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こんにちはスターリン先生  作者: にとーへん
3/3

悪口を言ったり批判すると強制連行されるようですよ。

 1限目の授業が終わると、私はマオちゃんのところへ足を運んでいた。

 いじめグループに所属する3人の生徒――つまり、グループ内の半数の人間――はいつの間にかに何処かへと消えてしまったようで、私はもう臆病になる必要はなかった。

「マ、マオちゃん」

 彼女に声をかけるとき、胃が痛くなるほど緊張した。それに加えて、申し訳なかった。

 私のような人間が、彼女に喋りかけていいのか悩んだ。実際に喋りかけている最中も迷ったままだった。

「ごめん」

 よく分からないけれど、そんな言葉が口から出た。

 私は誰に対して何を誤っているというのか?

 それが分からなかった。

「別にいいよ。私があなたでも、同じことをしたもの」

 彼女は怯えた目を隠すように、目元まで前髪を垂らしながら、それでも顔を上げて優しく微笑んでくれた。

 目にクマができている。とても、疲れているのだろう。だけど、彼女は気丈に振舞っていた。

「で、でも……」

「本当にいいのよ。私はあなたが加担しなかったことが、すごく嬉しかったの。それだけで十分だわ」

「うざー」

 マオちゃんの綺麗な言葉に混ざって、人を不快にさせることが目的の、悪意を孕んだ台詞が耳に入ってきた。

「お前らみたいなキモいやつ、死ねばいいと思うよ?」

 いじめグループの中で一番大人しい子。それでいて、一番陰険な子。

 彼女はそう言って、まるでゴミでも見るかのような視線を向けて来た。

「あ、あ、どうしよう……。あなたまで、いじめられちゃう……。どうしよう……」

 マオちゃんは申し訳なさそうに俯いて、困ったように眉をひそめた。

「ごめんなさい」

「なんで、マオちゃんが謝るの!?」

 私は思わず叫んだ。

「悪いのは私だよ。いじめを知ってて放任した私だよ!」

「ごほん――」

 横から咳払いが聞こえた。

 見やると、新任の先生が立っていた。

 背が高くて、背筋がスッと伸びていた。肩幅が驚くほど広かった。

「今、いじめと言ったかね?」

「ええ」

 私は目を細めて言った。

 彼なら、この新しい担任の教師なら、クラスにはびこるいじめをなんとかしてくれると思った。

「私たちをいじめる子がいるんです」

「具体的にどのようないじめをしてきたのかね?」

「うざいとか、死ねばいいとか。そんな感じの悪口を言ってきました」

「ふむー。悪口はよくないな」

 教師は視線をいじめっ子に向けた。

 その瞳は微動だにしなかった。

「ちょっと、職員室まで来てもらおうか」

「はあ? 悪口を言うことの何がいけないっていうの? 何が悪いのか説明してください」

 マオちゃんを日頃からねちねちといじめていた彼女は、そんな風に開き直り始めた。

 正直、見苦しかった。

 もう詰みなのに、自ら頭を下げて素直に「負けました」と言えない、どこかの棋士のようだった。(私のことだ)

 そして、彼女の開き直りは、この新米教師の批判へと発展し、まだまだ続いた。言葉遣いが過激になり、興奮状態にあるようだった。

「大体、お前の授業は分かりにくいんだよ。長々と数式を書きやがって。数学が将来役に立つのか? あ? 立たねーだろ。そんなことも分かんねーのか? 馬鹿なんじゃねーのか、お前。お前は頭悪いんだから、小学生から人生やり直してこいよ。それにな、ずっと思ってたけどな、その髭似合ってねーんだよ。だせーんだよ」

 子どもから言語道断の悪口を言われているのにも関わらず、大人である先生はそれを黙って聞いていた。

 時折、ふむふむと頷き、彼女に対して理解を示そうとしているかのようも思えた。

 それから、しばらく思考し、彼はゆっくりと口を開いた。

「今の私に対する批判はなかったことにしよう。君たちも聞かなかったことにしてくれ」

「………」

 私たちは不承不承に頷いた。

 それに対して、悪口を捲し立てた本人は、少しばかり得意げに見えた。

 きっと、この教師が自分の意見を受け入れてくれたように感じて、嬉しかったのだろう。

 新任の教師は、私たちの方を向いてわずかに微笑むと、唐突に私たちを非難した女子生徒の頭に紙袋をかぶせ手錠をし、彼女の細い腕を乱暴に引っ張って教室を出ていってしまった。

 その光景にマオちゃんは唖然としていたが、私は「やっぱりこうなったか」と思った。

 平和だなーと思った。


今考えたんですけど、「ディストピア=ユートピアの法則」とか、ちょっとカッコよくありませんか?

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