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いつもと違う事で見逃していた?

 腕の中で泣き続ける可愛い子供をそろそろ自宅に連れ帰る頃合いだと、俺は楊達に辞去を告げようとしたら、がしっと髙に腕を捕まれた。


「なんですか?」


「僕は改宗して檀家になります。」


「はい?」


 意味がわからず楊を見ると、ベッドに転がる彼は肩を震わせてヒーヒー笑っている。

 視線を俺を掴む男に戻したが、彼は見た事も無い真摯な視線を俺に向けており、俺がしり込みするほど鬼気迫ってもいるのである。


「なんですか、急に。放してくださいよ。俺は玄人を連れて家に今すぐ帰りたいです。」


 髙のいつもと違う振る舞いに、俺もいつもと違う返しをしていた。

 楊はいつもと同じ笑うだけだ。

 一体どうしたというのだ?髙よ。


「え、檀家になりますから、僕の話を聞いて助けて下さいよ。」


「俺は一般人だから事件に関わりたくないですし、山が面倒臭いからショバ荒しはしたく無いです。ウチの宗派に入りたいならこの地域のお寺さんに行くか、山に直接頼んで下さいよ。」


「ひどいな。僕は百目鬼さんがいいですって。確実に霊験あらたかじゃないですか。頼みますよ。」


「嫌ですよ。何か企んでいるでしょ。」


「どうしてそんな事言うかな。僕は百目鬼さんに色々と良くしているじゃないですか。」


「壁の汚れを全身に受けた俺に、あれは虫の体液でしたって、素敵な暴露映像を見せて俺を追い詰めて潰したりしたじゃないですか。」


 一瞬髙は固まり、俺を真ん丸な目で見上げたかと思うと、顔を俺から背けるやぷっと吹き出して笑い出した。


「あれで潰れるとは思いませんでしたって。虫が駄目?割合とナイーブなんですね。」


 こいつ凄くムカツク。


「大体、霊験あらたかってなんですか。うちは霊感商法ご法度ですから。」


「経を読むだけでバタバタとゾンビを倒せる人が、今更何を言っているんですか。」


 きゃーと楊が何時もの声をあげ、ベットからずり落ちる勢いで笑い転げている。


「お前等、やめて!俺を笑い死にさせるつもりかよ!」


 玄人は涙目のまま、俺達の横に立って、事態の意味の解らなさにふよふよしている。


「何をやっているんですか?」


 俺はこんなにも山口の登場が嬉しかった事はない。


「あぁ、クロトが泣いてる!泣いているクロトを放って何をやっているんですか!」


 やっぱり帰れ、と一瞬で俺は山口に言いたくなった。

 報告で現れたはずの山口は、狭い病室を俺と髙を押しのけて玄人の側にすっ飛んで行き、報告もしないでよしよしと玄人をあやすことに夢中になりはじめたじゃないか。

 笑い袋星人楊はそんな混乱に、やはり笑い転げるだけだった。


「馬鹿だ、みんな馬鹿だ。」


 楊が笑いながら大声を上げた。

 その声にようやく冷静に戻ったか、髙がいつもの声を出した。


「山口、報告して。」


「ぷいぷいぷいぷいぷいぷい。」


「あ、アンズちゃん!もう帰りたいよね。帰ろうか。」


 恋人も病人もそっちのけで、玄人はベッド下から神奈川県警と書かれたダンボールを引きずり出した。

 その段ボール箱の中にはペットキャリーが入っているのだ。

 恋人は勿論、ようやく冷静に戻ったはずの髙までもその出来事にあっけにとられていた。


「え、お前。病院に生き物連れて来たら駄目でしょ。」


 自分の下に鼠がいたことに驚く病人が、真っ当な事を言ってベッド下で跪く玄人を叱りつけた。

 すると玄人は箱を大事そうに抱きしめて、涙目で彼を見つめ返したのだ。

 楊は反射的に玄人に、いいよ、と言いそうになっていたが、玄人の方が早かった。


「だって、この町は危険だから、僕の側においておかないと怖いじゃないですか。」


 俺はこいつの言葉を聞いて、今まで自分の子供の習性を忘れていた事を呪った。

 こいつは本当に大事な事は言わない。


「この町で起こっていることを洗いざらい話せ。でないと家に帰らないぞ。」

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