首都へと向かう道1(修正予定)
まったくの別話になってしまいました。
次の話もそんな感じになると思います。
首都へと向かう道中
木々が生い茂り、のどかな風景が広がっている。 朝の晴れ晴れとした光が目にまぶしい。 俺とザヘル、イーナスは軽く笑い話をしながら、のんびりと歩いている。 基本俺は親父と二人で生きてきたため、こんな楽しい道中は初めてだった。
「実はさ、今回の旅のために唯一作れる魔法道具持参したんだ」俺はどうでもいい会話をしている。
ザヘルは興味ありげにこちらに聞いてくる
「それはねぇ……。 これ、閃光玉」
「へ……。へぇ」ザヘルは困ったような顔をしている。
「武器とかじゃないんですね?」イーナスの凛々しい声が俺に聞こえてくる。
「まだ武器はつくれないから」と正直に俺は白状した。 実際俺が作れる魔法道具はまだ、閃光玉ぐらいである。 希少原料ではないが、光石が俺の家周辺でたくさん採れるのが要因だ。
こんな感じで時間が過ぎていき、首都につくのも時間の問題だろうと思った矢先。現実の非情さを思い知る。
目の前に子供が倒れている。 俺はその光景を発見し、すぐさま近づこうとすると、ザヘルに止められる。 基本めんどくさがりの俺だが、アンちゃんを助けたように、比較的常識的な正義感は持っている。
「カナルさんは、戦闘経験もないですし危ないですからここで待っていてくださいねぇ」俺はなんの考えもなく飛び出そうとしたことを反省した。
ザヘルは警戒しながら近づいて行く。 野盗の罠かもしれないからだ。 確かにイーナスは安全な道を選ぶと言ってくれた。 そう、この道は首都へと向かう道で最も安全な道なのだ。 だからと言って、絶対の安全なんてない。 どんなに安全な道でも、何かしらあるかもしれないということだ。 俺が昔、目にした嫌な光景も、安全と言われる道で起きていたのである。
ザヘルは周囲を確認し、罠ではないことを確かめ「そこの君、大丈夫かい?」と質問する。 いつもの嫌味ったらしい口調ではなく、紳士的で頼りになる大人の口調だった。
「うぅぅ、痛いよぉ。 痛いよぉ」子供は気絶し、うなされたように痛みを訴えかけてくる。
ザヘルが子供を抱きかかえ、俺たちに近づいてきた。 近づくにつれ、子供の状態があまりに酷いことに驚愕した。 まだ、若い少年なのだが、顔には無数の青あざ、体中に殴られたような跡、必死で逃げてきたのか、靴も履いていない。 俺はあまりの惨状に下を向き、黙ってしまう。 イーナスはと言うと、少年に対し、治癒魔法をかけ始める。 少年を見る目は俺が知るイーナスとは違い、悲しそうでいて、悔しそうだった。
「なんで、子供がこんな目に遭っているのですか」イーナスは治癒魔法をかけながら、どうしようもない怒りをザヘルへと質問することで解消しようとしていた。
「なんでですかねぇ。子供はもっと安全に暮らして、楽しく生きてほしいのですがねぇ。こんなこと、あってはならないんですがねぇ」会ったばかりの俺にもわかる。 ザヘルはこの状況に憤りを感じている。
「酷いぞ、これは酷すぎる」この状況に俺も怒りを感じていた。
治療を始めてから数分後、少年が目を覚ます。 まだ、完全治癒と言う訳ではなく、少し動ける程の状態である。
「少年、君をこんな目に合わせた奴を教えてくれませんか?」少年に対し、ザヘルが紳士的に話しかける。
「あいつが、あいつらがこんなことしたんだ」少年は涙ながらに語りだす。
「僕らは、この道の近くの村に住んでいるんだけど、つい最近よくわからないやつらが出るようになったんだ。 最初は、僕たちがマナルスへ行こうとすると、お金を寄こせと言ってきたんだ。 大人たちは、無視して先に行こうとしたんだけど、あいつらにたくさん殴られ、お金を無理やり取られちゃった。最初はそれだけだったんだけど。最近だと、僕たちの家に勝手に入って、いろいろな物を盗って行くんだ。 今なんて僕たちの村の王様みたいになって村長も逆らえないよ。」
「うぁぁあぁぁ」
少年が恐怖に震えた声を出し、木の上を見つめる。
そこには、背が低く、フードをかぶっているが、顔の特徴を隠せていな、出っ歯で吊り目の男が立っていた。
「ダメじゃないか。勝手に村の内情を話したら」謎の男が木の上から少年に話しかける。
「ご、ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい」何度も何度も少年は木の上の男に謝る。
その言葉に対し、男は気をよくしたように「いいんだよ。 謝れば、ちゃんとわかってくれればぁ」と少年に話しかけた。
少年は安心したよう胸をなでおろした。 だが、次の瞬間「なぁあああああんて、うっそおぉおおお。」と言い、吹矢で少年を狙い撃つ。
俺は咄嗟に少年の顔めがけて飛んでくる吹矢を手で受け止めた。吹矢の痛みはちくっとする程度で大したことなかったのだが不穏な言葉を男が言う。
「正義感丸出しの君、やっちゃたね。 それ死にはしないけど、何年もかけて体を溶かす毒だから。解毒剤は私しか持っていないから村までその子を届けに来てね」そう言い残し、どこかへと男は消えていった。
俺は、冷や汗をかき「やばくない? これぇ」とイーナスとザヘルに話しかける。
イーナスが「それなら、この聖剣リーリスで解いちゃいましょうか」と提案した。 そうだ、聖剣リーリスはこの状況を簡単に打破することができるアイテムだ。
俺はその提案を快く受け入れた。
「また、世話になるけどよろしく頼む」俺は死ぬよりは痛みの方がましと思いながら、剣で斬られるのを待っている。
「じゃあ、行きますよ」イーナスは俺の腕に刃先を付け引こうとした瞬間、ザヘルが一言。
「聖剣リーリスって毒には聞かないんじゃないですかぁ」
「そうなの?」俺はイーナスの目を見て確認を取る。
恥ずかしそうにイーナスは無言でいる。 そして、小さく頷く。
俺大ピンチじゃん。 窮地に陥ったことを理解し、絶望に打ちひしがれる。 そんな状態の俺を見かねてザヘルが提案をする。
「今の状況は決して良くありません。 ですが、村に行けば解決すると思いますし、とにかく村に行きましょうかねぇ」
「そうですね。 カナルさんの状況をこのままにもできませんし。 それに村の悪者の成敗もできそうですし、一石二鳥ではないですか」イーナスは軽く新たな目的を追加した。
確かに、俺としてもその提案に賛成している。 だが、規模も分からない連中と三人、実質二人でどうにかなるのだろうかとも考えていた。
「ありがとう、二人とも」俺は感謝の言葉を少し泣きながら発している。
二人は少し引き気味で同時に「泣かなくても」と言ってきた。
少年は三人の会話を聞き確認してくる。
「お姉ちゃんたち、強いの?」
「お姉ちゃんとザヘルお兄ちゃんは強いよ。きっと君が思う何倍も」イーナスは少年に対し自信満々で言い放つ。
「ありがとう」と少年は満面の笑みを俺たちに向けてくれた。
少し歩いた後に、村が見えてくる。 さほど大きな村ではないようで、見える限りの家は10軒ほど、ほとんどがレンガや木で作られている。 よく言えばのどかで、住みやすそうな村。 悪く言えば不便で面白みのない村と言う感じだ。 村の門に到着すると、そこには三人ほど人相の悪い連中が立っていた。
「お前ら、この村には何の用だ?」一番ガタイの良い奴が、俺たちに質問をしてくる。 たぶん野盗の一味だろう。 俺はその大きさに驚きながら、イーナスの後ろから様子を見ている。
「私たちは、ここにいる出っ歯の男に用があります」先頭に立ち、イーナスがいきなり大声で話し出す。
「さあ、少年を届けに来ましたよ。 解毒薬を渡しなさい」威厳のある声が村中に響く。
数分後、出っ歯の男が現れ可笑しそうに笑いながら近づいてくる。
「あれぇ、さっき正義感いっぱいだった三人組じゃないか、やっぱりそこら辺んガキを助けるよりも仲間を優先したんだ。 そこのガキかわいそうだなぁ、せっかく助けてもらえそうだったのにぃ」ザヘルとは違い、根っからの嫌味ったらしさが、俺たちに怒りをもたらす。
「じゃあ、そこのガキ渡してくれよぉ」出っ歯の男は当然の様に俺たちに話しかける。
それに対し、イーナスが一言。
「誰が、そんな簡単に少年を渡すと言いました?」感情を抑えてはいるが怒りが見え隠れする。
出っ歯の男は、乾いた笑いを発しながら、「なるほど、私を倒して、ガキとさっきの正義感丸出しのアホを助けるつもりと」と確認する。
二人は同時に「もちろん」と言い放った。
「面白いですね、でも、私たちは四人いることをお忘れで?」と馬鹿にした顔つきで俺たちを睨む。
「レブさまぁ、この女後で俺たちの物にしちまっていいですかぁ?」人相の悪そうな男が近づいてくる。
「それは面白そうなことを考えましたねぇ。いいですよ、好きなようにしても」あくどい商人のような顔つきでレブと呼ばれる出っ歯の男が頷く。
「へへっ!! そいつぁ、楽しそうだ」
「おれも、おれも混ぜてくれ」
「どんだけ楽しめるか、賭けをしようぜ」
三人の男はいかにも程度の低いチンピラのように俺たちを見て笑っている。
その光景を見ていると、小さな声でため息が聞こえてくる。 ザヘルが発したものだ。
「こんな程度の低い連中に私たちが負けるわけないんですよねぇ」ザヘルは鞘が付いたままのサーベルを構え、一歩ずつゆっくりと前に出ていく。
その光景を馬鹿笑いしながら男たちが一人、また一人とザヘルへと向かっていき、囲んできた。
三対一圧倒的に不利だ。 てっきりイーナスとザヘルで戦うと思っていた俺は、この状況に動揺している。 本当にこの状況を変えられるのだろうか? だが次の瞬間、その考えが杞憂に終わる。
「ぐへぁ」
「うへぇ」
「ぐふぅ」
三人の男はすぐに撃退される。
一気に迫ってくる三人を華麗に避け、一人ずつ後ろを取り、危なげなく首の後ろにチョップをし、倒して行く。 サーベルを構えていたから使うのかと思っていたが、サーベルはただ持っているだけだった。
俺はその光景に「ザヘル、やっぱりあんたすごいんだな!!」と素直に称賛し、俺自身にも力があればと少し考えていた。
「ザヘル様、毎度のことながらお見事ですね。格闘技」
「まあ、このぐらいならねぇ」誇らしげにザヘルは自身のガントレットを見つめる。
「レブさん、どうなさいますか? 先ほどの有利な状況は打開しましたよ。 それどころか、二対一の状況になっていますよ? 今解毒剤と村の解放を約束すれば、見逃しますけど?」ザヘルは圧倒的有利な状況で取引を申し込もうとする。
「確かに、この状況は良くないですね。降参です。解毒剤ならここに、村の解放も約束しましょう」両腕を上げ、戦意はないとアピールし、案外あっけなくレブは交渉に応じる。
もう少し粘ると思ったのだが、状況を見れば当然の決断だろうと無理に納得した。
解毒薬を取りにザヘルが近づく。 一応の警戒を込めているのだろう。 そして、解毒薬を手に取った瞬間。
ヒュ~。
レブの口笛が鳴り響き、不穏な雰囲気を感じる。
物陰からぞろぞろと、何か見覚えのないものが出てくる。 フードをかぶり、自身の正体を隠しているようだが、身長で大体想像がついている。 彼らは子供。 フードの下から赤く光り輝く眼光をしている。 どう見ても、遊んでほしいから来たという雰囲気ではなく、何か得体のしれないものにコントロールされている感じだった。
周囲の光景に俺たちは唖然とし、動きが止まる。 だが、その行動が命取りになった。
パリン。
ザヘルが目を離したすきに解毒剤のガラスは割られ、割った張本人、吹矢の使い手。レブを睨みつけ、問い詰める。
「先ほど、降参したように見えたのですがねぇ」怒りに震え、声も震えている。
「へっ、聞こえないなぁ、聞こえなーい。もしかしてさっきの話ですかぁ? あれはねぇ、またまたうっそぉおおおおおおおおおおおおお」レブは嘲笑している。
「もう、許せない。絶対に許さない」先ほどから常に怒り心頭中のイーナスがついに完全にキレた。
ものすごいスピードでレブへと向かおうとするが、そこにはフードの子供たちが立ちはだかる。
「そうだ、この子供たち全員村の子供で、今私の操作下にあるので、全員を倒してから向かってきてくださいね」と言い残し、村の奥へと逃げていく。
俺たちを子供が囲っている。 和気あいあいとした会話や、ごっこ遊びの最中などでは断じてない。 明らかな殺意のある子供に周囲を囲まれているのだ。 俺たちはこの状況を打破し、どうにかレブを倒さなければならない。
「どうしますか、イーナスこの状況」ザヘルはサーベルを構えながら相談をしている。
「どうって言っても、この状況じゃ」イーナスは困っている。
少年はおびえながら周囲を見て、「みんなどうしたの? 僕だよ、僕」この状況を理解できていないようだ。
全員が助かり子供を攻撃しない方法、そんなのあるだろうか?
ザヘルのチョップなら、全員軽症で済みそうである。 だが、軽症でも子供に罪はない。 ただ操られているだけだからである。 じゃあ、イーナスは? 彼女の聖剣リーリスならこの状況を打開できるかもしれない。 だが、ザヘルの時より状況は悪くなってしまう。 あと思いつくのは? そうだ、あれなら。
「三人ともこの状況を打開できる方法を思いついた」俺は自信ありげに話し出す。俺は重要なことを忘れていた。 俺の職業は店の店主。 兼魔法道具製作者。 そんな俺が、今の状況で役立てそうなこと。 そうそれは。
「少年少女、こんにちは、俺はカナルと言うだ。 覚えておいてくれ。 今から不思議なことが起きると思うけど、決して君たちに敵意があったからやったわけではないことを忘れないでいてくれ。それじゃあ、俺に注目」周囲に子供たちが集まってくる。 どうにか俺に注目を集めることは成功する。
そして、次の瞬間。 パァーン。と周囲に音が鳴り響く。 まばゆい閃光とともに、俺は目をつぶった。 少年少女はその光景を理解できずにずっと見つめている。
「そうだそれでいい」俺はその状況を待っていた。
「めがぁ、まえがぁ、何も見えないぃ」目についての悲痛な声が聞こえてくる。 我慢してくれ、少しの辛抱だから。
俺たちは勢いよく村の奥へと走り出す。 憎きあの男、レブを追って。