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よあけまえのキミへ  作者: 三咲ゆま
二章 陸援隊編
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第八十話 藤堂平助


 夜。私と田中先輩は、潮くんと合流すべく如月屋に向かった。

 店主に呼び出しをお願いすると、階段を軽快に降りてきた潮くんが笑顔を見せた。


「二人ともこんばんは! よし、外で話そう!」


 促されるまま外に出た私達は、人通りのほとんどない道をぶらりと高台寺方面に歩きながら、言葉を交わす。


「なんだかさぁ、最近よく視線を感じるんだよね。誰かに見られてるみたいな」


「ええっ!? 怖いこと言わないで……! 誰かって、心当たりあるの?」


「心当たりっていうと、矢生一派しかないけど……でもそうだったとしたら真っ先に僕の身柄を拘束して根城につれてくと思うんだ」


 潮くんは合点がいかないといった様子で眉を寄せる。確かにこの子は基本的に一人でいるから、さらうのは簡単だろう。


「言われてみりゃ誰かにつけられてる気がすんだよな。後ろに気配がある」


 と、田中先輩が足を止めた。

 三人揃って一斉に振り返ると、数軒先の軒先に動く影が目に入った。

 一瞬物陰に身を隠すような動きをしたものの、考えが変わったのか、人影はこちらに向かって歩を進めてきた。

 ぞくりと鳥肌が立ち、私と潮くんは田中先輩の背後に逃げ込む。怖いよぉ。


 行灯の光が、徐々に接近する相手の顔を照らす。ぼんやりと照らされて浮き上がった面ばせは、どうやら田中先輩と年の近そうな若者だった。


「げっ、おめぇは……」


「田中、何でテメェがそのガキと一緒にいやがる」


 足早にこちらへと辿り着いた若者は、今にも噛みつきそうな剣幕で田中先輩を睨む。

 対する先輩は目を見開き困惑した様子で、懐で握っていたピストールから手を離した。


「えっと、先輩。この人お知り合いですか?」


「おう。よく知ってる奴だ……藤堂、おめぇ、潮の事つけてたのか?」


 藤堂と呼ばれたその人は、よく見れば随分と整った顔立ちをしている。美男子と言える容姿だけれど、それに似つかわしくない痛々しい傷跡が額に刻まれている。


「このガキは潮っつうのか。そいつは恐らく罪人の仲間だぜ。つるんでるっつう事は、テメェらも同罪か?」


 藤堂さんは刀の柄に手をかけながら、私達三人を眼で射抜く。殺気のこもった眼光に、足がすくむ。


「おい待て、だいぶ誤解があるみてぇだな。落ち着いて話そうぜ」


「今すぐ叩き斬りてぇところだが……仕方ねぇ、一応話くらいは聞いてやる」


「おし、場所変えるぞ」


 そうして一旦話はまとまり、田中先輩が先導してやってきたのは、昨夜に続いて矢生一派の根城跡の洞窟だった。

 ここにはもう一派の残党は来ないという話だし、ひそひそ話にはちょうどよさそうだ。

 私達は円になって、互いの状況を確認する。


「てめぇ、朝吹無弦あさぶきむげんについて何か知ってんのか?」


 まず口を開いたのは藤堂さんだった。


「誰だソイツ、知らねぇなァ。おめぇこそ、矢生一派について知ってんじゃねぇのか?」


「しき? 初めて聞く名だ」


 二人揃って、大きく息をついた。探り探りの会話にまどろっこしさを感じているようだ。

 二人は知り合いのようだし、このまま戦闘に入ったりする心配はなさそうなのが救いだ。


「無弦と矢生一派は仲間だよ。組んでさんざん京を荒らしまわってる。藤堂の兄ちゃんが無弦を追ってるとしたら、ぼくらと目的は同じだ」


 潮くんが口を挟むと、田中先輩と藤堂さんはムスッとした顔で互いを見る。

 なんだか普段から仲がよろしくない二人のようだ。

 ここは一つ、私からも話を振ってみよう。


「あのう、藤堂さんはじめまして。藤堂さんはその、無弦という男との間に何かあったんですか?」


 口ぶりからして何かしらの因縁があるのだろう。潮くんを追っていたことといい、詳細を知りたい。


「――なんだ、このちんちくりんは。田中の女か?」


 いぶかしげに目を細める藤堂さんを見て、私は軽く赤面しながらその言葉を否定した。


「ちがいますっ! 私、天野美湖といいます! 質問に答えてくださいっ!!」


「――指図すんじゃねぇ。まぁ、そこを語んねぇと始まらねぇからな。話してやる。朝吹無弦は、元新選組隊士でな……」



 藤堂さんは、ため息混じりにことの発端について語ってくれた。


 まず驚いたのが、藤堂さんは元新選組幹部だったそうだ。

 今は御陵衛士ごりょうえじという新選組の分派に所属しているらしい。

 事が起ったのは、御陵衛士が新選組から離れる前。

 藤堂さんと親しくしていた、沖田さんという幹部が率いていた一番隊での出来事。

 朝吹無弦という男は、その一番隊に所属していた隊士だった。

 けれどある日、同隊の仲間数人を惨殺し、隊の資金を盗んで脱走したらしい。

 新選組の規則では、その行いは切腹に値するとのことで、全隊を挙げて朝吹の行方を追った。

 ところが、どこを探しても朝吹は見つからなかった。

 他の隊士が事件の事を忘れ去ろうとしていく中、藤堂さんと沖田さんだけは二人で朝吹の捜索を続けた。

 そしてある日、どうやら東山に規模の大きな盗賊団が陣取っているらしいという噂を聞きつけた。

 二人は朝吹がその一派の一員なのではないかと推測し、東山周辺を調べて回ったのだそうだ。しかし、なかなか根城は見つからない。

 そうこうしているうちに沖田さんが病に倒れ、屯所で寝たきりになってしまったらしい。

 それと時を同じくして、藤堂さんは御陵衛士の一員となって新選組を離れた。

 二人はそこで1つの約束を交わしたのだそうだ。離れていてもお互い朝吹の行方を追おうと。


「ふぅん。熱い友情じゃねぇか」


「茶化すんじゃねぇよ猿が」


「あ? 誰が猿だコラ」


 一触即発の空気になったところで、藤堂さんが田中先輩を一睨みし、言葉を続ける。


「少し前に、この界隈で銃声が響いたのをきっかけに、俺はこの森に出入りするようになった。朝吹の根城が付近にあると思ってな。毎晩探ってると、このガキの姿を頻繁に目撃するようになった」


「あ、確かにぼく、最近はこのへんよく歩いてた。あちこちにへそくり隠してたから、それを回収しに」


「でだ、このガキも朝吹の仲間だろうと踏んで跡をつけてたわけだ」


「わぁ。やっぱりぼく、つけられてたんだ。お兄さん、殺気が隠しきれてないから尾行向かないよ」


 さらりと毒を吐く潮くんに、華麗な回し蹴りが飛んだ。

 潮くんは倒れ込んだ拍子にしこたま頬を打ち、泣きながら私に抱きついてきた。


「うわあああああん!!! みこ姉ー! この人いじめるーーっ!!!」


「はいはい、潮くんは一言多いよね」


 頭を撫でてあやしながらも、さすがに呆れ半分だ。

 ギャンギャン泣きわめく潮くんを放置して、田中先輩と藤堂さんはいくらか気を許し、お互いの持っている情報の共有をはじめた。


「なるほどな。朝吹っつう奴は頭を赤い布で覆ってて、腕には彫り物があると。そいつは今オレたちが行方を追ってる矢生一派の仲間に間違いねぇな」


「矢生一派っつうのが陸援隊に潜り込んでやがったのか。つうことは奴ら、銃で武装してやがるな」


「そうだな。まだいくつか奴らの元に銃があるはずだからな……」


「しかも結構な人数を抱えてんだろ? 厄介だな」


 先輩と藤堂さんは、あらかた情報をおさらいすると、思案するように口を結んだ。


「あのう……つまりは藤堂さんも矢生一派を追うことになるわけですよね? それなら協力して動いたほうがいいんじゃ……」


 恐る恐る提案すると、潮くんも大きく首を縦に振り、賛成の様子だ。


「……協力してやんのはやぶさかではねぇが、テメェら足手まといになんじゃねぇぞ」


「ああん? 調子こいてんじゃねぇぞコラ。むしろオレ様と行動を共にできることに感謝しやがれ」


「テメェには言ってねぇよ。ガキと女だ」


 喧嘩ごしな田中先輩の暑苦しい顔面に張り手を食らわせた藤堂さんは、私と潮くんに冷たい視線を送る。


「ピストールの扱いは勉強したので、援護射撃くらいならできます!」


「ぼくは戦闘嫌いだけど、いざとなったら戦うからよろしく!!」


 威勢よく二人そろって手を挙げる。

 足手まといになるようなことはしないつもりだ。


「少しでも足を引っ張りやがったら、置いていくからな」


「分かりました!」


 そんなわけで、私達と藤堂さんは手を結ぶことになった。

 情報の共有はあらかた終わったので、これからどこを調べていくか話し合いに入る。



「矢生一派の新しい根城に心当たりがあるヤツはいるか?」


「盗品を隠す場所が必要だから敷地は広いはずだし、目立たない場所にあるはずだよ」


 潮くんは考え込むように顎の下に手を当てて、眉を寄せる。


「ここみてぇにまた森の中にでも陣取ってんじゃねぇか?」


 藤堂さんが訪ねると、潮くんはそれもあり得ると肯定し、懐から地図を取り出した。

 地図上にはいくつか記号が散りばめられており、そこには新たな根城候補の場所と、矢生一派が盗みの中継地点として使用している小屋の位置が記されていた。


「今度の根城は西寄りに築いてると思う。そこはこれから僕が力をいれて探ってみる。あと気になるのは、こことここ……」


 潮くんは、地図上の二点を指した。

 一ヶ所は比較的ここから近い田舎道、もう一ヶ所は、かぐら屋の近くの豪商が連なる大通りだった。

 この二点がよく使われる中継地点なのだそうだ。


「なるほどな。中継地点があんのか。そこを潰すのもアリだなァ」


「前は、小町屋も中継地点だったんだ。幽霊屋敷って噂が広まってるでしょ? 人が寄り付かないのが好都合で、盗品を一時的に隠しておく場所として使ってた」


「へぇ、そんな風に使ってるんだ。よっぽどたくさん物を盗んでるんだね」


 思い返せば、いずみ屋にも盗品が隠されていたっけ。知らないうちに彼らに利用されていたのだと、改めて怒りが沸き上がってくる。


「だったら今夜は、ここに踏み行ってみるか」


 藤堂さんがトン、と指をついた場所は、ここから程近い田舎道だった。


「だな。オレもそこ気になってた」


 先輩が同意すると、私と潮くんも賛成し、満場一致の形になった。

 それぞれ武器を携えて目的地へ歩き出す。私だけが丸腰だ。

 あまりにも無防備だと見かねた潮くんが、背負っていた木箱の中からきらびやかな脇差しを取り出し、貸してくれた。


「ちょっと拵えが豪華すぎて抜くの勇気いる……」


 なにせ金ぴかの龍が鞘を走り、螺鈿のようにきらきらが散りばめられていて、まばゆい。お貴族様の刀だ。


「バンバン使ってよ、刀ならまだまだ盗んだのが余ってるからさ」


「あ、ありがとう。田中先輩、すごいの借りちゃいました」


 刀が好きな先輩はさぞ目を輝かせてくれるだろうと期待して話しかけてみるも、返ってきたのは冷めた視線だった。


「オレはそういうお飾りだけ立派なハリボテ刀にゃ興味ねぇんだよ。それよりオイ、藤堂の刀めちゃくちゃ渋いな! ちょっと見せてくれよ!」


「触んな猿。刀が穢れる」


「ケチだなぁ。んで、オレのどこが猿なんですかねぇ皆さん」


 そう言って振り返った先輩は猿の顔真似をしながら、のそのそと腰を曲げて歩いて見せる。見事な形態模写だ。まさにおさるさん。

 私と潮くんはお腹を抱えて笑い、藤堂さんは馬鹿馬鹿しいと大きくため息をついた。

 先輩はこんな張りつめた状況で人の心をほぐすのが上手い。いつもこの明るさに救われている。


「にしてもよぉ、中継地点があるなら、潮は何でもっと早くに乗り込まなかったんだよ」


 気を取り直して乱れた髪をかきあげながら先輩が問えば、潮くんはがくりと肩を落としてうなだれた。


「怖かったし、ぼくがめちゃくちゃ弱いからだよ」


「おう、弱っちいのは見て分かるぜ」


「でしょ? だからぼくを守って! できるだけ戦わせないで」


「素直なヤツだなァ。そんなに言うならオレらのうしろに隠れとけ」


「わーーい! やったね!! じゃあそうする!!」


 しゅばっと勢いよく田中先輩の背後に隠れる潮くん。

 すごいなぁ。私だったら「守って」なんて、恥ずかしくて自分からは言えないよ。




 矢生一派の根城跡から四半刻ほど歩いた田舎道のはずれに、中継地点として使われている小屋があった。

 夜になると人通りもなく静かで、暗躍するにはいい場所だ。

 そっと足音を殺して近づいてみる。中から僅かに声が漏れているのを聞き、私たちは顔を見合わせた。


 声を出さずに身振り手振りで田中先輩が役割を振る。

 先輩と藤堂さんが中へ踏み入る役目、私と潮君は小屋の外で控えていろとのことだった。

 藤堂さんは刀の柄に手をかけ、ピストールを構えた田中先輩がそっと小屋の戸を引く。

 電光石火の早業で、二人は中へと押し入った。怒号と激しい足音が響く。私と潮くんは、小屋の外で震えて待つほかなかった。


 やがて音が収まると、中へ入ってくるよう声がかかった。

 恐る恐る薄明かりが漏れる小屋に足を踏み入れれば、中央で二人の男が縄に縛られうなだれていた。

 田中先輩は片方のこめかみに銃口を押し当て、藤堂さんはもう片方の首元に刃をつきつけていた。


「う、潮坊ちゃん……」


 男は顔を上げてこちらを見ると、驚愕の表情で口を開いた。


「弥助と連次郎、久しぶり。まだ矢生たちに従ってるの?」


「……」


 潮君が彼らの前に屈むようにして表情を見渡せば、二人は再び口をつぐんで頭を垂れた。


「矢生らは裏切り者を許しません。抜けようとした者は必ず殺されます。坊ちゃんも例外ではないでしょう」


「ぼくはあいつらになんか捕まらない。あいつら、自分の利益にしか興味ないんだよ。きみらに金品が回ることはない。分かってるんでしょ?」


「分かっています……俺たちだって、やつらに利用されたくなんか……」


「だったら、ぼくの仲間になって。矢生一派と戦おう。もとの盗賊団に戻すんだ!」


 潮君がそう諭しながら二人の肩を叩くと、両者は目に涙をためながら、うつむいた。

 ああ、やっぱり矢生一派は一枚岩ではないんだ。こうして渋々従っている人間もいる。


「俺はこいつらを信用しきれねぇ。仲間にするのは反対だ」


 藤堂さんが冷めた口調で吐き捨てる。それに続いて口を開いたのは先輩だ。


「オレもまだ信用はできねぇなァ。まずは、矢生一派の新しい根城を教えてもらわねぇと」


「そうだな。まずはそれからだ」


 先輩と藤堂さんは珍しく意見が一致し、頷きあった。

 私も同意しようとしたその瞬間――。

 格子の窓から何かが投げ込まれ、室内に煙が充満する。

 足元を見れば、導火線が燃える爆薬がいくつも転がっている。


「あぶな――」


 叫び声を上げようとしたその時、ふっと身体が宙に浮いた。田中先輩が私を抱き上げ、そのまま転がるように戸の外に脱出する。

 地に伏せた私たちのすぐうしろで、爆音とともに小屋が吹き飛ばされる。

 身体を縮めで震えていると、覆いかぶさるように私を守っていてくれた先輩が、身体を起こす。

 隣を見れば、同じような体勢で潮くんを抱えて出てきたであろう藤堂さんが立ち上がって、隣の家屋の屋根を見上げている。


「テメェは、朝吹!!!!」


 藤堂さんの目線を辿った先には、二つの人影が立っていた。

 逆光で顔がよく見えないけれど、あの装いは間違いなく――。


「りく!!!!」


 そう、りくだ。震える足に力を入れて、私は立ち上がる。

 隣の潮くんは、りくの姿を見るや、腰が抜けたような体勢でがくがくと身体を震わせている。


「久しぶりじゃない、ブス。また仕留めそこなったかぁ。ざんねぇん」


「口止めはできたんやし、ワイは帰らせてもらうわ」


 りくの隣で、朝吹と呼ばれた男がきびすを返す。


「待てテメェ!!!!」


 慣れた様子で屋根の上を駆け出した朝吹の影を追って、藤堂さんが疾走する。

 残された私たち三人の目は、りくに釘付けだ。


「それと、潮ぉ。アンタこいつらの仲間になったのねぇ。ほんとうに駄目な弟」


「う……ね、姉ちゃんこそ、あいつらの仲間になって見損なった!!」


「うるさいわね。アタシはあれから毎日満足よ? 廉さまはアタシを退屈から救い出してくれた。後悔したことなんて一日もない」


「だまされてるんだ!! きっとこれから後悔する!!」


「だまりなさい。そろそろ行かなきゃ。アンタたち全員、必ず殺してやるから」


 無数の煙玉を投げて視界を濁し、りくは姿を消した。

 煙に包まれた私たちは咳き込みながら、煙のない場所まで走る。


「あいつがりくか。ちくしょう。撃っときゃよかった」


「一瞬足がすくんじゃいましたね……潮くんは大丈夫?」


 尻餅をついたまま、目に涙を浮かべている潮くんに、手を差しのべる。


「やっぱり姉ちゃんは怖い……でも、みんながいたから強気でいられた。ありがとう」


 潮くんは私の手をとって立ち上がる。両手で涙をぬぐう姿は、歳相応の男の子だ。


「二人とも、やられちゃったか……」


 ぐすんと鼻をすすりながら、潮くんが顔を歪める。破壊された建物へと目線をやれば、瓦礫が山となって視界をおおっていた。


「よっと。二人とも手伝え。掘り起こすぞ」


 積み上がった木片を手際よく取っ払いながら、先輩がこちらに目線を投げる。私と潮くんも目についた瓦礫を取り去っていく。

しばらく作業していると、やっと二人を堀当てることができた。


「だめだ。息してねぇ」


 先輩がため息混じりに首を振る。

 潮くんは腕や足が吹き飛んだ二人の遺体に寄り添って、静かに涙を流している。


「人の命を何だと思ってるの……」


 仲間だった相手にこの仕打ち。人の心があるとはとても思えない。

 矢生一派の根城まであと一歩というところで、望みが絶たれた。この場にいる全員が、言葉をつぐみやるせなさを噛み締める。



「朝吹を見失った。たが奴は確かに西の方角へ逃げたぜ」


 遺体を埋めて簡単に埋葬した頃、藤堂さんが戻ってきた。見ればあちこち着物がやぶけて血が滲んでいる。


「藤堂さん、お帰りなさい! 朝吹と戦ったんですか!?」


「いや、奴が屋根の上から飛び道具を投げてきてな。避けはしたが、いくつかくらった」


「手当てしなきゃ…!」


「いらねぇよ。触んな。この程度大したことねぇ」


「そうだ、私消毒薬持ってきてます」


「だから、いらねぇっつってんだろうが。ベタベタ触られんのは好きじゃねぇ」


 そう言って私の手を振り払うと、藤堂さんは、埋葬され土が盛り上がった場所に視線を送り、眉を寄せた。


「あいつら、死んだか」


 先輩が静かに頷いてみせる。

 捜索が振り出しに戻った私たちは、吹き抜ける冷たい風に熱気を奪われながら、ただただその場に立ち尽くしていた。




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