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拝啓、梟のあなた  作者: 奥山柚惟
Chapter 3- 鴉、燕雀の双子、血と酒とガラスの破片
9/20

3-1

 石造りの建物特有のヒヤリとした空気が、カラス面に隠れていない頬を撫でる。

 普段足音を立てずに歩くクロウだが、今だけは黒い革のブーツをコツコツと鳴らして廊下を歩いていた。窓の木枠から射し込む光がマントをたなびかせるクロウの姿を不気味に彩る。


 堅牢な大扉の前まで来たところで、クロウはひとつ深呼吸した。

 そして黒手袋がノッカーを叩き、重い扉を押し開ける。



「ああ、来たか。遅かったではないか、私の〈鴉〉よ」



 背後で扉が重々しい音を立てて閉じるのを聞き、クロウは片膝をついて(こうべ)を垂れた。



「申し訳ありません、王よ。〈梟〉の回復に一晩を費やしておりました」

「うむ」



 彼に似つかわしくない慇懃な口調に、明かりの少ない謁見の間の最奥で玉座に着く人物は満足そうに頷いた。



「愛しい私の〈梟〉の様子はどうだね」

「……“ネクロ・メモリア”の発動はまだ可能です。今日は休ませるべきでしょうが、少なくとも近日中に()()()ことはないかと」

「そうかそうか。それはよきこと」



 機嫌よく頷きを繰り返していた王は、突如口調を鋭いものに変えた。



「それで……“言霊(ロゴス)”は見つかったか」



 探るような王の目線を感じつつ、クロウは顔を上げて面越しに王を真っ直ぐ見る。



()()()()()()()()()()()()()



 否定を最後に会話が途切れる。長い沈黙が部屋を支配した。


 王は“他者支配”の固有魔法を持っている。王が跪けと言えば跪き、死ねと言えば死ぬ。王の質問には正直に答える。それを強制する魔法だ。

 だからクロウは毅然とした態度で王に相対する。平気な顔をして()()()()()()()


 やがて魔法の気配が途切れ、王が小さく息をついた。



「〈鴉〉、お前はいつも正直者だな。私が信用できるのはお前だけだ」

「は。ありがたきお言葉」

「しかし“ロゴス”は早く見つけねばならぬ。あれは何としてもわが手に収めねば。よいな、〈鴉〉」

「御意に」



 マントを翻し、クロウはその場を辞して大扉を再び押し開けた。その背を王の声が追いかける。



「昨夜のクーデターの働きは見事であった。〈梟〉、〈鷹〉ともども褒めてつかわすぞ」

「光栄です、王よ。同僚二人も喜ぶでしょう」



 見せている口を微笑みの形に作り、クロウは扉を閉めた。











(あー……くっそ、肩凝るぜあんちくしょう)



 再び廊下を戻るクロウは心の中で毒づいていた。

 王の前では余計なことを考えない。万一思考を読み取られていては面倒だ。同僚で()()のオウルに“ロゴス”でプロテクトを掛けて貰ってはいるが、用心を重ねるに越したことはない。



(あのコレクターキングめ、いちいち仰々しい真似しやがる。面倒くせえ野郎が)


「クロウ」



 突然背後から声がして、クロウは足を止めた。

 顔を覆う面は(わし)──諜報員たちの上司、〈(イーグル)〉だった。



「あ、どうもお久っス。お変わりねえようで」

「相変わらずだな、お前は……」



 そう呆れるイーグルの口元は皺が見える。顔を見たことはないが、恐らく初老の男だろうとクロウは踏んでいる。



「どうだ、オウルの調子は」

「あんたも王とおんなじこと聞くんだな」

「私はあの子自身を心配しているのだよ。昨晩無理をしたそうじゃないか」

「……まあな」



 昨晩と聞いてクロウの口の端がピクリと引きつる。

 それを見逃す鷲ではなかった。



「何だ、とうとう手を出したのか」

「出すかよ、冗談じゃねえ。そんなことしたらバラバラにして森に撒くって脅されたぞ、オレは」

「ホークから二人はいい仲なのかと訊かれたのでな、もうそういう雰囲気なのかと思ったのだが」

「あんたも大概色ボケじじいだよ……」



 昨夜の任務中の同僚を思い出し、溜息が漏れる。イーグルは穏やかな声で笑った。

 その穏やかさをオウルの前でも出してやればいいのに、とクロウは内心で呆れていた。裏では何かとオウルを気に掛けている上司は、いざ本人を前にすると厳格な人物を装う。



祖父(おじいちゃん)でも気取ってんのか、このじじいは)


「今失礼なことを考えなかったか?」

「いいや、気のせいですよ。さてオレはパトロールにでも行って来ますかね。この先国内もいくらか荒れそうだ」

「……クロウ」



 去ろうとするカラスに、鷲が声をかける。



「……オウルを、頼む」

「当たり前ですよ。これでもあんたには感謝してんだよ、()は」



 カラスは珍しく柔らかく微笑んで、開け放たれた窓からヒラリと飛び降りて姿を消した。一人残されたイーグルは「ドアを使え」と呆れた一言を口にし、



「…………すまない」



 深く、一礼をしたのだった。

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