表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/14

01 1/7の夢旅人

頭のおかしな人が書いています。

万が一読もうなんてお考えの方は、お気を確かにお持ちください。

 ――あぁっ、この話を開いてしまったのか。

 悪いことは言わない。世の中には他に、もっと面白い話がたくさんあるのだ。


 誰にでも気の迷いって物はある。今すぐにそっ閉じして、見なかった事にするんだ。

 でないときっと後悔する。作者である私が言うのだから間違いはない。そのはずだ。


 何しろこのストーリーは、むさくるしい酔っ払いのおっさん達から始まるのだ。そこに何か楽しげな要素があるだろうか。


 ここで、めざとい人は「達」という文字に着目しただろう。そう、こともあろうにおっさんがおっさんに絡むのだ。しかも「むさくるしい」ときた。


 絡んでいる大柄の男はダボダボのズボンで、太い腕と分厚い胸板にぴっちりとシャツが張り付いている。いくらでも酒が飲めそうな脳筋タイプであった。


 彼は薄汚れた三人掛けソファーの肘掛に、だらしなくよりかかっている。

 いかつい眉毛の下でつり上がった目は、やや据わった状態で正面の男をとらえていた。

 あごひげまでの顔色に赤みは無く、口を開かなければ酔っていると気付けないだろう。


「んでーぇ? 凱旋の途中だってェのに、勇者のお前が、何だってぇ行方をくらまそうって言うんだ?」


 男は膝丈程度のテーブルからグラス取り上げて、右目に寄せる。

 同時に左目をしかめ、琥珀色の液体の残量を確かめながら、カラカラと氷を鳴らした。


 テーブルをはさんで向かいに座るもう一人のおっさんは、回答に躊躇(ちゅうちょ)した。


(「自分(せいへき)探しの旅です」なんて言えないよなぁ)


 浮かんだ考えを捨てるように、頭を振るう。

 中肉中背の身体の上で行き来する、やや白髪の混ざったボサボサ頭の反対側には無精ひげがあった。


 頭を止めた時、ピントの合っていない彼の目には、壁付近の床に脱ぎ捨てられたままの装備が映る。

 気がつかれただろうか。彼らは宿に戻ってから、シャワーも浴びていないのだ。


 ——どうだろう。むさくるしさが加速したのではなかろうか。



「ガルフ、前にも言ったけど……、ぼくはね、この世界の人間じゃないんだ」


 ガルフと呼ばれた大男はふんっ、と鼻息を放つ。

「あー聞いたさ、タケルは召喚されたんだってなァ」


「はっきりしないけどね。誰もいない郊外で気づいてからずっと、召喚さ(よば)れた理由(わけ)を探していた。でも、わからなかった……」


 焦点の定まっていなかった目は、まばたきの後にガルフを見つめた。

「でも、少なくとも、魔王は倒したんだ」


 少し酒を口に含むと、咽を鳴らしながらグラスをテーブルに置く。

 続けて鼻から呼吸を抜きつつ身体を椅子の背もたれに向ける。

 その動作の中で、考え事をするように両手を組むと同時に視線を空間に戻す。


(チート能力を持って転生し、勇者となってハーレムができた。しかし、年齢的な都合で役に立た(もっこりし)ないなんて、冗談じゃない)

 タケルは精神的な物だと思いたかった。

 魔王討伐が終わりひと区切りついたのを機に、落ち着いて性的嗜好を分析し、自らの力(もっこり)を取り戻すつもりなのだ。

 だが、そんなことを他の者に説明できるわけもなかった。むしろ説明したくなかった。



 タケルの後方から、女性の明るい声が飛ぶ。

「倒したっていうより、()()()()()んだけどねー」


 声の主は、一人がけのソファーに座るタケルへと近づく。そして背もたれからの後ろから、彼の頭上に乳を乗せる。白いタンクトップに包まれたシルエットは、大きくは無いが形が良いことを主張する。

 彼女は風呂上りの湯気がのぼるストレートの赤髪を左手で撫でながら、上方からタケルをのぞきこむ。


 端正な顔立ちが視界に入り込んだが、タケルは()()()()()()()()()()()()に話が進みそうな予感がしたので、話題を戻そうとする。

「テュラ、そういう話をしているわけじゃない」


 しかしテュラルト――テュラと呼ばれた女性――が現れた扉の向こうから、別の女性がゆるい声で追い討ちをかける。

「そうよねー。未遂だったし」


「マリル。話を掘り下げないでもらいたい」

 テュラルトの乳の下で、タケルは真剣な顔つき(ポーカーフィエス)を崩さない。


「あー、掘り下げられたくないわよねー。役に()たなかったんだから」

 マリルの言葉が、タケルの胸にグサッと突き刺さる。

 あえて説明しなかった内容である。

 ()()()も、試行のひとつだった。魔王とその仲間は女性型だった。人外ジャンルの開拓と思いチャレンジしたのだ。


「おまえらがそういう事言うから、余計にだなぁ……」

 頭をテュラルトの乳を外さないまま目だけが後方に向かい、つられて首がやや動く。

 二人がかりの口撃に、そちらの方面に話が向いてしまった。


(いつからか、多少の事では微動だにしなくなった。でもまだいけるはずなんだ。キーになる何かを探さなければ)

 そう考える頭頂には、下乳の触感を十分に堪能できるだけの神経があるわけでは無い。しかしその重みは首や肩、背や腰と言った、頭を支える筋肉全体で感じるものだ。いくら顔つきを変えないでいても、意識をそこに置いてしまうのは男ならば当然である。たとえ今はそれに反応でき(勃た)ない者であったとしても。


「まあ、その、お前らの()活の話は置いといてだな」

 ガルフが助け船を出す。


 しかし話題は戻せなかった。

「あらぁ、大事な話よぉ」

 扉の向こうからマリルが現れた。

 乾きたての長い髪(ウェーブ)をふんわりとなびかせる姿は、ゆったりとした部屋着の柔らかな雰囲気を補強する。

 テュラルトは引き締まった顔立ちの美人なのに対し、マリルは優しげな容貌だ。

 彼女の細い目はタケルに微笑んでいるようでもあり、手にしたタオルと小瓶を見ているようでもあった。


「えぇい、今は俺が話を聞いている! タケル! なぜお前はこのパーティーを抜けて姿をくらませようとする! 何をしに! どこへ行くつもりなんだ!」

 ガルフのつばが飛び散り、タケルはグラスを回避させた。


「それはワタシも気になってたのよねー。実際どうなの?」

 テュラルトは旅に出る理由を知っていたが、どこで何をするつもりなのかまでは聞いていなかったのだ。

 タケルの頭から乳を外して、彼の手元からグラスを横取る。右手でそれを持ち、そのままタケルの横に立つと、頭に左ひじをかける。


 タケルはその様子を横目で追いかけながら、隣の太ももに声をかける。

「テュラ、下ぐらいはけよ」


「パンツ、はいてるじゃない」

「パンツ一丁はやめろと言っている!」

 恥じらいが無いのは、萎えさせる一つの要因だとタケルは感じていた。


「役に立たないくせにー」

「話を戻すな!」

 ぎろり、とガルフがにらむ。


 テュラルトは気にも留めずテーブルからウィスキーボトルを取り上げる。ぐいっとグラスに中身をそそぎ、タケルの前に差し出した。

「んっ」


「うん……」

 タケルはグラスの上に、軽く握ったこぶしを差し出す。それを小指から開いていくと、かすかな光の中から氷が落ちて軽やかな音を立てた。


 そしてようやく、ガルフに答える。

「ひとつには、そろそろ落ち着きたいって事かな。ずっと戦い続けて来た。自分から始めた事だけど、気が付いたら国からの依頼が断りづらくなっていたよね」


 建て前であった。


「それに、パーティーを抜けると言っても、首都に戻ったらどうせみんなバラバラじゃないか」


 タケルが「ふぅ」と息を吐いたのは、説明を続けるのに多くの空気を必要としたためであろう。


「お前は連邦軍、テュラはダーゴゥの騎士団に入隊、マリルは創生の女神(マーキナー)の教会で神官だろ? エルフィンは何年も行方不明だし、ギバルドもどっか行っちまったし。……っと、そういやイプシルはどうするんだっけ?」


 エルフィンは少年の技術者であり、各種アイテムを研究・開発して実戦導入し(たたかっ)たり、パーティーメンバーの武器をメンテナンスや改造し(いじっ)たりしていた。


 ギバルドは本人も強かったが、獣使いであり、野外での戦闘においては彼の使役する野獣が、少人数だったパーティーの戦力を補うことも多く、非常に頼りになる存在であった。


 イプシルはかつて「隠遁の魔女」とも呼ばれていた賢者であるが、タケルの()()()によりパーティーに加わってからは、主に後方からの魔法攻撃を主体としていた。魔王を倒した後、魔王とお供を拘束して、どこかへ飛んでいった。



 ガルフはあごひげに手をやって応える。

「ギバルドは、エルフィンの遺跡調査について行ったらしいぞ」

「え、あいつらそんな事やってたの?」


「軍が出てきてからは、居心地が悪いって言ってたからなァ」

 魔王攻略には仮設の連邦軍も同行していたので、確かに通常の討伐よりも自由度が低かった。

 現在も一緒に首都に凱旋(がいせん)している途中である。

 もっとも、軍隊は街の外で野営をし、勇者一行は街の宿に泊まっているのだが。


 どっかと背もたれに身体をやって、ガルフは面倒くさそうに押し戻す。

「確かに首都(ダーゴゥ)に戻ればパーティーは解散、みんなの行く先は大体決まっている。で、お前は解散()の前にどうするんだ? って話だよ」


「この世界を見てまわろうと思ってる」

 今の生活のままでは見つからない、何かがつかめるかも知れない。そんな期待があった。


「今更かよ」

 魔物討伐で各地を回って来たのだから、そう思われるのも仕方がない。


「召喚された村からダーゴゥに出て、そっからはほとんどギルドの依頼(クエスト)消化と国の任務(ミッション)遂行が中心だったからね。せっかく異世界に来たわけだし、……今更だけど、これからはそういうのから離れて、これまで行けなかった所をゆっくりと見て回ろうと思ってるんだ」


 この世界では観光旅行という概念があまり広がっていない模様だ。旅は、政治的な交渉や、戦争での遠征、民間では商売、調査、物資調達、それらの護衛、修業等がほとんどである。もっとも、金銭的や時間的な余裕がないと、余暇(レジャー)に相当する意識が無くても当然と言えよう。


 タケルは話を続ける。

「下手に領地をもらったり、官位だか爵位だかを与えられたら、自由に動けなくなりそうだし、断るのも問題だと思うからね。だったら言われる前に行方不明かなーって」

 身動きが取れないのであれば、今と変わらないに等しい。


「そうか……。じゃぁァそんな話は置いといて、だ」

「自分で振っておいて置いとくのかよ」


「封印は済んでるんだよな?」

「ああ……、彼女たちにやってもらった」

 魔道縛枷(まどうばくか)。概念拘束と呼ばれる魔法と呪いを組み合わせたような方法で、タケルの戦力は封じられていた。それは今後の旅に出るにあたり、彼女たち(ハーレムメンバー)と取り決めた条件のひとつだった。


「で、そいつァどんな感じなんだ?」

「まだ試してないけど、想定では全体的に数十分の一ってところかな」


 手を見つめ、にぎにぎしながら続ける。

「戦闘レベルだと身体が重くなって、速度も低下。攻撃魔法を撃てない。身体強化や接触での魔法は使えるけど、効果は低くなってる。でも、旅をする分には支障ないさ」


「物好きだよなぁ……」

「不意に力を使ってしまわないようにね。自分の身を守れる程度にはしてもらったはずだ」


 ガルフは大きく目を見開くと、何かを楽しみにする子供のような顔をタケルに近づけた。

「そうかそうか。で、だ。ここ、サスアの地には大昔の闘技場がある。明日、俺と戦え」

「は?」


「旅に出る前に、封印状態での感覚をつかんでおいた方がいいだろう? ……それに、一度ぐらいはお前に勝てるかも知れないんだしな」

 ガルフがニヤリと口元を釣り上げる。


「よーし、話は終わったかな?」

 言葉に詰まったタケルの隣で、つまらなさそうにしていたテュラルトはグラスを置く。


「今度はワタシに付き合いなさい」

 タケルの襟首をつかみ、持ち上げる。テュラルトは、ただでさえ腕力があるのだが、身体強化も使用している。


「えっ、何?」

「ふふふー、今夜は寝かさないぞー」


 タケルはソファーをつかんで抵抗する。

「いや、だから、ぼくは勃たないんだって」

「いーから、いーから」

 テュラルトは気にしないでそのままひきずる。


「シャワーも浴びて無いんだから」

「いーから、いーから」

 彼らの声は、ソファーが床をこする音と共に遠ざかっていった。


 大きく息を吐きながら、ガルフはグラスに酒を注ぎ足す。

「やれやれ……、明日の万全(ぜんりょく)は期待できるのかねェ」

ビバ、初投稿。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ