彼女はおれと同い年だった。
当初の主題である江戸城攻撃から少し離れていきそうな気配になってきました。
短編で終わる予定だったのですが、続きを書き始めたら変わってきてしまったわけです。
でもまだ最後になるまで自分でも分かりません。
秀頼の事も書かなくてはと思うのですが、何しろ彼はまだ十歳ですから戦は無理ですし、何を書いたらよいか分かりません。淀殿と同じで、あまり表に出てこなくなりそうです。
江戸からの情報では、家康殿と伊達政宗殿が度々会っているという。あの二大勢力がそろって豊臣勢に立ち向かってくれば面倒なことになる。
何をしようとしているのか。
大阪冬の陣は方広寺の鐘銘事件だけが理由ではないだろう。家康殿は既に六十一歳。秀吉の亡くなった歳まで来ているのだからこの時代ではもう最晩年ともいえる。
もっと若ければ決して軽はずみに動くことはないだろうが、焦りはあるはずだ。政宗殿と同盟が出来れば、必ず江戸を出てくるに違いない。
徳川家は内部に問題を抱えている。秀忠殿とその弟・松平忠輝殿の仲は険悪、政宗殿は未だ天下取りの野望を捨ててはおらず、忠輝殿を擁立して反旗を翻すことも懸念される。一枚岩などではないのだ。自分の代で決着を付けたいはずだ。
家康殿は自身の老いと寿命、そしておれ秀矩の意外な実行力とを照らし合わせ考えると、彼はどこかの時点できっと勝負に出る。江戸での籠城戦などもうしないだろう。
「幸村」
「はっ」
「遠州の地図はあるか」
「御座います」
先の戦で勝ち取った城はそれぞれ新しい城主を決めていたのだが、こうなると徳川勢との最前線の意味合いが強くなってくる。
だが駿府城は江戸城の約六分の一位で、掛川、浜松城はそれに比べると更に小さな城であった。
一時的な防衛拠点にしかならない可能性が高いのだが、それでもそれぞれの城に戦に備えた改築を命ずる必要がある。
福島正則 浜松城主
増田長盛 掛川城主
池田輝政 駿府城主
地図を見ると東に駿府城、中央に掛川城、そして西に浜松城だ。掛川城を挟んで天竜川と大井川が流れている。
この地図上の何処かが次の戦場になる。
おれは幸村の視線を感じながら三方ヶ原を見つめた。家康殿が武田軍と戦い大敗を被った戦場だ。彼はこの地に詳しい、此処での戦いに依存はないだろう。いずれにせよこの遠州の何処かが家康殿との決戦の場となるに違いない。
「幸村」
「はっ」
「諜報活動をしている者を何人か呼べ」
「それはかまいませぬが……」
「どのような者らか一度会っておこう」
「分かりました」
「面を上げるがよい」
おれの前でひれ伏している二人の、片方に声を掛けた。
「名は何という?」
「才蔵と申します」
身なりは粗末だが、しっかりした体躯で眼光鋭い男がもう一度深々とお辞儀をした。
「この者は霧隠才蔵、忍びの頭をしております」
幸村が言葉を添えた。
「うん」
おれはうなずき、次に隣の者に目をやったのだが、なぜかその華奢な身体つきに違和感を覚えた。
「その方の名はなんと申すのだ?」
「佐助と申します」
顔を上げ、透き通るような声で答えた。
「そなた……、おなごではないか!」
「はい」
そう言いながら見つめてくる。おれはなぜかドギマギしてしまった。
「歳はーー、あ、いや、違った、分かった、うん」
「…………」
何が分かったのか、支離滅裂な言葉を発してしまった。
その後は何を話したのか、まったく覚えていない。後で幸村にこっそり聞くと、彼女はおれと同い年だった。