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05 ではマイフレンド

「うおおーっ、まじかーっ」

 とある屋敷の豪華な玄関(いりぐち)で、オレンジ色の(ロングボブ)をかきむしる少女がいた。

 王宮で募集されていた騎士団の追加人員の、入隊試験結果を受け取ったのだった。

「両親に兄貴まで騎士団出身で、鍛えられまくったこのオレが、まさか落ちるとは……」


 屋敷の階上から声がかかる。

「あきらめろラケース。お前には才能がない」

 彼の顔にはあざがあった。腕に包帯も巻かれており痛々しい。


 振り返った凛々しい顔つきの少女は、キッと目を向けている。

「昨日の試合だって、兄さんに勝ったじゃないか!」

「入隊試験は適正を見るんだって言ってるだろ。試験官に本気で大技を繰り出す考え無しは不採用だ!」

 階段を下りる兄の目は冷たい。


 全く意に介さない様子で言葉を返す。

「それって、負けたのを根に持ってるだけじゃ?」

「騎士団には、チームワークが必要なのだ。人の言うことを聞かない、突出した体力バカはかえって邪魔となるのだよ!」

 手の焼ける妹に説明するこぶしに、力が入った。


 手を頭の後ろに組んで、むくれるラケース。

「テュラルト様だって、似たようなもんじゃん。隊員になって、凱旋をお迎えしたかったのに……」

「お前が憧れるのはわかるが、団長(あのかた)は実績があるし特別な存在だ。冒険者時代から騎士団の指南役も務め、Sランクまで昇り詰めた方なのだぞ?」

 (何で自分が今更こんな説明を……) と思いながら、何度伝えても理解できない妹をたしなめる。


「わかった! オレもSランク冒険者になればいいんだな!」

「はぁ? じゃぁ、なってみせろよ、なれるものならな!」

 (全然関係ないけどな!) と思いながら、あえてラケースの考え違いを訂正しない兄であった。


「なってやるさ! 見てろーーっ!」


 勢いに任せて飛び出した(ラケース)を見ながら、疲れた様子でため息と共につぶやいた。

「本物のバカじゃないはずなんだが、どうして直情的に視野が狭くなってしまうんだ。……まぁ、いい厄介払いになるか」



 王宮の執務室では、国王(トクマク)宰相(ガイトル)が、カレンに出すクエストについて作戦会議を行っていた。

「しかし兄者(ガイトル)、どうするつもりなのじゃ? やはりちゃんと話をした方が良いのでは……」

「そうですなぁ、ですが王国制の廃止についてはいまだ計画の段階。いかに姫様であろうとも伝える訳にはいきますまい」


「なるべく有利な内に良い相手に嫁がせたいものじゃがなぁ」

「まずは姫さまの独立を阻止するのが先決でしょう。

 ですのでクエストについては実行可能と思える内容にしておきましょう。

 納得させた上であきらめていただかないと、後を引きますからな」


 トクマクは兄弟モードに入っていたが、ガイトルは普段のお役目モードを保っていた。


 公務において、考案は基本的にガイトルに任せており、トクマクはそれを採択する事が多かった。

 いつの間にかそういった役割分担ができていたのだ。


「うーむ……。それでは、クエスト中に妨害するという事じゃな?」

「そうですな。しかし近衛や騎士団を用いて妨害しては、納得させる事は難しいでしょうなぁ」


 ガイトルには既に策があるようだった。

「一体どうするというのじゃ。もったいぶらんで聴かせてくれ」

「ははは、いいですか。カレンには『試練を与えるから、障害も含めて乗り越えろ』と伝えましょう」

 立ち上がり、考えを伝え始めるガイトル。説明には順を追って、というのが彼のスタイルだった。


「なるほど」

「そして、試練を与える役を一般から公募するのです。一般と言っても、ある程度財力のある、近隣の貴族に『もし姫を捕らえたら、姫に結婚を申し込む機会(チャンス)を与える』と」

 ガイトルは、まるで片手にキャベツでも持ってるかのような手つきで、説明を続ける。


 トクマクは聞いた話を、さらさらとメモっていく。

「な、なんと……。そのような案が」

「参加者にはルールを与え、順番に姫を襲わせましょう。手荒な事をして姫を傷付けでもしたら失格の上ペナルティ。さらに、参加する者からは参加費を徴収しましょう」


 ガイトルは続ける。

「それにより、我が国の財政も多少は補填されますし、姫が旅に出ることも無く、金持ちかつそれなりの者と結婚するきっかけとなる事でしょう」


 トクマクは筆記具から手を離し、宰相(ガイトル)に向きなおった。

「おおお、やはり兄者(ガイトル)は金の事になると頭が回る!」


「「わっはっはっはっは」」

 見つめ合う二人は、いつもの高笑いをするのだった。



 カレンは私室で、冒険に向けてのパーティー構成に思案していた。


「同行者は自分で集めろって言われてもねぇ……」

「冒険者を雇いますか?」

 クーカリナは呼び出し(おこごと)をくらったカレンから状況を説明され、話し相手になっていた。メイドの務めもあるのだが、割りと自由な時間も与えられているのだ。

 それは、クーカリナがご学友のメイド(おつき)という役目も兼ねているからだった。


 カレンは、胸元まである黒髪の頭をひねりながら、自分の考えをクーカリナに伝える。

「うーん、冒険者には報酬が必要だから、できれば避けたいかな。似たような目的を持つ人を探して、一緒に行けるのが理想ね。冒険者ギルドで、メンバーを募ることはできるかしら」

「なるほどー。でも、いきなりは難しいと思いますわ」

 水色ショートカットのクーカリナの髪は、濃紺のメイド服によく似合っていた。


 カレンはさっぱりと言い放つ。

「ま、私は最悪一人でも出かけるけどね」

「えっ、私は?」

 クーカリナは驚いて確認する。いつも人を振り回すカレンである。当然今回も、無理やりにでも連れて行かれるものと思っていたのだ。


「いくら幼なじみでおつきのメイドとは言え、無理強いはしないわよ。こういうのは自主性が大事だから」

「あう、あう」

 長年のつきあいである。カレンはクーカリナの事を友人としてもメイドとしても信頼していたが、まるで手下のように従わせてもいた。


 なので、いつものように指示すれば、付いてくるはずであった。

 しかし今回は……。クエストには、カレンの独立がかかっているのだ。無理を言ってついてこさせるのは違うと思っていた。


 とは言えメンバーとして加わってもらわなければ困る。

 なので自分で選んでもらうことにした。


「ついてきてくれると嬉しいし助かるけど、私が頼むとあなたは着いてきてしまうでしょう? まだ時間はあるから、自分がどうしたいかを考えて、決めたら教えて欲しいの」


 無意識ではあったが、クーカリナがこういう揺さぶりに弱い事を知っていた。また、自分から選ばせる事によって、身が入るという効果にも期待していた。

 カレンは父親よりも叔父に似て、策士が向いている——その片鱗だった——のかも知れない。


「自分が……どうしたいか……」

 今回のクエストはカレンにとっての転機であったが、クーカリナにとっても、初めて自分と向き合うきっかけとなるのだった。



 冒険者ギルドに向かう二人(カレンとクーカリア)は町娘姿になっており、カレンは髪の色も金髪に変えていた。

 クーカリアはカレンの外出時に、同行を義務づけられている。

「いつもの事とは言え、髪の色と服だけで、バレないものですねえ」

「髪型も違うわよ」


「素行が乱雑で外向きのイメージ(ねこっかぶり)と、かい離してるからかも知れませんけど」

「一言多いのよ」

 王女相手ということで萎縮することもなく、自然に相対してくれるクーカリナを、本気で怒ることは無い。むしろ好ましく思っている。カレン自身も自然にしていられるのだ。


「で、あなたは本当に私とパーティーを組むってことでいいのかしら?」

「そうですね。カレン様をお守りしたいというのもありますが、メイド以外の事もやってみたいのです。何をって事は今は無いですが、旅をしながら見つけられればと思いますし」


 カレンは自分に係わる者たちを、無意識の内に振りまわしている事について実感はしている。

 後から周りの反応を思い出し、またやっちゃったかもと感じる事が多い。

 それはクーカリナの動向を決めた時も同様だ。


 クーカリナの回答を得て、今後も変わらず付き合ってくれる様子に安堵する。


(ほんと、素直でいい娘よね。自分勝手な私と違って……。この娘が一緒(おつき)で良かったわ)

 カレンは軽く微笑んだ。



「さて、冒険者ギルドに来てはみたものの……」

「いきなりは無理だって言ったじゃないですか」


 喧騒で埋め尽くされた冒険ギルドは、冒険者でも無い者がいきなり仲間を誘えるような雰囲気では無かった。


「確かに冒険者でも(けいけんの)あるクーカリナ(あなた)の助言だったけど、来てみないと、作戦も練られないからね」

 厳密にはクーカリナに冒険者の資格はあったが、冒険者として働いた事は無かった。メイドの仕事で国外に出る事があり、その時に便宜的に取得し、知識を得たのだった。


「さっきも言いましたが、仲間を募る時は、普通まず冒険者になって、同じレベルのパーティーを募集して、クエストを受け、お金を稼ぎながら冒険者ランクを上げる事を目指すんです。そうで無く単に旅の同行者を探す場合は、そういった内容の依頼(クエスト)を発注するんです」


「確かにお金を使った関係というのは、それなりに信用ができるでしょう。だけど、お金で裏切られる可能性もありそうなのよねぇ」


 腕組みをするクーカリナは、カレンに対してややジト目である。

「そもそも腕が立つ人が、そういう誘いに乗ってくるとは思えません」

「そうかしら? 武者修行したい人が、仲間を探してるとかってケースもあると思うのだけど……」


 クーカリナは眉にしわを寄せる。

「まず無いでしょうね。冒険者になるような人は、さっさとランクを上げたいタイプが多いんです。報酬も出ない鍛練の旅に自費で参加して、自分の実力を上げようなんて人は、めったな事では……」


 その時、背後から威勢の良い声がかかった。

「話は聞いたぜ。オレを連れて行きな!」


「「いた?」」


 振り返った彼女らが見たのは、オレンジ色の髪をした女性(ラケース)だった。

 ワイルドな口元が大きく開く。


「おう、オレはラケース。よろしくな!」

「そう、私はカレン。こっちはクーカリナよ」


 それを聞いたラケースは鼻の下に拳骨を当て、小さくつぶやいた。

「ふふ、やはりな」


「やはり?」

 耳ざとく反応したカレンはいぶかしむ。


「いや、こっちの話だ。で、どうだい。オレは元々は国軍の剣士志望だった者だ。さっき冒険者になったばかりだけど、それなりに腕は立つつもりだ」


「その剣士志望の冒険者様が、どうして報酬も出ない旅に同行したいとおっしゃるのかしら?」

 おいしい話に警戒しながら、カレンは真意を確かめようとする。


「ああ、冒険者になってみたものの、どうもチマチマしたクエストしか無くてなぁ。そんなのを、いくらこなしてたって、一年や二年ではSランクどころかAランクにすら、なれそうもないんだよな」


「実績も経験も無い人は、信用を積み上げていく必要があるものでしょう。そういうシステムですよ」

 応えるラケースに、クーカリナが突っ込みを入れる。


 軽く微笑みながら、ラケースは説明を続ける。

「だからな、あんたの口添えがあればって思ったんだ」

「どういう事?」


「国軍が無くなって連邦軍になってから、オレは騎士団所属を志望したんだ。他の国も重要なのだろうけど、この本国に仕えたいって奴は多いんだぜ」

「それで?」


「最初は冒険者になって実力を示し(ランクをあげ)て騎士団に再度志願しようと思っていたんだけどサ、それはちょいと時間がかかる。

 そこで、あんたにオレの実力を見てもらって、騎士団に推薦して欲しいんだよ……」


 ラケースは声を落として続ける。

「……()()()


「「バレてた!?」」


 ラケースは肩をすくめる。

「いくら服装や髪の色を変えても、名前が同じだしな。オレの父も兄も騎士団だから、何度か王宮で見た事あるぜ。お忍びなら、これからは気をつけるこった」


 詰めが甘かったかと思いながらも、カレンはラケースを見定める事にする。

「なるほど、わかったわ。でも、すぐに判断できるとは限らないから、それこそ一〜二年は様子を見る必要がありそうね」

「それぐらいなら、我慢するぜ」


「そう。じゃあ、少しあなたを試させてもらえるかしら」

「おう、どんと来い」


 にこりと笑みを浮かべながらカレンは告げた。

「まずは筆記試験ね」

「まてまてまてまて、旅だろ、筆記なんているのかよ?」

 慌てるラケース。


 カレンは確信した。

「やはり、あなたは脳筋ね!」

「そ、そうかな? いや、それほどでも……」


 あきれ顔になったカレンは、ここぞとばかりに主導権を取ろうとする。

「褒めてないから。こちらにも最低限の条件というのがあるの。それに腕に覚えがある人を、腕の方でチェックしたって意味無いでしょ」

「ぐはぁ。そこを何とか」


「ではまずは仮採用と言うことで、近々あるクエストのお手伝いをしてちょうだい。そこで旅に同行できるかどうか、あなたの力量を測らせてもらうわ」


 こうしてカレンはラケースを(しもべ)のように扱えるようになったのだが、その隣でクーカリナは頭をかかえていた。

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