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よあけまえのキミへ  作者: 三咲ゆま
二章 陸援隊編
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第八十三話 岩倉具視

 目を覚ますと、布団の脇に田中先輩が座っていた。

 私は驚いて布団を跳ね上げ、身体を起こす。


「おはようございますっ! どうしました!?」


「どうもこうもねぇよ。とっくに朝餉の時間過ぎてっから様子見に来たんだよ」


「す、すみません! 寝坊しました……!」


「おう。寝顔、なかなか可愛かったぜ」


「うっ……先輩のばか!」


 おでこを中指ではじくと、先輩はにっと笑みを見せながらお弁当箱を差し出した。


「早くメシ食おうぜ。腹減ってしょうがねぇや」


「はい、ごめんなさい」


 急いで布団をたたんで、乱れた着物を直し、先輩の正面に正座する。

 そうして受け取ったお弁当箱の中身は、あいかわらず白飯とお漬物だけの質素なものだ。


「懐かしいですね、陸援隊のお弁当」


「だな。ほれ、おかずだ。たらふく食え」


 二人の中央にドンと置かれた大皿には、先輩がかき集めてきたたくさんのおかずが乗っている。これをつつくのも久しぶりだ。


「先輩、今日は私、岩倉さまに会いにいくんです」


「おう、ハシさんから聞いたぜ。オレも同行することになった」


「そうなんですか? 先輩もいてくれるなら賑やかになりそうですね!」


 先輩と離れると、少し物足りない気持ちになるから、ついてきてくれるのは嬉しい。

 無意識のうちに口角が上がっていたのか、先輩が「何笑ってんだ」と首を傾げた。内心こんなに喜んでいることは秘密にしておこう。

 さて、今日も元気に頑張るぞ!!!



 朝餉を食べ終わって大橋さんと合流すると、私たちは昼前の爽やかな空気の中、屯所を後にした。

 大橋さんを追いかけて、葉月ちゃんがよちよちと門前までついてきたのが健気で仕方なかった。寂しいよね、しばらくお留守番しててね。


 螢静堂に着くと、大橋さんと田中先輩は客間で待ってもらうことになり、私は一人かすみさんの部屋へと向かった。

 ちょうどむた兄が診察してくれていたところで、私は静かに傍らに腰を下ろし、話に耳を傾けた。


「順調に傷もふさがってきてますね。一人で歩くこともできるようですし、そろそろ自宅療養に切り替えてもええと思います」


「退院しても、よろしいのですね……」


「何か不安はありますか?」


「外に出て、男の人に会うのが怖いです」


「分かりました、神楽木さんのお宅まで駕籠を呼びましょう。夜にお兄さんとまた話し合おうと思ってますんで、他にも怖いと思うことがあれば、遠慮なく仰ってください」


「ありがとうございます。退院しても、先生に診ていただけますでしょうか」


「もちろんです。毎日往診に参ります」


 むた兄の語りかけは、始終穏やかだ。そんな物腰に安心したのか、かすみさんも不安げな表情が次第に晴れてきた。


「今後とも、よろしくお願い致します」


 かすみさんが深々と頭を下げると、むた兄もつられるようにお辞儀をした。

 今まで男の人との接触がないよう徹底されていたから、退院して男だらけの神楽木邸に戻るのは心配だろう。

 やえさんも一緒に帰ってくれるとはいえ、それでも女中が一人しかいない環境は不安が多い。雨京さんのことだから、女中を新しく何人か雇ってくれるかもしれないけれど……。


「かすみさん、無理しなくていいからね。少しずつ元の生活を取り戻していけばいいよ」


「美湖ちゃん、ありがとう。弱音ばかり吐いていては駄目ね。がんばってみる」


「うん! 何かあったら神楽木家まで飛んでいくから!!」


「ふふ、頼もしいわね」


 元気が有り余っている私を見て、むた兄もゆきちゃんも笑ってくれた。

 かすみさんの笑顔も自然で、ほっとした。

 退院してからも、長く助けが必要なのは間違いない。根気よく向き合って、支えていこう。




 螢静堂を出た私たちは、岩倉邸へと向かうことになった。

 陸援隊の屯所から、さらに北へ。そこそこ距離があるので、今夜は泊まりにしようという話になった。

 ひたすら歩いて、まだかなぁと肩を落とした頃、ようやく岩倉邸に着いた。

 予想に反して静かで、やや寂れた雰囲気のあるお宅だった。

 門前には、見慣れた顔の男の人が立っている。


「太田さんだ! どうしてここに?」


「天野さん、お久しぶりス。岩倉様の屋敷には、陸援隊から護衛が派遣されてるんス」


「そうなんですね。では、岩倉さまのことは陸援隊が護っているんだ。すごいなぁ」


 お公家様のお屋敷といえば、自前で守衛を雇っている印象があったけれど、ここは少し違うみたいだ。

 見ればお庭の手入れも行き届いてはおらず、雑草が生い茂っている。全体的に薄暗く、寂しさを感じる場所だ。


「なんや、客か?」


 門前で話をしているところへ、縁側から声がかかった。


「おお、慎三に顕助! よう来たな、上がり」


 きつい印象の眼が、ふっと優しく笑みをたたえる。少しよれた着物をお召しだけれど、この人が岩倉さまだろうと直感的に理解した。

 品があり、低くよく響く声には、人を惹き付ける力がある。


「岩倉様、お久しぶりです。この子が先日話した天野さんです」


 と、大橋さんに紹介され、あわてて頭を下げる。


「天野美湖と申します……! はじめまして、岩倉さま」


「ほうほう。話は聞いてるで。えらい勇ましいおなごやそうやなぁ。強いおなごは好きや」


 岩倉様は縁側から降りて私の眼前に立ち、指で顎を持ち上げるようにして、じっと目を見つめてきた。

 突然の急接近に胸の奥がバクバクと脈打つ。間近にある岩倉さまのお顔は、美しく聡明さが際立っている。


「え、ええと……お会いできて嬉しいです。あの、私のことはいいので、大橋さん達とお話を進めてください」


 しどろもどろになりながら、なんとか言葉をひねり出せば、岩倉さまはふっと笑みを浮かべて、縁側に腰掛けた。


「せやな。ほれ、皆座り。ちょうど話がしたい思てたとこや」


「いやぁ、あいかわらず辛気くせぇ家っすねぇ。蜘蛛の巣張ってら」


 縁側に腰掛けながら、田中先輩がからからと笑った。

 そんな無礼な発言が許されるのかとビクビクしながら俯いていると、つられて岩倉さまも声をあげて笑ってくれた。


「せやなぁ。ここを出られるんはいつになるか……はよ時勢をひっくり返さんとな」


「オレらが先陣きってやりますよ! 任せてください!」


「頼もしいやないか。時が来たら陸援隊にも動いてもらわんとな」


 たしか岩倉さまはいろいろあって失脚し、洛中に住むことが許されず、この辺鄙な場所で蟄居していると聞いた。

 もともと朝廷への発言権もあり、様々な献策を続けてきた有能な方だったそうだけれど、今は寂しく巣にこもっている。無念なのではなかろうか。

 岩倉さまの物腰は終始落ち着いているけれど、底に見える野心が燃えていることは伝わってくる。

 前に中岡隊長から聞いたな。武力で幕府を倒そうとしているのが陸援隊だと。その指揮を岩倉さまがとってくれるという事だろうか。


「私は少しお庭の掃除でもしてますね! お話が終わったら声をかけてください」


 難しい話が始まりそうだったので、縁側からおりて離脱する。

 屯所でこんな話になりそうな時、中岡隊長は決まって「おなごに聞かせる話じゃない」と、私を部屋から出す。

 物騒な話が始まるのだろうという事は、うっすら分かる。隊長は私を怖がらせないように気を配ってくれていたのだろう。


 縁側から屋敷の中へ場所を移して本格的に会合を始めた三人は、きっと白熱していることだろう。

 私は掃除道具一式を借りて、庭の草刈りと掃き掃除に務めた。

 庭の敷地は陸援隊の屯所ほど広くはないので、手を入れた場所が目に見えて綺麗になっていく。爽快だ。

 二刻ほど集中して作業すれば、見違えるほどすっきりと整ったお庭に仕上がった。


「終わったー! さて、そろそろ夕餉の時間かな!」


 掃除道具を片付けて、伸びをしながら庭を見渡していると、脇から声がかかった。


「わぁ、掃除してくれはったんですね。すっきりやぁ」


 声の主へと視線をうつせば、ひょろりとした体躯で、人の良さそうな男の人が立っていた。手には鍋を持っている。


「こんにちは、私、大橋さんと田中さんの同伴者です。天野美湖と申します」


「ああ、陸援隊の。掃除までしてもらわんでもええのに、気を遣うてもろて……。僕は西川与三にしかわよぞういいます。岩倉さまの家来です」


「家来の方も住んでらしたんですね! そのお鍋は夕餉でしょうか? 用意するの手伝います」


 西川さんは人の良さそうな笑みを浮かべて、頷いてくれた。お鍋の中身は何だろう。ちょうどお腹がすいたから楽しみだな。



 西川さんと一緒に食器の用意や配膳をこなしていると、障子をあけて岩倉さまが顔を出した。そのうしろから大橋さんと田中先輩も入ってくる。


「与三を手伝うてくれてるんやな。おおきに、美湖」


 並べられたお膳の前に腰を下ろすと、岩倉さまは優しく微笑みながら、その場にいる全員に座るよう促した。

 食事の準備も万全だ。なにしろ品数が圧倒的に少ない。茹でたそうめんだけだ。


「相変わらず質素っすねぇ。陸援隊のメシと通ずるトコあるよなァ」


「そうめん、魚、湯漬け……そこそこ献立は豊富や。たまにどじょうも食うなぁ」


「どじょうってうまいんすか? 今度食わせてください!」


「ええで。慎三も食べていきや」


「では、お言葉に甘えて」


 三人は賑やかにそうめんをつつきながら談笑している。二刻も休みなしにお話して、まだまだ元気なこの人たちはすごいな。

 私と西川さんもお膳に向かい、そうめんをすする。うん、味付けもしっかりしていておいしい! するするとお腹に入っていく。



「ふう、とってもおいしかったです。ご馳走になっちゃってすみません」


「ええんですよ。あないに愉快そうな岩倉様を見たんは久しぶりです。来客を喜ばれはるお方ですんで」


「夜中まで語り明かしそうなくらい、盛り上がってましたねぇ」


 厨で西川さんと並んで食器を洗いながら、二人して笑みをもらす。

 食事を終えたあとは、岩倉さまの誘いで大橋さんと田中先輩は再び客間に戻っていった。これから更に議論を重ねるのだろう。

 今夜は泊めてもらえるということで、私たちは空き部屋の一室を借りることになった。ここに三人で布団を並べて寝ることになる。

 西川さんに手伝ってもらって布団を敷き終わると、私は一日を終えた達成感から、その場にへたりこんだ。


「今日は色々手伝うてもろて、おおきに。よう休んでください」


 西川さんは深々とお辞儀して、部屋の障子を閉めた。すごくいい人だったなぁ。


「……ふう……」


 思えば、こんなに穏やかな夜を過ごすのは久しぶりだ。

 涼やかな秋の夜。聞こえてくるのは虫の声。布団の上に座っていると、心地良いまどろみが襲ってくる。

 先に寝てしまってもいいかなぁと思いがよぎる頃、障子が開いて大橋さんと田中先輩が戻ってきた。


「いやー、語った語った! 今夜はよく眠れそうだぜ」


「天野さん、お待たせしてしまってすみません。あなたの隣の布団で寝てもよろしいですか?」


「は、はい!」


 右端の布団に陣取っていた私は、飛び上がるようにして中央の布団との間隔を広めにとった。


「何だよハシさん、天野の隣はオレだっつの。なぁ天野、オレがいいよな?」


 言うが早いか、田中先輩は中央の布団にもぐりこんでにっと笑みを向ける。


「えっと、私はどちらでも大丈夫です」


「本当ですか? 田中くんが隣だといろいろと心配なのですが……」


 眉を寄せて、大橋さんが溜息をつく。とはいえ、私としてはそう嫌ではない。先輩と隣り合わせで寝たこともあるからだ。


「おし、んじゃオレはこのまま寝るわ。心配すんなってハシさん、何もしねぇよ」


「本当ですね? 寝ぼけて天野さんの布団に入るようなことは、くれぐれもないように」


「わーってるよ。ほれ、みんなもう寝ようぜ」


 布団の中で目をつむって就寝体勢な先輩は、その場を締めるようにパンパンと手を叩いた。

 私も今日は疲れちゃったから、ぐっすり眠れそう。

 もぞもぞと布団にもぐりはじめると、大橋さんも残った布団に入っていった。

 灯りを消して静寂が訪れると、心地良い秋の音色が優しく耳に届く。

 洛中で起こる凶悪な事件の数々が嘘のように、この場所はのどかだ。隣に二人がいてくれる安心感もあり、私はすぐさままどろみの中に落ちていった。




 すっきりと目覚めた朝、深く寝入っている二人を起こさないように、私はそっと布団から抜け出して部屋を出た。

 縁側に腰掛けて、綺麗になった庭を眺めていると、奥の部屋から岩倉さまが姿を見せた。


「早起きやなぁ」


 気だるそうにあくびをしながら、岩倉さまが私の隣に腰掛けた。


「庭、美湖が掃除してくれたんやろ? おおきに。見違えるようやな」


「私、掃除が好きなんです! 目に見えて成果が分かるから、やりがいがあって」


「ほう。えらい前向きにものを捉えてんのやな。女中に向いてるんとちゃうか?」


「向いてるでしょうか? 陸援隊では女中として雇ってもらっているわけではないんですが、みなさんのお世話ができたらなって思ってます」


 私は想定外の居候だから。せめて彼らの負担にならないように務めたい。


「うちの女中に欲しいくらいや」


 口角を上げて、わずかに目を細めた岩倉さまは、私に顔を近づけてそっと頬を撫でる。

 なんだか照れくさくて、その手から逃れるように顔をそらした。


「岩倉さまみたいに偉い人とお話するのは初めてなので、緊張してしまいます」


「偉うはないよ。せやからこないな場所でじめじめ暮らしてるんや」


「でも、大橋さんや田中先輩はすごく慕って敬ってます。岩倉さまの徳がそうさせるんでしょうか」


「徳、なぁ。あるかは分からへんけど、どこにおってもココは燃えてるで」


 ココ、と指で突いてみせたのは、自らの胸。心の内だ。


「それは素敵ですね。燃やし続けていれば、きっといつか綺麗に咲きますよ。花火みたいに」


「せやな。それまでは死ねんわ」


「はい。生きてください。これからいくらでも状況は変えていけるはずです」


 出会った時から、その佇まいを見て感じていた。こんな辺境に隠れ棲むような人ではないと。

 何より、陸援隊と縁の深いお方だ。私もこの人を支えてあげたい。


 そのままのんびりと縁側で会話していると、庭木の茂みから一匹の黒猫が姿を見せた。

 筋肉質で身体が大きく、目元には大きな傷跡がついている。間違いない、歴戦の猛者だ。


「おう、阿修羅丸やないか」


「あ、あしゅらまる……?」


 すごい名前だな。

 岩倉さまは、近う寄れと言わんばかりに両手を差し出すも、空振り。阿修羅丸はまるで興味を示さない。


「ここにはよく来る子なんですか?」


「よう来るで。誰にも懐かへんけどな」


「そうですよね。触れたら咬み付かれそうです……」


 人間には一瞥もくれずに、我が物顔で庭を横断する猛者だ。さわるな危険。

 そんな阿修羅丸を遠めで見守っていると、障子をあけて大橋さんが姿を見せた。


「おはようございます、岩倉様、天野さん」


 寝起きで髪を結っていない大橋さんは、いつもと随分雰囲気が違う。

 私たちが視線で阿修羅丸を追っているのに気付いた大橋さんは、草履をつっかけて庭に降りた。


「慎三、阿修羅丸は人に触れられるんが嫌いや。気ぃつけや」


 一直線に阿修羅丸のもとへと歩いていく大橋さんを見て、岩倉さまが静止する。

 大橋さんは振り返って口元に人差し指を当てながら、「大丈夫です」と笑みを見せた。


「おいで」


 大橋さんが隣に立ち、手のひらを差し出すと、阿修羅丸は足を止めてその指先に鼻を寄せ、匂いをかいだ。

 その後、手のひらに擦り寄るようにして、大橋さんの懐に入っていった。


「わぁ、すごい!! 懐いてる!!」


 岩倉さまはあまりに意外な光景に、目を見開いたまま固まっていた。大橋さんは猫から好かれやすいんだなぁ。


「この子は、お腹がすいているようですね。何か餌になるようなものはありませんか?」


「魚の切り身があったはずや。持ってくるわ」


 岩倉さまは、言うが早いか立ち上がって厨のほうへ向かった。


「大橋さん、さすがですね。阿修羅丸も落ち着いてるみたいです」


「この子は阿修羅丸というのですね。見た目で怖がられることもあると思いますが、素直な子ですよ」


 大橋さんが優しく喉元を指でさすると、阿修羅丸は気持ち良さそうに喉を鳴らした。

 やがて岩倉さまが戻ってくると、大橋さんは切り身を受け取り、阿修羅丸に差し出す。

 大橋さんの手の上におかれた切り身に、はぐはぐと食らいつく阿修羅丸は満足そうな顔をしている。


「慎三も、たいそうな徳を持っとるみたいやな」


「そうですね」


 感心しながら見守る岩倉さまの隣で、私も深々と頷いた。

 大橋さんは、人からも猫からもよく好かれる。どこか安心感を与えてくれる優しい雰囲気を持っているからかな。

 私も、大橋さんと過ごすゆったりとした時間が好きだ。葉月ちゃんや阿修羅丸も同じ気持ちなのだろう。


「にゃおん」


 切り身を食べ終えた阿修羅丸は、一言お礼を言って庭の隅へと消えていった。

 岩倉さまの話では、遠目から見守るだけの存在だったそうだけど、大橋さんと接触することで、可愛らしい一面を見せてくれた。

 人も猫も、見た目だけで判断してはいけないな。



 朝餉をご馳走になって、しばらく皆で談笑したあと、お昼前には屋敷を出ることになった。

 門前まで見送ってくれた岩倉さまにそっと手を振る。すると向こうも大きく手を振り返してくれた。

 また会いに来ると約束もした。お公家さまとは思えない、気さくで懐の広い方だ。


「今度は慎太郎も連れてき。待ってるで」


「中岡さんは岩倉様のお気に入りっすからね!」


「せや。余の片腕やと思うてるで」


「では、また。次は中岡さんと共に参ります」


 大橋さんと田中先輩につられて、私も深々と頭を下げる。食事もご馳走になったし、泊めてもらったしでたいそうお世話になった。


「美湖も、いつでも訪ねてきぃや」


「はい! またお話したいです!」


「次こそはもっと真剣に口説いたるわ」


「う……それは光栄です」


 きっと女中になれということだろう。たまにこうして女心をつついてくるところがあるから、どきっとしてしまう。

 そうして別れの挨拶も済んだところで、私たちは帰路についた。

 今日は螢静堂に寄る事ができないけれど、かすみさんはどうなっただろう。退院の日取りは決まったのかな。





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