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懐かしき人類

 


 とある宇宙人が、ふとした気持ちで地球という惑星に降り立った。彼(彼と言う他ない)は以前から、「地球」には他の星と違って無数の生命が存在しているという事を知っていた。自分達には及ばない存在であったが、「人類」という高度な種がいる事も知っていた。

 

 彼が地球に降り立ったのは、ほんの趣味的気分だった。彼はふと、地球に降り立った。しかし、彼が降り立った時、思っていたような生命の気配というものを感じなかった。彼は、持ち前の能力で一気に様々な情報を周辺から手に入れたが、どうやら、生物は、植物と小さな動物の他は死に絶えたらしかった。


 彼はなおも調査を続けた。彼の調査はほとんど時間が掛からなかった。…というより、時間というものも彼らの種にとっては、操作可能なものだった。彼はほんの僅かな時間で、さらなる膨大な情報を手に入れた。それによれば、人類はそれぞれの利益を主張し、それぞれのグループが相争って滅んだらしかった。また、それに伴って溢れ出た危険物質によって、大きな動物の類も死に絶えたらしい。


 彼は、手近にあった湖畔の縁に、小さなサイズになって腰掛けた。(彼は自分の形もコントロールできた) 湖畔の縁にはベンチがあって、そこに座り、沈んでいく夕日を眺めた。


 彼は「スキャン」によって、かつて人類の一人がそこに座り、夕日を眺めていたのを知っていたのだった。彼はそれを真似て、ベンチに座った。時間をコントロールして、ちょうど、その人類が見た夕日そっくりの夕日がやってくる時間まで、時を進めた。


 彼は夕日を眺めた。人類の一人を真似て。


 彼の中に、人類が見た様々な情景が現れた。彼は、転がっていたハードディスクからも、埋もれた文書からも実に沢山の情報をひきだす事ができた。彼の中に、人類が見た夢がまるごと現れた。


 (ああ、こんな「人々」だったのだな)


 と彼は思った。


 彼はまるで、懐かしい、古い、もうとっくに死んでしまった友人を思い出すように、人類を想った。あんな奴がいたな、と。彼は色々な事を思い出すように、人類を懐かしんだ。

 

 「懐かしいな」


 彼は人類の言語で呟いてみた。本当に、彼は人類という種を懐かしく感じた。少なくともその一時は。


 やがて彼は、地球という惑星から離れた。元の惑星に戻り、種の仲間の元に帰った。仲間の一人が、彼が地球に行った事を「感じて」、質問した。


 「どうだった?」


 「懐かしかったよ」

 

 「?」


 彼らは、話すのをやめて元の「作業」に戻った。今は大切な作業の最中だった。人類には想像もできない遥かな構築物を全員で作っている最中だった。地球に立ち寄った彼は「作業」を行いながら、ふと思った。


 (自分達も「人類」のようにいつか懐かしく思われる時が来るのだろうか?)



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― 新着の感想 ―
[一言] 瞬時にして全体が流れ込んでくる感覚が不思議でした。 終わりの時。どんな風でしょうか。 ありがとうございました。
[良い点] 普段純文学ではなく、ファンタジーモノを読む僕ですがふと気になって読んだら、うまく言えませんがなんだか優しい気持ちになれました。これを機に純文学の方も手を出して見たいと思います。 [一言] …
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