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お前を地面に貼り付けて背中を踏みにじってやりたい(馬11)  作者: 蔵前
一 俺はお前を何でも受け入れるよ?
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誕生日のお誘い

「お前は本当に意地悪だな。山口が可哀想じゃん。そう思うだろ、ちび。」


 僕は届いたメールを読んでいた。

 バシッと楊に頭を叩かれた。


「ご飯時にスマートフォンは駄目でしょ。」


 お母さんか!

 楊は時々お母さんになるのだ。


「すいません。真砂子さんからのメールで。何かなって。」


「何?真砂子が何だって!」


 メールに反応したのは山口ではなく、良純和尚だった。

 真砂子は山口の相棒の葉山はやま友紀とものりの姉なのだ。

 葉山は四角い輪郭に荒削りだが整った顔立ちで、山口よりはちょと背は低めだが同じように細く、山口がイカのようにクニャっとしているのと反対に武道家らしく姿勢が良くしゃんとしている格好のいい人である。

 まるで、竹林に佇む武士のような印象の人なのだ。

 話し方も穏やかで気さくな人なので、僕は彼をその印象のまま「繊細で優しい人」と以前は慕っていた。


 けれども、今は「鬼畜」の一言に尽きる。

 なぜか。

 彼は僕の顔が大好きだと公言を憚らない人であり、僕を本気で好きだと口説いてもくるのだ。

 自慢じゃないが僕の顔は人形の様に整っている。

 彼以外の男性に口説かれることもしょっちゅうだから仕方が無いのかもしれないが、ちょっと彼の口説き文句が非道いのだ。


「俺は君を待つよ。でも、俺は元々ノーマルだから、山口に君が手ほどきを受けていた方が俺達がやる時にはいいかもしれないね。」


 こんなに怖いだけで嬉しくない口説き文句を思いつけるあなたが、僕は本当に怖いよ。

 それでも、そんな彼を僕は密かに尊敬をしているのだ。

 彼は大学を卒業後ずっと一人で母を、最近では姉の生活をも支えている。

 母親はエステの技術があったので、今や財閥のお付のエステシャンとして活躍して彼の元から旅立ったが、まだ、姉がいる。

 姉の真砂子は夫の暴力から逃れるために葉山の元に逃げ込み、そして、離婚した後に新たな仕事を手に入れたにも関わらず、まだ彼女は葉山の自宅に居座っているらしい。

 その上、葉山の愛車を自分の愛車にした。


「部屋は余っているんだし、車だってトモは普段乗んないんだから構わないでしょ。ちゃんと保険を個人じゃなくて家族に切り替えておいてよ。」


 葉山は真砂子の言い放った言葉に何も言い返さず、言い返すどころか警察寮であるその部屋の住人変更申請の手続きや車の保険など細々なことを粛々とこなしていた。

 僕はそんな葉山を目にして、弟は姉に絶対服従する生き物なのだとガクブルしながら知ったのだ。


「おい、クロ。真砂子は何て言ってきたんだ。」


 良純和尚はかなりの慌て声だ。

 それもそのはず。

 真砂子の別れた夫の暴力男は、DV野郎は小心者だという例に違わず、小心者の臆病者であるがために真砂子を庇う葉山を車で轢いたのである。

 大怪我で動けない葉山の代わりに、そんな男と真砂子を別れさせるために一肌脱いだのは、良純和尚その人なのだ。

 そして、彼は毎度の事ながら「やりすぎた」ため、真砂子に惚れられてしまったのだった。


 その事件も既に数ヶ月前の事で葉山は元気一杯であり、真砂子は日々自信が満ち溢れて強くなり、事あるごとに良純和尚を籠絡しようと手薬煉引いている。

 けれど、良純和尚の逃げが意味分からないほど、真砂子は物凄い美女でもあるし気立てもきっぷも良い素敵な人であるのだ。

 だからか?


「友君の事だけですよ。友君が明日誕生日だから今日か明日の夜に泊まりに来ないかって。さっちゃんとみっちゃんも来るから私達はパジャマパーティねって。」


「ちょっと待って。誕生日に女子会パジャマパーティって、誕生日なのに仲間外れで葉山が可哀相くねぇ?」


 楊は突っ込み担当の時もある。


「僕は男性ですから、友君は仲間外れじゃないですよ。」


 さっちゃんこと佐藤萌とみっちゃんこと水野美智花は、今年の四月に刑事に昇格したばかりの二十二歳の猛者達だ。

 僕の淳平君は彼女達に救助された事がトラウマになっている。


「ちょっと、待ってよ。駄目でしょ。寝るところを女の子と男の子に分けちゃうってことじゃない。友君と二人じゃクロトが危険でしょ。」


 相棒の山口の必死の弁に、「友君はそんなにも鬼畜なのか。」と思い知り、ハハって変な笑いが出た。

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