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08#大賢者、奮発する


 解体業者の中年男性から宿の話を聞いた僕は、さっそくその場所へと向かっていた。

 冒険者ギルドから少し離れた宿屋が並ぶ地域、その中に『マウンテン・ブルー』と書かれた青い看板の宿があった。

 ここだな、と僕はマスクを脱いでその宿へと入っていく。


「こんばんは、1人泊まれます?」

「いらっしゃいませー。お1人様ですね、大丈夫ですよー」


 おっとりとした感じの若い女性が給仕をしており、出迎えてくれた。


 宿の中は明るく小綺麗で、冒険者がよく利用する「安くて寝られればいい」みたいな宿とはまるで違う。

 雰囲気も落ち着いてて、ちょっとした高級宿らしさがある。


「それと、ここはハーブ料理が美味しいって聞いたんですけど、今から夕食の注文ってできますか?」

「勿論ですよー。食事はお部屋と食堂、どちらでお取りになりますかー」

「せっかくですし、食堂でお願いします。お腹空いちゃったので、できればすぐがいいですね」

「かしこまりましたー、ご案内致しますねー」


 給仕の女性は俺を食堂まで案内すると、座って待つように言う。


 食堂はテーブルが並んでおり、30人くらいならゆったりと食事ができる広さがある。

 僕以外にも食事を取っている者もちらほら見受けられ、香ばしい匂いが鼻をかすめる。

 どうやら皆話に聞くハーブ料理を頼んでいるらしく、これは期待できそうだと思わせてくれる。

 そうしてしばらく待つと――


「お待たせ致しましたー。こちらが『マウンテン・ブルー』名物、〝療薬草のクリーム・チキンソテー〟でーす」


 給仕の女性が大きな皿を持ってきて、テーブルに置いてくれる。

 皿に盛り付けられていたのは香ばしく焼き上げられた鶏肉で、ホワイトクリームソースがかけられている。

 さらに療薬草の他に数種類のハーブが乗せられており、その香りは独特な清涼感があって食欲をそそる。


「うわあ……いい香りですね……!」

「ソースには療薬草をメインに、バジルやローズマリーなど数種類のハーブをふんだんに使っているんですー。鶏肉も餌に療薬草を使った地鶏を使っているので、ウチ以外には出せない味なんですよー」

「鳥の餌から……! それは凄いですね、ではさっそく――いただきます!」


 僕はナイフとフォークを手に取り、チキンソテーを切り分けていく。


 ……つい数時間前にコカトリスを倒した後だと、なんだか色々と複雑な気分になるけど……この香りには逆らえない。


 そして一口大にしたチキンを口の中に放り込むと――外側はパリッと、中はジューシーに、さらにクリームソースの濃厚な味わいとハーブの匂いが口いっぱいに広がり、多幸感で満たされる。


「お……美味しい……! ポーションの材料として使われる療薬草の風味が、こんなに鶏肉と合うなんて……!」

「お気に召して頂けたみたいで光栄ですー。おかわりもあるので、どうぞごゆっくりー」


 僕は無我夢中でチキンソテーを口へと運んでいく。


 冒険者なんてやってると、普段の食事は簡素で味気ないモノになりがちだ。

 それこそ街から離れたダンジョンやフィールドにいれば、干し肉や硬いパンだけで朝昼夜を過ごすことも多い。

 ましてや、僕が所属していたジョエルのパーティはお世辞にも資金に余裕のあったワケでもないため、依頼を達成して街に戻っても豪勢な食事を取れることはほとんどなかった。


 だけど今は、こうしてちょっとした贅沢ができる。

 いやあ、リトナに聞かれた時「冒険者を諦める」って言わなくて、つくづくよかった。

 僕はそんなことを思いながらチキンソテーを平らげ、おかわりを要求した。



◇ ◇ ◇



 夕食が終わって部屋に案内された僕は、ふかふかのベッドに身体を放り投げる。

 解体業者の中年男性が言っていたように、部屋の中も小綺麗で快適。

 安い宿の小汚くて狭い部屋とは大違いだ。


「ふあぁ……食べた食べた……。まったく、これが理想の冒険者ライフってヤツだよなぁ」


 ベッドに寝そべって、僕はそんなことを呟く。


 ちなみに宿泊代&食事代の額を見せてもらったが、やはり相応の値段ではあった。

 ジョエルたちのパーティにいた頃だったら、よほど大きな依頼をこなした後でもなければ泊まることすら不可能だったろう。


 しかしコカトリスの素材代で懐に余裕がある今なら、ちょっと奮発するくらいの感覚で済む。

 いやはや、〝ユニークスキル〟の有無でこれほどまでに生活が変わるとは……


 ――僕はつい数日前まで無能と罵られ、辛い冒険者生活の果てにパーティをクビなった。


 それが【ユニークスキル:孤高の大賢者】を開放し、1人旅を始めた途端にどうだ。

 これまで強敵だったモンスターを苦もなく倒し、その素材から得た資金で美味しいご飯を食べ、悠々自適な冒険ライフを満喫している。


 1人旅、マジ最高。

 パーティと一緒にいると色々なことに気を使ったり、自分を押し殺してしまうこともたくさんあった。

 それは勿論、僕に〝ユニークスキル〟がなかったことや、それでも冒険者でいようとしたことが原因ではあるけど……こうしていると、我慢してばかりいるのは必ずしも正しくはないんだなって思う。


 これまでの努力が実ったからこそ〝ユニークスキル〟が開放されたのか、それとも努力や悩みに意味はなかったのか、それはわからないけど――なんにせよ、今はこの幸福を享受させてもらおう。




 ――この時、僕はまだ知らなかった。


 最強とすら呼べる〝ユニークスキル〟を開放させた僕が、1人で冒険をする――それがどんなに難しいか。


 そして〝1人でいる限り〟という条件を満たすのが、どれほど厄介なのかを――


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