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お前を地面に貼り付けて背中を踏みにじってやりたい(馬11)  作者: 蔵前
一 俺はお前を何でも受け入れるよ?
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悪戯好きな僕の父

 楊に手土産にされた山口淳平は、長身で猫の様な瞳を持った王子様のような煌びやかな外見をしている、七月四日産まれの二十八歳の男性である。

 彼の左手の人差し指にはホピ族の太陽モチーフの銀のリングが鈍く光る。

 僕が彼が贈ってくれた羽根モチーフのイアーカーフを外さないように、彼も僕が贈ったその指輪を決して外さないのだ。


「お前らも一緒に行こうよ。ダブルデートも面白いだろ。」


 我が家で我が家のように寛ぐ僕の恋人の上司は、俳優顔負けの魅力的な整った顔で僕に微笑む。

 微笑むと彫の深い二重にぎゅっと笑い皺が寄り顔に渋さが加わるが、短い髪はいつもと同様寝癖のようにツンツンして、普段あげている前髪が落ちて額に懸かっているからかいつもよりも幼く見える。

 この寝起きのTシャツ短パンの姿では、二十代半ばくらいの若々しさだ。


「余計な事に誘うなよ。こいつはまだ怪我人だろ。」


 口を挟みながら居間の真向かいの台所から盆を持って現れ、居間にいる僕らの為にちゃぶ台に朝ご飯を並べ始めたのが僕の父親だ。

 父親と言っても戸籍上の父であり、血の繋がりは無い。

 逆にあったら怖い話だ。

 楊と高校時代の同期で親友と聞けば彼の年齢が判るはずだ。

 そんな若い彼が僕の父親になった訳は、僕の生い立ちにある。


 実を言うと僕は、武本物産という老舗を経営する一族の、なんと二十七代目の当主なのだ。

 まず、僕が大学二年の夏に鬱になった事が彼との出会いの馴初めである。

 鬱の症状で電車が乗れなくなった僕は専門医への通院さえ出来なくなり、病状の悪化を心配した菩提寺の三厩和尚が、同門の若き僧侶を「相談役」として紹介してくれたのだ。

 三厩和尚の亡き弟三厩隆志が私大にて犯罪学の教授をしており、百目鬼とどめき家の近所で合気道道場を経営していた。

 その道場を介して隆志と懇意だった良純りょうじゅん和尚が、僕に推薦されたとそういうわけだ。


 我が父の名は百目鬼とどめき良純りょうじゅん

 僧侶でもあるが債権付競売物件専門の不動産屋としてかなりの業績もあげている凄いやり手の人物だ。

 そして、やり手で「相談役」としても有能すぎるが故に、僕が両親に虐待されている事を突き止めて僕の「任意代理人」となり、老舗の若き当主であるがための「呪い」を受けた際には、僕を彼の養子にするという方法で呪い返しまでしてしまったのだ。


 僕の名前は百目鬼とどめき玄人くろと

 養子となって姓が変わり、呪い返しによって性が半分変わってしまったどっちつかずの生き物である。

 染色体異常でXXYだったために一つ多いXが暴走したのか、大怪我から生還する際に僕の上半身が女性化してしまったのだ。

 けれど、良純和尚は当たり前だが、恋人も、楊も、友人達も、親族でさえ皆が僕を受け入れてくれる。


 受け入れがたいのは僕だけだ。

 男の娘の格好で遊ぶのは好きだったが、体が男の娘になるのは少し違うよ。


「あ、そうか。まだあんまり歩けないか。」


 良純和尚から渡された茶碗を僕に手渡しながら、楊は残念そうに呟いた。


「そうですよ。今日は良純さんが仕事の間、僕と二人きりで留守番するのですから、どうぞ婚約者さんと気にしないで出かけてくださいよ。」


 ニコニコと顔をだらしなくにやけさせて、山口が台所から味噌汁を運んできた。

 良純和尚の朝食作りを「花婿修行」と手伝っていたのだ。

 彼は元公安だったためかいつもスマイルマークのような表情を貼り付けその他大勢に埋没してしまう不思議な人だったが、僕の前ではそのスキルを一切捨ててノビノビと煌びやかに輝き、残念ながらただの阿呆に成り下がってしまっている。


 まぁ、外見よりも阿呆なそこに惚れたのだからいいのですけどね。


「え?淳は仕事で相模原に帰らなくていいのか?クロは俺の仕事場に連れて行くから気にするな。」


 流石の非道な良純和尚である。

 彼の最近のお遊びが「山口からかい」だ。

 からかいを毎回真に受ける山口は、今回も傷ついた表情を浮かべて痛んだ胸に手を当てているじゃないか。


「それともお前も付いてきて、クロがやるはずだった仕事をお前がするか?淳、どうする?お前は背が高いからクロよりも壁紙貼りに使えそうだ。」


 色素が薄い瞳をキラキラと輝かせて良純和尚は楽しそうに山口を揶揄う。

 僕は彼を眺めてなんて綺麗な人なのだと改めて思う。

 鬱で初めて出会った日も、僕は彼の造型に心を奪われたのだ。

 それも仕方が無いだろう。


 高い頬骨と切れ長の奥二重の目を持つ顔は端整で貴族的だ。

 その上長身でスタイルが良く、そして、誰も持ちえない素晴らしい美声の持ち主でもあるのだ。

 その素晴らしい声帯によって、人を魅了する声と心胆を寒からしめる声を使い分けて人を操れるなんて、彼は現世のメフィストフェレスに違いない。

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