髙と親友
俺の目の前には山口がいつものようにして玄人に纏わりつき始め、水野は俺のせいで親友の想い人が悲しくなっていると俺を全ての悪のようにして睨みつけている。
何が、山口も水野も大変だから署に来い、だ?
どうしてこんな嘘をついてまで玄人を相模原東署に向かわせようとしていたのだ?
あいつは玄人に何をさせるつもりだったのか。
「友紀!家が破壊されたの!」
あ、そうだ。
これは一番に葉山に説明するべきことだったと思い出した。
葉山は真砂子の報告を聞くや、物凄く傷ついたという顔で俺を見返し、珍しく情けない声を出して俺に対して大声を上げて来たではないか。
「酷いですよ!玄人を呼びつけたからって俺の家を壊したんですか?公務員寮って出る時に現状回復を自腹で完全にやらなきゃ駄目なんですよ!」
俺かよ、と葉山の勘違いにむかついたが、玄人まで肩を震わせて笑っているではないか。
「俺じゃねえよ。お前の家にクレーン車が倒れて粉々だってだけだ。」
「そうよ、いくらなんでも百目鬼さんがそんな事をするわけないでしょう。」
「しますよ。」
「姉さん、百目鬼さんはもっと凄い事も出来る人だって。」
真砂子の庇いに間髪入れずに葉山と山口が仲良く真顔で抗議してくるとは。
そうかお前等血が見たいか。
上司を殴って降格の葉山とは、やりあったら楽しそうだ。
ダンッ。
戸口の大音に振り返ると、死人がそこで倒れた音だった。
「あ、倒れちゃったよ。」
「あら、困っちゃったわね。」
水野と佐藤は顔を合わせたかと思うと死人の所にさっと向かい、死人の足首を持って廊下をズリズリと数メートルほど移動させはじめた。
移動させた先で佐藤が水野に何か言うと、彼女達は死人を放って戻って来た。
「介抱しないのか?」
特対課内では一番気立てが良いと評判の佐藤は、俺に軽やかな笑みをみせた。
「何をですか?何かありました?」
「いや、人が倒れてんだろ?」
「ウチの部屋の前じゃないですから。」
佐藤の返しに親友の水野は慣れているのかにこやかだが、年上の馬鹿男二人は目を丸くして馬鹿面をさらしていた。
俺は割合と佐藤の性格が好きかもしれない、と思った。
玄人が以前に佐藤に惚れるだけある、と玄人を見たら、彼は何時の間にやら鼠入りのキャリーバックを抱えながら再び廊下に出て歩き出していたのだ。
「おい、どこに行く。」
「この署の中心の場所です。面倒なのでそこから全てを破壊します。良純さんのお経をお願いできますか?そっちの方が早いし署内に結界まで張れます。」
玄人の後を追おうと俺が踏み出すと、玄人の側に髙がいた。
彼は何事も無いように玄人に方向を示しているようだ。
「山口も水野も元気でしたね。」
俺が声をかけると、彼はおどけた表情をして肩を竦めた。
そんな彼の横には、いるべき俺の親友の姿が見えない。
「楊はどうした?」
「かわさんは署長室です。今は動けません。玄人君にやっていただくことが先ですね。」
静かに俺に言い返した髙は踵を返し、玄人の後を追って歩き出した。
俺は髙の後姿に声をかけた。
「あいつは無事なんだな。」
「当たり前じゃないですか。」
振り向きもせずに答える髙に、俺はかえって楊の身を案じていた。




