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お前を地面に貼り付けて背中を踏みにじってやりたい(馬11)  作者: 蔵前
八 事態は酸化する鉄のように真っ赤に急変していく
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タイムアウト

「マッキーは何て答えたの?」


「答える前に自分が絶対ルール親父に連れ去られて俺は知らない。山さんはマッキーの事で何か聞いている?」


 明るい感じで葉山は気軽に俺に尋ねていたが、俺を見返した葉山の目には傷ついている色が見えた気がした。

 だが、俺はそんな友人に嘘を吐く必要が無い身の上の自分を喜びながら、簡潔に答えた。


「知らない。」

「本当かなぁ。」


「本当だって。僕はあの人にとっちゃ、一兵卒。ただの手下。使いっぱ。」


「嘘っぽいけど、まあいい。とにかく、検査キットで反応が出たから、彼らは病院送り。加瀬の手柄だね。殺人は宮辺さんの言うとおりのことがトリップした親によって行われていたからね、大変だよ。とりあえず使用された違法薬物の流れと真犯人の追求が目下の捜査目標ですかね。」


 被害者宅の水道の蛇口につける浄水器の中身が、違法薬物の錠剤でぎっしりだったのだと、葉山はその書類を山口に手渡しながら説明も入れたのである。


「薬は違法どころか、コロンビアで睡眠強盗によく使われているスコポラミンだって。君は知っている?」


「記憶が飛んじゃう怖い薬だよね。胃薬の成分にもなっているけれど、本当にそれが使われたの?」


「そう。成分から南米産の薬だって。どこから流れて来たのやら。嫌だよね。」


「それで、自宅の落書きは何だったの?」


「まだ誰が書いたのかは不明。ただね、昼に現場近くをうろついている女性を職質してね、彼女が自分の仕業だと言い出したから署に引っ張って来たの。けれど彼女はクスリは使っていない呪いだって言い張って、尋問途中に弁護士を呼ばれてしまって、それで終了。」


「加瀬君はその女性に関して何と?」


「加瀬はクスリの仕入先を調べますって、さっとどこかに行っちゃってたから尋問には関わっていない。機転が利く彼と比べて俺は本気で役立たずだよ。」


「友君たら、何を言い出すの。」


「尋問調書読み直すとね、半日も無駄な尋問に掛かりっきりどころか、尋問中も頭が全然働いていないってのが丸わかりで情けなくって。」


「それで徹夜して署に残ってたの?最近友君は気負いすぎだよ。」


 彼は頭を振る。


「それで残っていたんじゃないよ。先月の殺人事件での被害者の行方不明の子供の行方が見つかりそうでね。」


「凄いじゃない、さすが友君。どうやったの?」


 葉山は楊と同じ真っ当な道をとる常識人なのだ。

 非常識人と比べると派手さはないが、彼らが為した事は確実で覆らない。

 そして、俺や髙は事件を事件にしないように、事件そのものを葬ってきた人間だ。

 だからこそ、髙は俺達の汚い仕事を真っ当な葉山に知られてはいけないのだと神経質となっており、俺自身も真っ当な男を染めないようにと肝に銘じてもいる。


 けれども、髙の楊への偏執的ともいえる裏家業へのレクチャーを見るにつけ、葉山に対しては髙には別の考えがあるのではないかと邪推もするほどだ。


「従兄だからって妙に警察に攻撃的だったでしょ、あの弁護士。依頼人を守るっていうよりも捜査するなって妨害だったよね。それで銀行取引を洗ったら、彼の銀行口座に説明の出来ない個人からの入金が時々あってね。事務所の弁護士業務と照らし合わせても説明どころか収支に上げてもいない入金だから何かなって。」


「銀行はどうやって?」


「今の所被疑者死亡の共犯者扱いでしょ。昨日ようやく銀行からデータが届いたから押収した彼の事務所の書類と照らし合せていたの。もう、電子データでくれれば良いのに。事務所も銀行も紙ベースって。嫌がらせだよ。」


 葉山は机に突っ伏して騒ぐが、俺は相棒の地道さに自然と顔がにっこりとした。


「僕も手伝うよ。それで、明日は僕が代わりに出るから友君は非番にしてゆっくり休んで。誕生日プレゼントってことでね。」


「でも、手柄は半分こ?」


 俺はアハハと笑って「当たり前。」と自分のデスクに座り、彼は「このトンビ。」と俺を罵りながら書類入りの箱を一箱足で押しやって来た。

 そして俺達は、売られた子供の行方を昼過ぎ頃までには突き止められた。


 だが、そこまでだった。


 防災ベルのけたたましい大きな音が署内全体に響きわたり、俺達の、いや署内の全ての業務を強制的に停止させたのだ。

 その後に起こった署内の混乱に、百目鬼からの連絡がありがたいくらいだった。

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