あのパーティ、バランス悪い。
「お前らなんとかならないの?
そのバランスの悪さ。」
ソバカスのちった少女アーリヤにアイテム屋が半眼でぼやく。
目の前の少女は三人の少数パーティの女性三人のうちの一人。
女性というには年が足りない、よく言えば純朴そうな、悪く言えば田舎臭いアーリヤは見ていて危なっかしくついついお節介や説教してしまう存在だった。
店主が心配するのも無理はない。
頼りない上にアーリヤは治療師、リーダーのレイリーは魔術師、アイテム屋内の椅子に腰かけている夜と闇の神官のナギというメンツはいわば後衛職チームであった。
普通に考えて、やっていくのは難しい。
今もナギを筋肉粒々とした冒険者の男たちが囲み、ぜひに自分のパーティへと誘いをかけている。
黒と群青を基本とした神官服を身に纏い、銀髪に赤い目のアルビノであるナギは美しい。
触れたら壊れそうな雰囲気というか、そんな彼女に庇護欲を掻き立てられる者も多い。
うつむき加減に静かに首を振る姿は美しいが、そこそこ付き合いのある店主はナギがイライラしはじめていることを感じた。
あれは危ない。
大人しいナギはキレると昏睡の術をかける。
深い眠りにつくだけだか、彼女のはなかなか強力で最低3日は目覚めない。
しかも悪夢を見続ける。
以前しつこく誘いをかけたパーティに追いかけられたナギが店に逃げ込んできた事があった。
あれは恫喝だった。
ストレス値MAXのナギが放った昏睡の術は一週間に及んだらしい。
それは自業自得だが、問題はその後だった。
店内に倒れた野郎共を店の外に放り出す作業はほとんど店主が行った。お陰で腰痛が酷くなり、立ち上がれなくなった。
アーリヤに治療を施され、ナギとレイリーに感謝と謝罪をされたが、もうあってほしくない出来事である。
「うちのメンバーに迂闊に声かけるとはいい度胸だな。」
さほど大きい声ではないのに、アルトの声は室内によく響いた。
マッチョ達が固まる。
ギギギギギギっと、軋む音か聞こえてきそうな動きで男達が振り返ると、アイテム屋の扉に立つ一人の女性。
三人パーティの最後の一人、リーダーの魔術師レイリー。
すらりと背の高い、怜悧な美貌の女性。スカートをはいてはいるがシルクハットに、上品なコートに手袋という服装は一見手品師か貴族の紳士のような格好だが、その手にはバスターソードが握られている。
繰り返すが、彼女の職業は魔術師である。
コツコツとブーツの踵を鳴らし、室内へとやってくる。
「ナギ、お前もいい加減ハッキリ言った方がいい。
脳筋には曖昧さや行間を読むといったことはできない。
嫌なら徹底的に潰せ。
変質者と犯罪者と楯突く者には容赦はいらない。」
淡々と言うが内容は容赦ない。
「…レイ…、そうね、ハッキリ言わないと…」
悩ましげにため息をついたナギは筋肉達磨達を見る。
そして意を決したように、話した。
「私は華奢な少年や青年たち同士がより集まっているのを見ると嬉しくなります。
けれども、自分が囲まれる事は望んでおりません。
むしろ男性と話すのは苦手です。
細マッチョは許容範囲ですが、ゴリマチッヨ及び、筋肉達磨は視界に入れたくもございません。
臭いがダメです。離れてください。」
更に容赦ない言葉がナギから放たれる。
マッチョたちの心のHPは瀕死寸前だ。
「お前ら、繊細なナギを傷つけるとは最低だな。
謝罪と賠償を要求する。さぁ、有り金出せ、今すぐ出せ。」
「お前はどこの山賊だ!!
おい野郎共、搾り取られたくなきゃさっさと消えろ。」
畳み掛けるみレイリーに店主がツッコミを入れた。
その間にマッチョ達は逃げていく。
「店主よ、なぜ逃がした。」
「店ではやるなってことだ。店の外までは俺も知らん。」
レイリーもレイリーだが店主も店主である。
「アーリヤ、ほら代金。
で?今日は買うもんはあるか?」
「快眠持ち歩き枕を下さい!
後、ナギちゃんにあったかモコモコ靴下、レイちゃんにヒヤッとシート。」
アーリヤが元気に言う。
彼女はおおらかではあるが、枕が変わると快眠できないと言う冒険者になぜなった⁉とツッコミを入れずにいられない体質の持ち主だった。
この店の枕に出会うまではナギの術に頼るか、極限まで体力を削り死んだように寝るか、寝不足でふらふらになるか、の三択しか無かった。
アイテム屋の主人はアイテム創作の腕はピカ一なのである。
ナギは極度の冷え性、レイリーは逆に暑がり、とそれぞれ悩みを持っていたが冒険者向けらしくないアイテムまで売っているこの店によってだいぶ助けられている。
「ほい、持っていけ。
今回のお代はサービスだ。酒場や食堂で宣伝してくれただろ、売り上げが伸びたから。後、いつもひいきにしてくれてるからな。」
「「「ありがとうございます」」」
三人揃って、頭を下げる。
何だかんだと言って、皆一応礼儀正しいのだ。
キャッキャ話ながら店を後にする三人を見送った後、店主は呟いた。
「本当に、あいつらバランス悪いよなぁ…」
外から、しつこい!というレイリーの声とブヲォーンという魔力をのせたバスターソードが起動する音と轟音と男の悲鳴、
いっけーというアーリヤの声と可愛らしい子犬の鳴き声と男の悲鳴、
ナギの呪文を唱える声と目ガァ、目があああああああぁぁぁぁという男の悲鳴が聞こえる。
魔術師レイリーは物理でも殴れる、をモットーとする異端児。
治療師アーリヤは凶悪な魔獣をも従える異色の召喚士。
神官ナギは強すぎる力と暴発を恐れた神殿から出された問題児。
彼女達は最強で、最凶。
おそらく魔王すら余裕で倒せるのではないのだろうか。
明らかに戦力超過である。
店主はため息をついた。
やろうと思えば勇者にも、世界の覇者にもなれるだろう。
それ故に、
「あのパーティ、バランス悪い。もったいなさ過ぎる。」
ナギさんはびーでえるなものが好き。ただし、ほのぼの系。