07#大賢者、予期せぬ収入を得る
森で療薬草を集めた僕は、さっそくギルドに戻ってきていた。
「すみませーん、依頼品の受領おねがしまーす」
「あ、お帰りなさい。早かったですね」
「そりゃまあ、草を集めてくるだけですから……。はいコレ」
僕が療薬草がたらふく詰まった袋を差し出すと、「確かに、受け取りました」と受付嬢は受領サインを書いて報酬金額を渡してくれる。
――これが、僕の悠々自適な1人旅最初の依頼達成だ。
本当に小さな1歩だけど、ここから実績を積み上げていこう。
「ありがとうございます。……ところで、モンスター素材の換金ってどこでできますか?」
「素材ですか? ちょっとした物ならここでも換金できますよ」
「お、それじゃあ――」
受付嬢の言葉を聞いた僕は、時空魔術の1種である〈マジック・ストレージ〉を発動。
アイテムを収納できる亜空間の中に手を突っ込み――
「ちょっと加減できなくて丸焦げにしちゃったんですけど、コカトリスのまだ使える部分を買い取ってほしくて……」
むんず、と黒焦げになった巨大コカトリスの頭を掴み出した。
あ、もちろん鶏の頭のほうね。
「きゃああああああああっ!? こっ、コカトリスぅ!?」
「お、落ち着いてください! もう死んでますから!」
コカトリスを見るなり絶叫する受付嬢。
僕はなんとか彼女を落ち着かせ、深呼吸させる。
「こ、これを、お1人で倒されたのですか!? Bランクパーティでも苦戦するモンスターなのに……!?」
「ええ、まあ楽勝……だったんでしょうね、アレは」
楽勝というか、ほぼ一方的な虐殺だった気もするが。
スキルの力を試すためとはいえ、正直コカトリスが可愛そうに思えてしまう。
自分でも自分の力が信じられないよ、ホントに。
「す、凄い……! あなた様は、もしやかなり高名な冒険者だったのでしょうか!?」
「あはは、僕は気ままな1人旅を始めたばかりの、しがないソロ冒険者ですよ。でもコレを見て、少しだけ依頼を回してくれたら嬉しいかなって」
「も、勿論です! これからもよろしくお願いします!」
どうやら、受付嬢の中での僕の評価は上手いこと上がってくれたらしい。
これは幸先がいいぞ、しばらくの間は仕事に困らなそうだ。
「それじゃあ、素材の買い取りを――」
「あ~! 待って、待ってください! コカトリスの素材なんて、いくらなんでも受付では無理です! 建物の裏手に専用の窓口がありますから、そちらでお願いしますぅ!」
ここでコカトリスを捌かれ始めては堪らないとばかりに、受付嬢がストップをかける。
なるほど、一度建物から出て裏に回り込めばいいのね。と僕は受付カウンターから移動した僕は、建物を出て裏路地へ入り、裏手へと向かう。
すると、確かにそこにはモンスターの解体に使うらしき小さな小屋があった。
「あの~、ここでモンスター素材を買い取ってもらえると聞いたんですが」
「ん? おお、お客さんかい。どれ、なにを持ってきたんだ?」
小屋の中を覗き込むと、そこにはオーバーオールに白エプロンという出で立ちの解体業者らしき中年男性がいた。
他にも室内には所狭しとモンスター素材が置かれており、買い取りだけでなく販売もしているのがわかる。
僕はそんな中へ入っていくと、
「ええ、コカトリスを1匹……」
再び〈マジック・ストレージ〉からコカトリスを引っ張り出す。
ちなみに、僕よりも巨大なコカトリスを簡単に動かせるのは魔術で筋力を強化しているからである。
この強化だけでも並の接近戦闘職より強くなれそうではあるんだけど、なんだか【魔術師】のアイデンティティが崩壊しそうだから深く考えないようにしている。
「うおぉ!? コイツは大物じゃねぇか! そ、それでどこを売りてぇんだ?」
「使えそうな部分は全部。もう丸焼きになっちゃってるけど、少しでもお金にしたくて」
「ふーむ……確かに羽毛や皮はダメだな。石化の魔眼――は質が落ちるけどイケるか。蛇尻尾の毒牙は問題ない。あとは中身だが……一緒に見るか?」
中年男性は解体用の大きな包丁を持ち出し、ニヤニヤと笑って聞いてくる。
「い、いや、そういうのは苦手で……」
「なら外で待ってな。安心しろ、ぼったくったりしねーよ」
その言葉を信じ、しばし小屋の外で待つ僕。
……今この間にも、中でスプラッターな光景が広がっていると思うと恐ろしい……
いや、冒険してればそういうシーンに出くわすことは少なくないんだけど……僕はあんまり耐性がないんだよ……
しばらくして――
「おい、入っていいぞ。解体が終わった」
小屋の中から中年男性の声が聞こえてくる。
その言葉に誘われて中へ入ると、そこには綺麗さっぱり解体されて部分別に分けられたコカトリスの姿があった。
血痕もあまり残ってなくて、どうやら気を使ってくれたようだ。
「ガワや肉はダメだったが、特殊部位や内臓系は大体無事だったよ。コカトリスの毒袋は毒矢に使えるし、肝臓・砂肝・ぼんじりなんかは食材になる。魔眼や毒牙なんかも含めて、全部で2万ギルってとこだな」
「! そんなに……!」
それは嬉しい驚きだ。思っていたよりかなり数字が大きい。
もしこれが4人パーティだった場合、僕のリアクションも変わったものになっただろう。
2万ギル――と聞くとそれなりの大金になるが、パーティを組んでいれば当然人数分で割り算される。
仮に4人パーティだった場合、2万ギル÷4=5000ギル。
数日分の飯代&宿代・アイテムの調達・武器防具の整備費――それら諸々の経費を換算すると、5000ギルなどすぐに吹っ飛ぶ。
新しい武器防具を買うのも難しい額なのだ。
依頼の達成による賞金も含めて、やっと黒字になるくらいだろう。
――それが2万ギルをそのまま貰えると考えると、話が変わる。
単純に稼ぎが4倍。4人分の費用が1人に入ってくるということ。
加えて、普通なら高ランクのモンスターを倒すのに高価な武器やアイテムを使うことになるから、入出金はトントンくらいになるはずなのだが――僕の場合は【ユニークスキル:孤高の大賢者】の恩恵で、魔術1発で即終了。
つまりモンスターを倒せば倒すほど、出費が全然ないのに大きな収益が入ってくるのだ。
今だって2万ギルもあれば、しばらく余裕のある生活ができるだろう。
――やだ、僕の〝ユニークスキル〟最高……!
「全部こっちで買い取っていいんだよな? 今、精算額を持ってきてやる」
「ああ、頼むよ。――あ~っと、ところでこの辺りでオススメの宿はあるかい? まだこの街に来たばかりでさ」
気付けば、外は日が落ち暗くなりかけていた。
正直「宿なんて適当に取ればいいや」と思っていたけど、予想外の収入もあったことだしちょっとくらい贅沢してしまおう。
1人旅のお祝いを、僕自身で行うって意味でも。
「ああ、それならいい場所があるぜ。宿も快適なんだが、そこは飯が最高でよ。『ポルフェア』周辺で採れた鮮度のいい療薬草を使ったハーブ料理を出してくれるんだ。マジで絶品だぞ」
「へぇ、ハーブ料理か」
それは美味しそうだ。
――よし、今夜はその宿に泊まるとしよう。




