「次は総力戦になるな」
才蔵から前線の状況報告があった。
先行していた後藤又兵衛隊三八〇〇は伊達の先発隊と遭遇する。
又兵衛隊は予定通りすぐに引き返すも、伊達軍は素早い動きで又兵衛隊の追撃を開始、戦いが始まってしまう。
望まぬ形で開戦、鉄砲を撃ち込まれた。
又兵衛隊もすかさず銃口を向けて追い払い、自軍の秩序を守ろうとする。さらに後方の幸村隊らとの合流を目指して、周囲の敵を振り切ろうと決死の攻撃を加える。すると思わぬ又兵衛隊の猛反撃を受けた伊達隊の先陣が一気に壊滅。
それを見て勢いを得た又兵衛はなおも攻撃の手を緩めなかったため、伊達隊は混乱状態に陥り、前線の敵将が討ち死にする。
しかしほどなくして新手の伊達隊が到着。
又兵衛は勇猛果敢に突撃を指揮していたが、銃撃され負傷してしまう。
幸村や勝永隊の到着が遅れ、逆に伊達軍の新たな鉄砲隊など、数倍以上となった周囲の相手に対し突撃を継続したため、乱戦になってしまった。
だがやっと駆け付けた幸村隊が反撃を開始、又兵衛を危機から救い出した。満身創痍の又兵衛は幸村に声を掛けられ、ニヤリと笑ったという。
さらには勝永隊も駆けつけ、長曾我部隊が左方向から、義弘隊が右から攻撃すると挟み撃ちとなったため、伊達隊は総崩れとなり敗走を始めた。
「伊達軍は全てが戦闘に参加していたわけではないようですが、かなりの被害が出たと思われます」
「そうか、幸村達には全軍いったん浜松城まで戻ってくるよう伝えろ」
「分かりました」
帰ってきた幸村の話を聞くとこうであった。
伊達政宗 被害甚大と思われる。
豊臣軍側
豊臣秀矩 被害一〇〇。(毛利勝永)
真田幸村 被害二〇〇。
後藤又兵衛 被害一五〇〇。又兵衛は重傷の為、これ以降戦闘には参加できなくなる。残された兵二三〇〇は幸村隊に組み入れられる。
長曾我部盛親 被害軽微。
島津義弘 被害軽微。
「数日の内に、今度は徳川方全軍が一気に渡河するようです」
才蔵が報告してきた。
「そう来るか」
「殿、いかがなされますか?」
幸村がおれの顔をじっと見ている。
「待とう」
「待つ?」
「そうだ、ただし二俣城の手前で待ち、囲むなどといった小細工はもう通用しないだろう」
「はい」
「次は総力戦になるな」
「…………」
いよいよ家康殿との全面対決だ。兵力はほぼ拮抗している。信玄公以外に野戦では敗れた相手がいないと言われる老練な戦人に、どれだけ太刀打ち出来るのか。
「才蔵」
「はっ」
「今後も徳川軍の動きをよく見張れ」
「かしこまりました」
「幸村」
「はい」
「酒を用意せよ」
「酒ですか?」
「そうだ」
「――!」
目を丸くした幸村が言いにくそうに聞いてきた。
「殿がお飲みになる……」
「そうではない。全軍に行き渡るようにせよ」
「しかし――」
「この数日の内に、徳川勢は全軍一気に渡河するという」
「…………」
「だとすれば、それまでは仕掛けてこれまい。皆英気を養い、一日ゆっくり休ませろ」
幸村はにやりと笑い、
「分かりました」
「それから、下戸を選んで見張り隊を組織しろ。念のためだ」
「かしこまりました」
「ふう、腹が減ったな……」
「…………」
「佐助はどこだろうか」
おれがきょろきょろしていると、
「殿、握りは先ほど召し上がったばかりかと」
「え、そうだったか?」
「はい」
「そうか、じゃあもう少し待つか」
「佐助に何か御用でも?」
「あ、いや、そういうわけでは、ない」
「…………」