第7話
「ロゼッタ打ち合わせというのは冗談だ。今日のルリの様子を聞こうと思ってね」
二人は部屋に備えられているベッドにそれぞれ腰を落としていた。
ロゼッタは大の字に伸びきると冷静を装って今日の出来事を伝えた。
「あーカードつくって服と本買って終わり! あ、喫茶店で一杯ひっかけてきたな」
「そうか。何事もなくてなによりだ・・・」
クロエは両手を組んで顔の支えにすると、訝しい顔をロゼッタに向けた。
「ロゼッタ、あの子のことでお前だけには伝えておかなければいけないことがある」
ぶぅん、と窓際に大きな半透明のスクリーンが投影された。
これはクロエの開発した複合魔法であり、記憶や情報を視認・音声化するスキルだ。もっとも元となる空間魔法・時魔法・魔力操作を3つ保有している人間が少なく、その発想にたどり着けないことから事実上のユニークスキルと化している。知っているのはギルドメンバーのみだ。
「事情があって連れてきたってクロエが言ってれば、みんな文句言わないってばー」
「そうではない。まあ黙って見ろ。連れてきたときの映像だ」
コヨーテと出会い、ルリを預かるまでの数分間
「神獣でカーバンクルとか胸アツすぎるわー」
目を輝かせてるのは強さではなく、その額に納まる宝石なのは百も承知のクロエ。
「で、なんか問題ある?」
「ただの子供だと思っていた。だが今日ドロシーのところで袋の中身を検証してもらった。もちろん私も『鑑定』で調べてはみた」
そっと胸元から桃色のハート型の宝石を取り出してみた。ロゼッタが飛び起きて慌てて宝石を奪う。
「養育代としてこれと同じ感じの宝石を全部で15個もらった」
「・・・・・おっ・・・うわっ・・・これ、一個で一生遊んでくらせる」
「売れれば、な」
「盗品?」
「いやその線はないだろう。私とドロシーの見解だとそれは無限カーバンクルの額の宝石であり、内包する魔力と未知の力から価値はつけられない。売りに出したら間違いなくトラブルになる」
薄暗くなってきた部屋で宝石の輝きを確認するためにロゼッタが魔法を使用した。ランタンもあるのだが、魔法に比べるべくもないささやかな明かりだ。
「明かりよ迸れ」
普通は豆電球くらいの明かりよ灯れを使うところなのだが、上位光魔法を修得している彼女には蛍光灯のような白い明かりをもたらす明かりよ迸れが常識となっていた。
「売れないのかーそうかー残念すぎるー」
「そう気を落とすな。ドロシーのほうで研究してもらって有効利用はしよう。それと冒険者ギルドでカードを発行したはずだがスキルを教えてくれないか。神獣の加護か鑑定エラーで視ることができなかったのでね」
レベル1から聖騎士であり、超人、幸運、奇跡、祝福という未知のスキルのオンパレードだったことを伝える。『両性』の件は秘密、要は知らないフリをした。
「幸運は、レベルに応じて経験値の取得量や売買での取得金が多くなったり、稀に攻撃や回避が上手くいったりするという文字通り『幸運』のスキルだ。稀に所持者はいるな。祝福は・・・何代目か忘れたが勇者が持っていたとされるスキルで効果は不明だったはず。奇跡は、神官系スキルみたいな名称だが、スキル、としては初めてだ。超人に至っては皆目見当もつかん」
「さっすが主席で委員長様」
その解析っぷりに褒めるロゼッタ。さすが学校で歴代最優秀と誉めたたえられただけはある。
「それで『問題』はなさそうか?」
「ぜーんぜんナッシング、それよりも『契約』して探索に連れて行くの?」
「それはよかった。今回は連れて行かないが、聖騎士の素養が揃っているならいずれ前衛にと考えた。タダメシを食べさせるほど余裕はないからな。・・・まあ契約はそのうちするとして、まだ探索は早いだろう」
(ルリのことわかって『契約』するの!?ずるいっ!!)
「ん、どうした眉間に皺がよっているぞ」
「あ、いや、ちょっと宝石売れないかなーってさー」
「難しいな」
しばらく覗き込んでいた宝石が売れないとわかり興味をなくしてクロエに返す。
「それと明日だが、攻略準備している間にルリの装備を整えてほしい。なに子供用のセットで十分だ」
「えっ、明日って、あたし青空教室の順番なんだけど」
「ああそうだったか。青空教室は浮浪孤児にとって重要だ。代わりに・・・メリッサあたりに頼むとする」
「えー」
例の一方的な約束を果たそうとしていたロゼッタは非常に残念がる。
外はすでに夜のとばりがおり、街灯の少ない町は黒く染め上げられ、代わりに満点の星空が空を彩る時間となっていた。
****************************************
一方、その頃ルリは薄暗くなった部屋でメリッサを待っていた。
(明かりは高価なのかな。暗くなったら急に眠くなってきたな)
清拭の湯とやらを待っていたルリは満腹と昼間の疲れもあいまってウトウトしはじめていた。
足元にある服や教本も興味があったが、それ以上に純粋な睡魔に襲われていた。
「はいりますぅ」
ノックもなしに扉が開けられると、ランタンを携えたメリッサがやって来た。そのランタンを天井から吊るされていた紐にくくると優しい光が部屋全体を包む。
揺れる光の中、ルリが瞼を閉じながら待っていると、廊下に準備していた湯桶をメリッサが運びいれていた。
「ルリちゃん起きてます?」
返事がない。座ったまま眠りについてしまったみたいだ。
「しかたないですわねぇ~汚れたままだと可愛いお顔が台無しですよぉ。起きないならお姉さんが拭いちゃいますよぉ」
ルリの意識はほぼ途切れかけていた。
メリッサは温和な口調だがその瞳が若干悪戯な光りを放っていた。
(えっとぉこれはぁルリちゃんの為にすることでぇ、別に特殊な意図ではないのでぇ委員長には怒られない、はずですぅ)
清拭とは、その汚れた身体を水(今回はお湯)などで綺麗にする作業のことを指す。お風呂という習慣は存在するのだが、各家や安宿にまで普及していない。
「それではおやすみなさいルリちゃん」
「―ふぁい・・・・・おやすみなさい」
身体を丹念に丹念に丹念に丹念に丹念に隅々までお湯で拭かれたルリはベッドに入れられるとその眠りが加速して少しイビキをかいて爆睡した。
メリッサは超ご機嫌で部屋を静かに退室した。
イエスロリータ(ショタ)ノータッチ 某国の名言である。