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09#大賢者、パーティを組んでと詰め寄られる


 『ポルフェア』に来てからというもの、冒険者ギルドの受付嬢の信用を得た僕は少しずつ着実に依頼をこなしていった。


 初めは採取や小型モンスターの討伐。

 そして中型モンスターや大型モンスターなどの相手も任せてもらえるようになり、1人旅のための資金も蓄えられていった。

 本当に【ユニークスキル:孤高の大賢者】様々である。


 加えて受付嬢の評価は、冒険者ギルドの評価であると言っても過言じゃない。

 彼女たちの書いた報告書がそのままギルドに上げられ、冒険者データベースで保管される。

 だからどこかしらの街で確固たる信頼を得ていれば、他の街に行った時も依頼を受けやすくなるのだ。


 そんなワケで、僕の悠々自適な1人旅の地盤固めも順調……ではあるのだが……


「おはようございます、受付嬢さん」

「あら、おはようございますファルさん! 今日も依頼もあなた向けの依頼を用意しておきましたよ!」


 ニコニコとした笑顔で僕を出迎えてくれる受付嬢。

 僕が『ポルフェア』に来て半月――彼女とはすっかり仲良くなって、毎朝こんな感じで対応してくれる。

 対する僕は、相変わらずマスクで顔を覆ったままだけど。

 今更外すのも恥ずかしいし。


 どうにも依頼を確実に達成してくれる=必ず生きて戻ってきてくれる、というのは受付嬢にとって変え難い安心感があるらしい。


 また冒険者を無駄に死なせないというギルドからの評価にも繋がるらしく、彼女曰くWin―Winなんだとか。


 いやまあ確かに、互いの利益にはなってるんだけど――


「おい見ろよ……受付の嬢ちゃん、またあの怪しい奴をひいきしてるぜ……」

「噂じゃ、ソロでミノタウロスを倒したとか……。凄腕なのは間違いないらしい」

「俺はガーゴイルをソロで討伐したって聞いたぞ。しかも顔をマスクで覆ってるのは、エルフと竜人の混血なのを隠すためだとかなんとか……」


 割と露骨に受付嬢が優遇してくれるからか、それとも僕がソロで依頼を達成しまくるせいか、周囲の冒険者の間で僕は噂の種になっていた。


 なんかあることないこと囁かれてるし……

 なんだよエルフと竜人の混血って……そんな根も葉もない話どこから出たんだ……

 いや、ミノタウロスやガーゴイルをソロで倒したのは本当なんだけど……


 この感じだと、そろそろ街を移した方がいいかもなぁ……

 冒険資金も貯まってきたことだし、また誰かに目をつけられる前に――



「――――ちょっと、アンタが噂のソロ冒険者なの!?」



 ……なんて思った側から、僕を呼ぶ声が待合広場に響いた。

 そろり、と僕は後ろに振り向く。


「アンタでしょ! 最近ギルドの間で話題になってる、怪しい【魔装剣士】ってのは! やっと見つけたんだから!」


 そこに立っていたのは、1人の少女だった。


 クセのある銀髪を左右に結え、露出度の高い――いや、機動性の高いアマゾネスタイプの鎧をまとっている。

 年齢は僕とほぼ同じか、少し下くらい。


 かなりの美少女だが、男勝りで快活な性格だと顔に書いてある感じのザ・女冒険者だ。

 そんな彼女の背中には身の丈ほどもある分厚い大剣が背負われており、聞かずとも【剣士】だと主張してくれている。


 彼女は僕をビシッと指差し、


「ようやく会えたわね、じゃあ単刀直入に言うわ! アタシと、パーティを組みなさい!」

「…………はい?」

「アタシの名前はアルメラ・ヴァリエッタ! 見ての通り【剣士】をやってるわ! このアタシがパーティを組んであげるんだから、ありがたく思いなさい!」


 ……いよいよ来たか~

 いや、前にもパーティに誘われたことはあったけど。

 やっぱり有名になりすぎるのも問題だよなぁ。

 もう少し早く街を移すべきだったか……


 などと思っている内に、アルメラと名乗る女剣士はツカツカと歩み寄ってくる。


「アンタ、中々やり手の冒険者なんだってね。ソロで色んなモンスターを狩りまくってるそうじゃない。最近『ポルフェア』の冒険者ギルドは〝謎の魔装剣士〟の話題で持ちきりよ」

「はあ、そうすか」

「そこで、アタシの目に止まったってワケ。奇遇なことにアタシもソロだから、特別にパーティを組んであげるわ。喜びなさい、Aランクの【剣士】様に声をかけてもらえるなんて、滅多にないんだから!」


 アハハハハ!と腰に手を当てて高らかに笑い声を上げるアルメラ。

 なるほど、Aランクの【剣士】なのか。

 そりゃこの自信満々な態度も頷ける。


 僕はそんなAランク【剣士】様のありがた~いお誘いを、


「あ、結構です。そういうの間に合ってるんで」


 キッパリとお断りした。

 街の酒場前によくいるキャッチのお兄ちゃんをあしらう要領で。


「そうでしょう、そうでしょう! アンタとアタシならいいパーティに――――って、はあああああああああッ!? ア、アンタ、このアタシの誘いを断ろうっていうの!?」

「うん、僕は誰ともパーティを組む気はないよ。それに今のところ1人でなんとかなってるし」

「アタシはAランクの冒険者よ!? これでもちょっとは名の売れた【剣士】よ!? 足手まといになると思ってるなら屈辱だわ!」

「いや、そういうワケじゃなくて……」


 む~、と顔を真っ赤にして怒りを露わにするアルメラ。

 面倒くさいなぁ、こういうの……と思っていると、受付嬢が僕の背中をツンツンと突く。


「あの、ファルさん……このお誘いは受けて損はないと思います」


 意外や意外、彼女はアルメラの肩を持った。

 それは僕がワケあってソロで冒険していると知った上でのアドバイスなのだろう。


「この方、アルメラ・ヴァリエッタさんはかつて『星越えの旅団』という高名な〝クラン〟に所属していた冒険者で、その剣技はAランク中で最強とも言われています。少なくとも、この街で彼女を知らない人はいません」

「へえ、それはまた……」


 凄い人が出てきたモンだ。

 それに『星越えの旅団』って名前にも聞き覚えがある。


 通常のパーティと異なり、何十人もの冒険者でパーティを組むことで大仕事を専門に請け負う〝クラン〟。

 その中でも、特に大規模で危険な依頼を率先して請け負う手練れの集まりが『星越えの旅団』――だったはずだ。


 これまで古龍の討伐したとか、ゴブリンの異常繁殖を止めたとか、様々な逸話を聞く。

 記憶が正しければ、少し前に功績が認められてAランクからSランクへ格上げされたとか……


「その通りよ! そんなアタシに誘ってもらえるんだから、泣いて感謝するくらいが丁度いいわ! さあ、アタシとパーティを組みなさい! 今すぐ組みなさい!」


 もの凄い気迫で、距離を詰めてくるアルメラ。

 もう彼女の可愛らしい顔が目と鼻の先にあり、僕は少しドギマギしてしまう。


 この子にパーソナルスペースってモノはないのか……?

 いや、得てして冒険者って人種にはそういう人も多いけどさ……


 しかし――なるほど、そんなパーティに所属していたからには、さぞ実力のある【剣士】なのだろう。

 もし僕に【ユニークスキル:孤高の大賢者】がなかったら、願ってもない誘いだったけど――


 無理なものは、無理です。

 だって1人でいないとスキルが発現できないから。


「……悪いけど、僕は僕なりの理由があってソロで冒険してるんだ。キミがどれほど強くても、パーティを組むワケにはいかない。それに実力のある冒険者なら、他にもいるだろう」


 僕は待合広場へと目線を流す。

 そこには大勢の冒険者たちがおり、誰も彼もが僕とアルメラのやり取りを注視している。

 その中には当然、僕と同じBランクの冒険者もいるはずだが――


「嫌よ、だってアタシより弱いってわかりきってる奴ばかりなんだもの。それにむさくて髪の薄いオッサンばっかだし……!」


 一切オブラートに包むことなく、アルメラは大声で言う。


 ――そんな彼女の言葉は、待合広場にいる中年冒険者たちの心を深く傷つけた。

 特に頭髪が薄くなり始めた人はテーブルに突っ伏し、すすり泣いている。


 アルメラは高飛車だが間違いなく美人だし、「実力があれば俺もワンチャン……?」と思っていた彼らの夢が粉々に砕けたのだろう。

 合掌……


「と、とにかくお断りだ! 余所を当たってくれ!」

「いーえ、断らせないわ。アンタとパーティを組む、アタシはそう決めたんだもの」


 彼女はまるで退く様子を見せず、話を聞いてくれる気配もない。


 むむむ……こういう時は――

 僕はくるりと受付の方へと振り返り、


「あ、受付嬢さん、この依頼受けますね。それと何日か戻らないかもしれないです。じゃ、そういうことで!」


 適当な依頼書を持ち去り――僕は脱兎の如く走り出した。

 三十六計逃げるに如かず、困った時は逃げるに限るってね!


「あっ!? こ、こら逃げるな! このバカ――――ッ!」


 アルメラの声を背に、僕は『ポルフェア』の街を駆け抜けるのだった。


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