「穂積を消すためにこんな大掛かりな仕掛とは。確かに、小遣い稼ぎと自分の享楽しか考えていない素人犯罪者もきれいに片付きましたがね。」


 後ろの白い魔人は、完全なる悪よりも、中途半端な汚れ物が嫌いなのかもしれない。

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