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君は仕掛けを仕掛けてきたかな?

 妻子を殺された時に青天目も一緒に殺害されていたのであり、それが殺人者への恨みか生への執着か、彼一人死にながらも立ち上がり、人でないものと変化したようなのだ。


 この世には、死者が多過ぎると死ねない死者が生まれるルールがあるのだと、死者になってしまった青天目は彼に知らされたのである。


 はぁっと青天目は過去を思い出した反動で大きく息を吸った。


 死人として地上を歩くものとなった時、死人だからか息が出来ずに苦しかった恐怖を思い出しだ事による、単なる彼の体の反射行動だ。

 彼は殺された時の傷跡よりも、常に水の底に沈められているような窒息状態の方が辛く苦しかったのである。


 そんな彼の状態を救ったのは、彼の目の前のイラつく男だ。

 彼に与えられた薬を飲むと、死体でしかない青天目の体は生者同然に甦ったのである。

 但し、甦っただけでいつ死人に戻るか解らないために、彼は体に悪い物を絶っている。

 大好きだった酒に煙草にコーヒー、そして、チョコレートだ。


「ねぇ、長谷さん。俺の報告を読まないって、全て知っているのに俺に調べさせたって事ですか?それとも俺の調査結果などは目を通すまでもない稚拙なものだと?あなたは俺に一体何を望まれているのですか?ただの道化ですか?」


 長谷は一度コーヒーをティーテーブルに戻すと、内ポケットを探り始めた。

 彼はそこから銀色の煙草ケースを取り出してから、青天目をちらりと見上げた。

 青天目はぎゅっと目を瞑り数秒数えると、無駄だと思いながら長谷に灰皿は無いと言おうとして、数秒遅かったと思い知らされた。

 長谷は勝手に自分の携帯灰皿を使って吸っていた。かなり旨そうに煙を吸い込むと、彼は天井に向かってフーと煙を吐き出した。


「悪癖はなかなか直らないよね。君は吸わないの?ほんのこの間まではヘビースモーカーだったでしょう。最近はどこの飲食店も禁煙だから、喫煙者には困ったものだよ。」


「長谷さん!煙草はいいですから、俺の質問に答えてください。」


「君はせっかちだね。この報告書の中身?勿論知っているから君に調べさせたんだよ。物事ってね、起爆剤って必要なの。君が導火線で起爆剤。君がうろうろと調べて周ることで導火線をあちらこちらに引っ張ってきたんだ。起爆剤もいくつか設置してきたよね。」


「起爆剤、とは?」


 警察官でも刑事ではなかった彼の調査行動がたどたどしかっただろう事は認めるが、長谷のいう起爆剤となる行動を自分は取ったのかと、青天目は自分の行動をフルスロットルで回想し始めた。


「それを知るのは後のお楽しみにしようか。食べる?」


 長谷はいつの間にか煙草を吸い終わっており、いつのまにかどこからか取り出した小箱を青天目に向けて捧げていた。

 その小箱の中には、青天目の口の中で蕩けたがっている丸みのある長方形の魅惑的な黒く薄い板が、ぎっしりと並んで鎮座していたのである。


 長谷は手を出さない青天目にこれみよがしに残念そうに肩を竦めると、パタンと箱の蓋を閉めた。

 すると箱の蓋に描かれていたアカンベ顔の猫が青天目を見つめ、尚更に長谷に馬鹿にされているように青天目は感じたのである。


「あんた。俺に嫌がらせばかりは、俺に恨みでもあるのか?」


 わざとらしく溜息を吐いた二枚舌の男は、青天目が断った猫の舌という名のチョコレートを口に放り込み、摘んだ指先に軽いキスをするような仕草をした。

 西洋人が旨いという時にする、口元で指先を外側に跳ねる仕草だ。


 長谷は爆弾が「ボン」と破裂する音を口元で現すことで、フランス語の素晴らしいという「ボン」を表現して「おいしい。」と伝えているのだと彼に教えた。


 教えられて青天目は実は一人でやってみたのだが、その仕草は長谷のピアニストのように長く美しい指先によれば様になるが、不格好な太い指では彼のような軽やかな所作など出来る訳ないと再確認しただけであった。


「僕は君を喜ばせてあげたいだけなのにね。どうしてこの子はこんなにも反抗期なんだろう。お父さんは悲しいよ。」


 死んで存在を失った男が生き直したのならば、長谷が青天目の創造主と言い切っても過言ではないだろう。

 しかし青天目は奴隷の身の上ながら目を眇めて彼を見下すことで、こんな首を絞めたい父親など要らない、という意思表示が伝わりますようにと願うだけで精一杯であった。

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