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よあけまえのキミへ  作者: 三咲ゆま
二章 陸援隊編
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第七十六話:戦慄の足音

 ようやくシノさんのもとへたどりつく頃には、足腰が完全に死んでいた。

 長距離だから今日はオマケだと途中から歩きに切り替えてもらえたものの、蓄積された疲労は横にならないと回復しそうにない。

 頭のうしろで両手を組んで、鼻歌まじりに歩いている先輩が同じ生き物だとは思えなくなってきた。

 先輩が息をきらしているところって、まだ見たことがないなぁ。


「おお、ここだな、写真館。あれ? 英傑の文字が消えてっぞ」


 写場の入り口で立ち止まり、看板を眺めながら先輩が眉を寄せる。

 ほんとうだ。大きく墨塗りされて、その上から何やら上書きされている。

 もう英傑写真館ではなくなっちゃったのかな。


「お客様第一安心安全信頼の黄金写真館、に書き換えられてんな」


「人を呼びたい欲求が全面に出てますね」


「……にしては賑わいが感じらんねぇな。こんちはー、シノさん!」


 先輩が店内に身を乗り出して呼びかける。

 すると、歓喜の叫びとともに奥からシノさんが転がり出てきた。

 よっぽど来客を待ちかねていたんだろう。


「おおおっ! ケンちゃんに美湖ちゃーん! いいとこに来た!! ちょいと手伝って!!」


「な、何すか?」


「いいからいいから! 奥の部屋まで来て!!」


 第一声から相変わらず元気なシノさんは、にっと口角を上げながら手招きをする。

 今日はいつもよりも高い位置で髪をまとめているせいか、さらに顔立ちが引き締まって見える。

 本当に役者さんみたいな人だなぁ。


 急かされながら奥の一室に誘導された私たちは、部屋の中央を占拠する大きめの木机の前に座るよう指示された。

 机の上には大量の紙が積まれ、脇には硯と筆が置かれている。


引札ひきふだを作ってるところでさぁ。手伝ってくんない?」


 なるほど、引札か。

 商店の宣伝用に売り文句なんかを書いて、町のあちこちで配られているものだ。

 有名絵師に挿絵を依頼すれば売り上げもうなぎのぼりということで、最近は店舗ごとに競い合って人目を引く図案が次々と生み出されていくらしい。

 うちの父もいくつか依頼をこなしていたっけ。

 呉服屋さんに旅籠、あとは、いずみ屋とかぐら屋のものも。


「私たちでよかったら喜んで。一枚一枚手書きですか?」


「あったりまえさ、刷る資金もないしね。好きなように書いちゃっていいから、どんどん生産して!!」


 と、筆が手渡され、私と先輩の間に硯が置かれる。


「んで、シノさん。屋号はどうなってんすか? 看板見るかぎりすげぇ迷走してるっぽいっすけど」


 筆を握って書き出そうとした先輩が、ふと動きを止めて顔を上げる。

 そういえばそうだ。あの長ったらしい店舗名では覚えてもらうのも難しいだろう。


「ああ、それねぇ。悩んでるとこさ。 何かいい案あったら教えとくれよ」


「うーん……そうですねぇ」


 写場はどんな屋号が主流なのかよく分からないな。

 あんまり覚えにくいのはよくないと思うけど……。


「やっぱ、なんとか屋とか、なんとか写真館みたいに覚えやすいのがいいんじゃねぇすか?」


「それだと目立たない気がして悩んだんだけど、まぁ名前は素朴でもいっか。腕で勝負すりゃ」


「そうですよぉ! それじゃ、三人で考えて見せ合いましょうか」


「いいねぇ! そうしよう! んじゃ、さっそく紙に書き出してみて」


 よしきた、と三人揃って筆を動かしはじめる。

 ふらっと気軽にのれんをくぐれるような、優しい店名がいいよね。

 うーん、たとえば、お花の名前がついていたり。


 それぞれが頭をひねり、目の前の半紙には何通りかの案が書き出されている。

 あらかた出し尽くしたところで、お披露目の時間となった。


 シノさんの案は

 安価堂、美人屋、凄腕写真館の三つ。


「シノさんの案はあいかわらずやべぇな……」


 率直すぎる意見をぶつける先輩に、シノさん自身も気を悪くすることなく破顔した。


「あっはっは! こういうの考えんの苦手なのさ。ぜんっぜん思いつかない! 次、美湖ちゃんいってみよう!」


「は、はいっ!」


 おずおずと、拙い字が綴られた半紙を差し出す。

 私の案は

 さくらどう、ききょうや、あじさいしゃしんかんの三通りだ。


 自信はあまりないけれど、可愛らしい名前にはなったと思う。


「おいおい、ただ花の名前並べただけじゃねぇかよ」


「うん、でも可愛らしいじゃない。娘さんたちで賑わうかもよ?」


「はいっ! 女の子や子供達も気軽に来てくれるお店になるといいなぁって」


「……いやぁ、一枚撮るのもそこそこ値がはるんだぜ? ほとがらは今んとこまだ、富裕層かモノ好きな連中向けだろ」


 机に並んだ二枚の半紙を眺めながら、渋い表情でうなる先輩。

 まっとうな意見だ。

 けれど、そう言われたってうまく浮かんでこないものは仕方がない。


「じゃあさ、ケンちゃんの案見せてよ。ひどかったらキツめにしっぺかましていい?」


「いいっすよ。けっこう自信作なんで」


 シノさんの少し意地悪な視線をものともせず、彼は胸を張って机の上に半紙を出した。

 勢いがあって男らしい筆づかい。かと言って荒っぽいわけではなく、きれいに整った字だ。


 彼の案は、ひとつ。

 はみ出さんばかりの大きさで堂々と記されているその名を、シノさんが読み上げる。


「へぇ、小町屋こまちやかぁ」


「かわいいですねぇ」


 先輩はもっと、ゴツゴツした男くさい屋号を推してくると思っていたから、意外だな。


「誰でも小野小町みてぇな絶世の美女に撮ってやんよって意味っす。でもこれじゃ男が寄りつかねぇかな……?」


「いやいやいや! いいんじゃない!? これ気に入ったわ!」


 ばっと半紙を天に掲げてまじまじと見つめながら、シノさんは目を輝かせる。


「私も、いいと思います。何だか賑やかであったかい雰囲気感じますし!」


「だね! よぉぉし! 採用!!」


 店主の一声で、この写場は正式に「小町屋」として生まれ変わることに決定。

 迷走期間から抜け出すことが出来て本当によかった。


「小町の実際の顔はもう見れねぇけど、これからの美女は本人の顔をそのまま紙の上に残していけんのか。すげぇ世の中になったもんだぜ」


「ふっふっふ、このアタシが京中のかわいこちゃんを写真におさめてやるよ!」


「男の人も、かっこよく撮ってあげてくださいね」


「もちろんさ! アタシの腕にかかれば、ケンちゃんも八割増しで男前に撮ってやるとも!」


「……オレは、しばらくほとがらはいいっす」


 先輩の表情がみるみるげんなりとしぼんでいく。

 根付いてしまった苦手意識を払拭するには、少し時間がかかってしまいそうだ。



「そんじゃ、引札作っていくかぁ! 今日中に二百枚書く予定だからよろしく!」


 気を取り直して山を成した半紙の束と向かい合った私たちは、シノさんの発言を聞いてぎょっとする。

 もうすぐ夕方だから、下手したら徹夜の作業になってしまうんじゃ……。

 どうしましょうと先輩の顔色をうかがえば、彼はコホンとひとつ咳払いをして、向かいに座るシノさんに視線を向けた。


「手伝うのはいいんすけど、こっちからもお願いがあるんすよ」


「なんだい?」


「まず、今夜はここに泊めてほしいんすけど、いいっすか?」


「なぁんだ、そんなことか! いいよいいよ。きたない家だけど好きなだけ泊まってきな」


 むしろ人手が増えて歓迎だと、シノさんは快諾してくれた。

 よかったぁ。これで宿には困らないな。


「助かるっす、ありがとうございます! それと、暮六ツくらいからコイツと二人でちょっと外出させてもらえます?」


「ん、どした? 外でしっぽりやっちゃうのかい?」


「いやいやいやいや、そんなんじゃねぇっすよ! ちょっと調べもんがあって」


 先輩がぶんぶんと首を振って狼狽しながら否定の言葉を吐く。珍しく頬が赤い。


「慌てちゃってカワイイじゃない。そういうことなら分かった。好きな時に出てっていいよ」


「ありがとうございます! 引札作りは手伝うんで安心してください」


「うんうん。さっき二枚描いてたから、残りは一人当たり六十六枚ね。よろしくぅ!」


「ひぇぇぇ……」


 途方もない数字に、先輩と二人して喉の奥から悲鳴をあげる。

 とはいえ、千里の道も一歩から。手を動かさなきゃはじまらない。

 父が描いていたいずみ屋の引札はどんなだったかと思い返しながら、私は筆先を墨にひたすのだった。




 暮六つ。

 約束通り、私と先輩は引札作りを中断して店の外へ出た。

 人通りの増えた周辺路地で、去年の事件について聞き込みをするためだ。


 さっそく脇の通りで待ち伏せして、通りすがりの奥さんに声をかけた。

 手持ちの椀には、豆腐が二丁入っている。これから夕餉のしたくかな。


「どうも、奥さん! ……おおっと、よく見りゃとんでもねぇ美人さんだ!」


「……な、なんやのあんた?」


 親しげに片手を挙げながら挨拶した先輩は、奥さんの顔を覗き込みながら、ぱっと人懐っこい笑みを浮かべる。

 なんだか慣れた感じだなぁ。


「いやぁ、夕暮れの町を静々と歩く奥さんが絵になるもんで。どうすか、豆腐と一緒にほとがらでも」


 と、小町屋の看板を指差す。

 先ほど三人で作り直したものだ。シノさんの字でしっかり「写真処小町屋」と書かれている。


「あんたら、そこの店の人? 評判ようないから関わらんほうがええで」


「よくない……っつうと、一年前のことっすか? オレら雇われたばっかでそのへんの事情詳しくないんで、教えてもらえます?」


「ほんまに知らんの? 前はここ、薬屋でなぁ――」


 奥さんは、素直に足をとめて以前の住人について情報をくれた。

 ここで薬屋を営んでいた後家さんは、三年前に夫を亡くしたあとも独り身でお店を守っていたそうだ。

 店名は「つる屋」

 後家さんは美しく気立てのいい人で、店で出す和漢薬種は評判もよく、ご近所づきあいもさかんだったという。

 そんなつる屋さんに一人の浪士が出入りしはじめたのは、去年の夏ごろ。

 男は、腕に深い傷を負っていたそうだ。

 その傷を癒す薬を求めて店に通ううち、自然と後家さんとの仲が深まっていったとのこと。


「そんで、その浪士風の男はどんな風貌でした? なんか特徴あったら教えてください」


「それがまぁ、他藩のお人とは違うかもしれんのよ。京のなまりがあったみたいやしねぇ、あとは……腕に彫りもんがあったな」


「へぇ……そりゃ……身なりがみすぼらしいだけで、京の人かもしれないっすねぇ」


 腕に彫り物。京なまり。探している人物と一致する特徴だ。

 先輩は緩めていた口元を引き締める。


「あれっきり見ぃひんから、うちらも男の素性はよう分からんのよ。なんでつる屋さんが焼けたんかも。痴情のもつれやとか言われてるけど……」


「普段から、言い争う声は聞こえてきませんでしたか?」


「さぁ……そういう話は聞かんなぁ。ただ男の目つきがなんや嫌らしい感じで、近所の女子は脅えてたわ」


「やらしいっつうと、手篭めにされそうってイミで?」


「ちゃうちゃう、そっちの意味やない。黒目が小そおて、どんより濁った……人殺しじみた顔つきやったんよ」


 ――人殺しじみた……。

 その一言で、ぞくりと背筋が寒くなった。

 深門や矢生なんかは、町中では殺気を隠し、怪しまれぬよう人当たりよくふるまっていた。

 水瀬だけは少し怖い印象があったけれど、それでも人殺しのようだと形容されるほどの異様さは持ち合わせていなかった。

 まだ見ぬその男は、一体何者なんだろう。


「なぁるほど、よく分かりました。けど前の住人が殺されたからと言って、新しく入ってきたうちの店まで避けられんのはおかしくないっすか?」


「そこ、幽霊屋敷やって噂されてんの知らん?」


「あー……そりゃ、知ってますけど」


 子供たちからもさんざんからかわれたし、店の前を通る人々は皆目をそらしながら足早に去っていく。

 後家さんが殺された経緯に謎が多いぶん、余計に恐ろしく感じるのかな。


「夜中に戸を引く音が聞こえたり、中で動く人影を見た言う人がおってねぇ。薄気味悪うてしゃあないんよ」


「そうだったんすか……いや、でももう安心すから! 中も綺麗に掃除したし、今の住人は気さくで豪胆な人ですよ!」


「ほんまに? ほならまぁ、客引き頑張ってなぁ。うち、そろそろ行くわ」


「ああ、長々と引きとめちまってすんません。ありがとうございました!」


 お椀を抱えてこちらに手を振る奥さんに向かって、先輩とともに頭を下げる。

 邪険にせずまともに応えてくれる人で助かった。

 小町屋の雇い人を装って話しかけたのがよかったのかな。先輩の話術もたいしたものだ。




「……一年前ここに出入りしてた浪士ってのは、矢生一派の仲間に間違いなさそうだなァ」


 人通りの多い通りから一旦引き上げて、小町屋の壁に寄りかかりながら先輩が苦々しく表情をゆがめた。

 間近に聞こえる喧騒が、じめじめとした細道に漂う薄気味悪さをいくらかかき消してくれる。


「そうですね。あとは、幽霊の噂についても気になります」


「後家さんが死んで空き家になってからも、人の出入りがあったかもしんねぇな」


「はい。もう少しご近所さんに話を聞いてみましょうか」


「そうだな、今度はちびっこいってみっか」


 頷き合ってふたたび大通りに出る。

 もうじき夕餉の時間だから、遊び疲れて家路をたどる子供たちも多いはずだ。

 人波を潜り抜けながらあたりを見回していると、こちらに向かって勢いよく駆けてくる少年たちと出くわした。


「あー! 幽霊屋敷の兄ちゃんと姉ちゃんや!」


「最近見ぃひんから、小便もらして逃げ出したんかと思うとったわ!」


 目の前で愉快そうに笑い声を上げるのは、以前小町屋をからかいに来た子供たちだ。

 今日は何やら全身泥にまみれて、すさまじい異臭を放っている。

 一体何をして遊んで来たんだろう……。


「よお、がきんちょども! 派手に汚れてんな、何してきた?」


 ちびっこ二人の頭をがしがしと撫でながら、先輩は人懐っこい笑みを浮かべてその場にしゃがみこんだ。

 からかいの言葉をさらりとかわす大人な対応だ。


「へへへ、決闘!」


「向こうの長屋のやつらナマイキでなぁ、しょっちゅう戦ってるんや」


 二人は、泥まみれの木刀を掲げて誇らしげに胸を張る。

 決闘かぁ。

 男の子って何かと戦いに持ち込むのが好きだよね。

 先輩の表情も興味津々といった感じだし、話のとっかかりとして彼らの武勇伝を聞かせてもらうのもありかな。


「その顔だと、勝ったんだな?」


「もちろんや! わいら負けなしやからな!!」


「遊びでも喧嘩でも誰にも負けへん!」


 からからと笑ってみせる姿は可愛らしく目にうつるものの、きっと過酷な戦いを潜り抜けてきた歴戦の猛者なのだろう。


「やるじゃねぇか二人とも。そんだけ勇敢なら、幽霊退治もできるんじゃねぇか?」


「それなぁ、実は計画しとったんやけど――」


 ため息まじりに、二人は顔を見合わせる。

 何やらワケアリのようだ。


「どした? 怖くなってやめちまったか?」


「そんなんやないわ! ただ、わいらが突撃する前に買い手がついてもうてな」


「まさかあの幽霊屋敷で店始めるアホがおるとは思わんかったから、近所は大騒ぎやったわ」


 そこまで言わなくても……と言いたいけれど、後家さんの不審死といいその後の幽霊騒動といい、あまりにもこの家には不吉な噂が多すぎる。

 そんな場所で商売をはじめるのは、事情を知る人々から見れば無謀なことだろう。


「でもよ、ここの店主は毎晩寝泊まりしてんのに、幽霊なんぞ見たことねぇって言ってたぜ。きっと根も葉もねぇ噂だろ」


「そうだよ、二人とも。煤けたまま空き家になってたから余計にこわかったのかもしれないけど、今は中も掃除してきれいだし、人も住んでるんだから」


 いつまでも噂を引きずって避けられてしまうのはかわいそうだ。

 シノさんはあんなに一生懸命頑張っているんだから。


「けど空き家やった頃、夜中にゴソゴソ動く人影がおったんは確かやで」


「そりゃ幽霊じゃなくて、普通に生きてる人間なんじゃねぇか?」


「どうやろ。夜やから男か女かもよう分からんかった。そいつが何度か出入りしてたみたいや」


「なんだか薄気味悪いね。そんなに怪しかったら幽霊だって言われてもおかしくないよ」


 後家さんが亡くなって用無しになったであろう場所にわざわざ出入りしていたのはなぜだろう。想像すればするほど、ぞっとする話だ。


「まぁとにかく、わりと最近までその人影はここに現れてたっつうことだな?」


「せやな! ほとがら屋が入る直前まで噂が絶えんかった」


「なぁるほど、よく分かったぜ! ありがとよ二人とも」


 欲しかった情報が手に入ってご満悦な先輩は、ちびっこ二人の肩をポンポンと叩いて笑みをこぼす。

 少し長めに引き留めちゃったな。

 夕餉に間に合わなくて親御さんにおこられたりしなきゃいいけど。

 別れ際、彼らは威勢よく木刀を振り上げていつもの悪童らしい口調でこちらに言葉をなげかけた。


「兄ちゃん達も気ぃつけや。またいつ幽霊出て来るか分からんで」


「もし出たら教えてな! わいら四軒先に住んどるから助っ人にいくわー!」


 子供特有の甲高い笑い声を響かせながら、その背中は小町屋へ続く細い路地へと消えていく。

 なかなか有力な情報は掴めないな。だけど、矢生一派の足取りは少なからず辿ることができた。

 さて、私たちはどう対処していくべきか……。



「だいたい情報はまとまったな。よっしゃ、今日のところはこんくらいで終いにすっか」


「はい!」


 ずかずかと歩き出した先輩のあとを小走りで追いかける。

 夕陽の落ちかけた街にはうっすらと闇が迫り、すれ違う人々の顔にも靄がかかったようだ。

 これから薄墨を重ねるようにして次第に夜のとばりが下りる。

 背筋に張りついたかすかな恐怖心を振り払うようにして、私は強く地面を踏みしめた。




 小町屋前まで戻ってきた私たちは、戸口の脇に腰をおろして向かい合う。

 情報の総括をしておこうという話になったのだ。


「よっしゃ、話をまとめてみるぜ。まず、一年前つる屋に出入りしてたのは矢生一派の仲間でほぼ間違いねぇ」


「そうですね。それで、その後の幽霊騒動は、生身の人間のしわざかもしれない、と」


「おう。どこのどいつかは知らねぇが、何か目的があってここに通ってたんだろうな」


「夜に動くことで、幽霊に見せかけたい思惑があったのかも」


 もし私がそんな怪しい人影を見かけたら、きっと一目でお化けだと思うだろう。

 そうして二度と近寄らない。

 うしろめたいことがある生身の人間の仕業なら、その思い込みは好都合なはずだ。


「ま、続きは明日また聞き込みしてみようぜ」


「はいっ!」


 ざっと意見がまとまって、私たちは頷きあった。

 たった一日でなかなかの収穫だ。

 矢生一派の仲間が一年前の事件に関わっていたということが分かった以上、ますます気を引き締めていかなければならない。

 

「あとは、引札だな」


「あはは……今日中に仕上がるでしょうか……」


 過酷な労働に戻るべく、二人して小町屋の敷居をまたぐ。

 ようし、シノさんのためにも頑張るぞぉ!!




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