「佐助!」
大阪から大砲も届き、ついに江戸城攻撃の火ぶたが切られた。
「火矢隊は前に進め!」
三人一組の火矢を携えた兵士達は身体をかがめながら進んでいく。城壁の銃眼からは断続的に銃声が響いているのだが、盾に当たり鋭く高い音がするだけで兵士の被害はほとんどない。
矢の射程距離まで近づくと、射手は片膝をつき弓を引き絞った。一度に数十本の火矢が次々と射られていく。表門は外しようのない大きな的だ。たとえ外して門を超え城内に入った矢でも、それはそれで有効なのだ。
やがて数百本もの火矢が当たった門は炎上し始めた。
「ひけ!」
火矢隊に後退命令が出る。今度は大砲の出番だ。大砲の周囲に居る兵も盾で守らせる。何度か撃つ内に狙いが定まってくると、正確に門を砲撃出来るようになった。
だがどうやら内側で木材等を運び、門の補強を始めた気配がする。燃えてしまってはどうしようもないはずなのだが……
「火矢隊、前に」
再び火矢隊に出動命令が出た。
「上に向けて放て」
門の内側に狙いをつけさせた。
火矢が次々と弧を描い飛んでいく。やがて表門の内側からも火の手が上がった。
火は二晩燃え続けてやっと消え、面倒な燃えがらを砲弾が吹き飛ばした。
他の表門も同じような状況だと報告が来た。
「進め!」
再び鉄砲隊と火矢隊の突撃が始まった。
通路を直角に曲がると、第二の門が見えてくる。ここでも火矢隊が門に向かい矢を放ち、鉄砲隊が援護する。やはり盾が威力を発揮した。うまく隠れさえすれば、ほとんど被害が無い。
しかしこの門の前まで大砲は持ってこれないから、火矢で焼け落ちるのを待つしかない。だが門が赤々と燃えているため、夜間の攻撃にも支障はない。
何度か後退し、また攻撃を加えていく。狭い通路で大勢の鉄砲隊は入ってこれない。さすがにここは激戦になった。
しかし、城兵の様子に少し変化が見られ始めた。攻撃を開始して既に五日が経過している。その間昼も夜も区別ない、絶え間なく続く豊臣方の攻撃にさらされ、守備兵に疲れが見え始めたのだ。反撃の銃弾が乱れ、間隔が開き始めたのだった。
一方攻撃する豊臣方は二万づつの兵が交代で行っており、残りの兵は十分休養を取っている。
「敵の動きが散漫になってきているぞ。突撃せよ!」
次々と繰り出してくる鉄砲隊の銃弾に、敵は明らかに押されている。
ついに第二の門が突破された。
勢いづいた豊臣勢は次の門に向かい殺到する。
ところが、ここで意外な事が起こった。第三の門が開き始めているではないか。
その門を開けているのは、
「才蔵」
才蔵が内側から門を開いていたのだ。
だが、その時、とどろいた一発の銃声音。才蔵の身体が不自然に傾く。
「才蔵!」
味方の連射で敵の射手が倒れた。
駆け寄ったおれを見た才蔵は、
「秀矩さま……、遅くなりました……申し訳……」
そのまま崩れ落ちる才蔵をおれはしっかり受け止めた。
「くっそおっ!」
脇を走っていく豊臣軍の後を追い夢中で走り出す。
今度はついに最後の門だが、見ると第四の城門も開かれている。だがそこに居たのは、
「佐助!」
「殿」
その時、再び乾いた銃声音。重い門を押していた華奢な身体がよろめく、
「佐助、なんて事をしたんだ!」
佐助に覆いかぶさったおれは、
「大丈夫か!」
「殿」
「どこだ、どこを撃たれた?」
「殿!」
「なんだ」
「敵の鉄砲隊など、とっくに逃げてしまいました。あの銃声は味方の発砲です」
「はんっ?!」
頭を上げると、周囲には豊臣の兵しかいない。
「殿、あの、……私の足を踏んでます」
「あっ……」