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お前を地面に貼り付けて背中を踏みにじってやりたい(馬11)  作者: 蔵前
八 事態は酸化する鉄のように真っ赤に急変していく
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不可解な遺体

 葉山が遺体の一歩手前で足を止めると、葉山の真後ろから加瀬が出てきて葉山の左となりに肩を並べた。


「あの窓から飛び降りたのでしょうか?」


 葉山は加瀬の言葉に上を見上げて、リビングの真上の三階部分の窓が窓枠ごとなくなっている事を確認し、遺体の方へと目線を動かした。

 その遺体は足を家側に仰向けに横たわっており、頭側には目隠し塀だ。


「確かに。窓から飛び出したらここに着地するかもね。だけど、後ろ向きで窓から飛び降りるかな。彼女は仰向けじゃないか。」


「葉山さん。そこも確かに疑問ですか、この周囲から隔絶しているこの状態で、誰が通報をしたのかも気になりませんか?」

 目の前の塀はその部分だけのものではなく、高瀬家の庭の周囲をしっかりと囲って目隠しとなっており、その為に近隣に見咎められず、未だ野次馬の姿も無いのだろうと葉山は了解した。


「それは、両親?」


 葉山はガラス戸の向こうの両親に振り返り、遺体を見つけた彼らが娘の状態にパニックになったであろうことは容易に想像がつく。

 遺体に取りすがりあのケガをして、彼女を救うどころか救うことなど適わず、その事実を認めた事で今の呆然自失の状態となってしまったのだろうと思い当たり、加瀬の疑問を諒解した。


「そうだね。君の言うとおりだ。誰が通報したんだろう。」


 かつんっと、音がして庭を囲むアルミ塀の一角を見れば、太い指をした青年のような少年が塀の隙間から覗いていた。


「ああそうか。塀はそのためか。この一区画はHが三つ重なるようにして塀を作って家を建てていたんだね。向かい合わせが庭じゃ、境界線でもめてしまうから。」


「不思議ですよね。家の後部がくっつく寸前にして建てれば、建ぺい率をもっと有効に使えたでしょうに。」


「そうだね。不思議だね。」


 かつんかつん。

 かつんかつんかつん。


 葉山と加瀬は口を閉じ、高瀬家の裏手となる家の住人が、塀に頭を打ち付けるようにしながらも必死に葉山と加瀬を覗いている様子を見返した。


 かつん。かつん。かつん。


「野次馬、いましたね。彼、でしょうか。」


「そうだね。」


 葉山が覗く彼に一歩踏み出したところで、隣家から母親らしき女性が飛び出してきて、青年を連れ戻そうとしはじめた。

 葉山は慌てて塀に張り付いて、隙間から見えるように自分のバッジを翳した。


「すいません。お宅様が通報を?後ほどお話を伺っても?」


 彼女は葉山の最初の言葉には大きく頷き、しかし、次の話を伺いたいという言葉には大きく首を振って拒否を示した。

 その行動どおり彼女が警察に協力するのはそれだけらしく、すぐさま息子らしき青年の体を抑え込み、彼を家の中へと連れ戻す事に再び奮闘し始めた。


「あちらは後にして、まずは遺体ですね。」


「そうだね。すぐにでも何かで覆ってあげたいものね。」


 遺体の両目はガラスで二つとも貫かれ、大きく開けた口と相まって、彼女は空に光線のようなものを放出しているかのようだった。


「死因はガラスによる出血死でしょうか。」


「まずは鑑識だね。」


 二人は遺体から顔を上げて、通報によれば彼女が飛び降りたとされる、彼女の自室だという三階の窓をもう一度見上げた。


「ガラスの外れたあの空洞の窓から被害者が飛び降りて、尚且つ割れたガラスの破片が全身に刺さったと思われる、ですか。この遺体の状況によれば。」


「自分で飛び降りたのならば仰向けではなくうつ伏せで、ガラスを突き破ったのならば、普通は体の下にもガラスの破片があるでしょうよ。」


「そうですよね。変ですよね。大体、ガラスの刺さり方からして変です。全部同じ力で特定の場所ばかりを狙っています。」


「自殺なんかじゃなくて完全に変な事件ならば、うちの鑑識の仕事かぁ。」

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