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人選

 良純和尚の経によって署内に残った死人しびとは全部倒れた。

 死人と言っても、死人の肉芽を植え付けられ、その毒素によって死人化していただけの生者達だったが。

 そして、死人が倒れたそのことよりも、署内の警察官の体に張り付いた呪いが霧散したのが一番の効果だったといえる。

 これが無くなれば、人々の不幸と不安が減る。


 般若心経を終えた良純和尚はすくっと立ち上がり、僕が思っていたとおりの言葉を放った。


「楊はどこだ。」


 髙ではなく、僕が彼に答えた。


「ここの真上にある部屋ですね。何の部屋ですか?」


「署長室。」


 答えたのは山口だった。

 彼は僕のアンズ入りのペットキャリーを、僕の代わりに抱いていてくれている。

 僕はこの子を死人を滅ぼすために使ったのだ。

 純粋に生きている命を見せることで、植え付けられた肉芽に死んだ細胞である事を認識させたのである。

 この子は神木に守られた鼠だ。

 ただの腐った人間の細胞がそれを前にして存在できるはずが無い。


 それに、車内に一人ぼっちに置いておいたら危険だし、アンズちゃんはとっても寂しがり屋でもあるのだから!


「署長室で何が起こっているのですか?」


 佐藤が髙に尋ねる声を上げた。


「見れば判るよ。」


 髙は突き放すように答えると、そのまま署長室へと歩き出した。

 僕は大きく溜息をつく。


「髙さん。全員は必要ですか?僕は真砂子さんもいるから葉山さんと佐藤さんはここに残っていて欲しい。」


 髙は振り向きもせずに僕に言った。


「君はどこまで見えている?」


「おそらく全部。本当は淳平君と僕だけの方がいい気もするけれど、良純さんは絶対納得しないし、淳平君を連れて行くならば友君は置いていかれる事に納得しないでしょう。でも、昨日僕と淳平君を襲った男が特対課を襲撃したらと考えたら、腕の立つ人が待機していた方がいいでしょう。」


 ようやく髙は僕に振り返り、振り返ったのは髙が凄く驚いたからだとわかるほどに、彼は驚いた顔を僕に見せていた。


「襲われた?」


 僕は頷いた。


「どうして言わなかった。」


 僕の後ろの怖い人が僕に怖い声をあげたが、髙が良純和尚に抑えるようにという風に左手を翳して手のひらを見せた。


「叱るのも何が起きたのかの質問も後で。僕も後で山口に確認しますから。それで玄人君、怖い人ってどんな人なの?」


 今はあなたですとは言えずに、僕は心の中で山口に謝りながら髙に答えた。


「僕よりも確実に知識と経験値が高い人です。僕は相手を知らないのに、相手は僕を知っているので僕は太刀打ちできません。でも、霊力が少ない相手にならば術の効果が出ないので、肉弾戦のみになります。友君とさっちゃんならば安心でしょ。」


「ちょっと、クロ!あたしはさっちゃんよりも弱いって?」


 あぁ、しまった。

 僕は怖い人をもう一人作ってしまったと思ったら、怖い人はまだいた。


「弱いじゃん。」


 鼻で親友にせせら笑った佐藤に僕は背筋が凍り、女友達の仲を裂いてしまったのかとビクビクしてしまっていた。

 ただし、そんな僕と特対課のメンバーを眺め眇めていた髙が何時もの笑顔を見せ、そして、いつもと違う厳しい顔で葉山と佐藤に部屋で待機するように命じたのである。


 命じたのだ。


 こんなに厳しい髙の姿は初めてだった。


「ほら、さっさと行くぞ。」


 楊の身を案じる良純和尚が、待ち切れなさそうに僕に声をかけた。


「あ、はい。」


 僕はこの人こそ置いていくべきではないかと考えがチラっと脳裏をよぎったが、僕の制止を聞くわけが無く、もはや引き止められない勢いで彼はズンズンと僕の前を歩いていた。

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