プロローグ 魔王の物語①
「お母さん、今日はどんなお話なの?」
「今日はね、魔王さんのお話にしようか」
「うん!早く寝る支度しないとね!」
俺はさっさと歯を磨き、シーツを敷いて、シャワーを浴びて、寝る準備を全てすまして、母を待つ。そして、
「お母さん!遅いよ!もう早く早く!!」
「はいはい、全くあわてんぼうなんだから」
そういう母の腕にはあの本が抱えられていた。そして母が俺のベッドに入り、
「さあ、物語の始まり始まり~」
・・・
むかしむかし、私達のご先祖様が生まれるよりもずっと、ずっと昔の事です。
ある寂れた村に、ある男が居ました。その男の頭、ちょうど耳の真上あたりには、角のような、丸く、大きな、瘤がありました。その瘤のせいで、その男は、両親に生まれたその瞬間に見捨てられて、孤児として生きなければなりませんでした。本来ならばそこでその男が死ぬ、それで終わります。しかし、彼、その男、はとても生命力が強かったのです。生まれてから1週間何も食べずとも平然と生き残り、10日も経つ頃には、彼は立ち歩き、言葉も話すところまで成長したのです。しかし、それも相まって、孤児院や教会にも受け入れてもらえずに、それでも生きるために必死になって物乞いを続けていました。
そんな彼の事を、村の人々は、「忌み子」と呼び、差別し、時には殺そうとして、彼を迫害しました。
ある日、あの悪魔が、村の恵みを醜い笑顔でふんだくっていった日の夜、
「死ね!お前みたいな忌み子がいるから、俺の息子は病気にかかってしまったんだ!!」
「そうよ、忌み子がこの村に来てから、収穫もどんどん悪くなっていって、今年なんて、身売りが出たのよ!」
「死ね!屑!」
「しーね、しーね!!」
「お前なんかいなくなればいいんだ!!」
彼への「罰」がいつもよりも多く降り注いだ、その日に、その村の村長さんは、
「彼を追放しよう。」
その忌み子を追放することに決めました。
「さあ、どこに行こうか、な。」
追放されたのにもかかわらず、少し晴れやかな声と、とても不機嫌そうな表情を浮かべた、彼は、あてもなく、村から村へ、街から街へ、あてもなく渡り歩く旅に出ました。
「そうだね、とりあえず右にまっすぐ進んだらいいんじゃないかな?」
・・・右を向くと、そこにはただの大木、いや、かなり太いのだろう、彼の横幅を軽く超える程の直径を持つ、広葉樹林があるのみである。
「じゃあ、お前が先に通ってみせろよ。」
多少攻める彼だが、
「あのね、君の肩に乗って生きているんだから、君より先に動けるわけないでしょ、馬鹿なのかな?」
彼の背中に立つ生物、その男の言葉攻め位なら簡単に躱せるほどに知能のある、彼が村を出ていくときに拾った、謎の猫と共に。
・・・
「ねえ、お母さん、続き、早く読んでよ!!」
「はいはい、ちょっと待ってね。」
そういって、俺の母親はいつものようにページをめくる。その紙の擦れる音で俺はまたその話に吸い込まれていく。
・・・