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第6話


 ―宿屋&食堂『旅人の癒し亭』


 探索者ギルド花の乙女(フラワーメイデンズ)の常駐宿に戻ってくると、ロゼッタと相部屋のメリッサだけが帰宅していた。

 どうやらマリーゴールドとロジーリリーは用事がありドロシーと呼ばれるメンバーの別邸へ泊るとのこと。リッカはクエストが無い時は常に行動不明なので気にしていないらしい。


「マスターはぁオルドア遺跡の件で準備に忙しいので帰ってくるかすらわかりませぇん」

「だよなーお抱え商人とかいれば楽チンなんだけどな」


 ルリはこの広い食堂でなぜ二人にぎっちり挟まれているのか疑問だった。それも柔らかい体で完全に封殺されている。半分は男性なので悪い気はしないが、あと半分はやや苦しいと感じていた。


「んじゃーメシ喰ってだらけるか!」

「そうですねぇ。ルリちゃんは食べたいものとかありますかぁ?」

「メニューとかありますか?」


 木製長テーブルには台拭きすら用意されていないし、壁にメニューも貼られている気配はない。一体全体どうやって注文するのだろう。


「そんなのねーよ。うちらはギルドで金払ってるから、肉・魚・野菜って適当に頼めばそれなりに出てくる」

「月末になるとお肉は厳しいですけどねぇ」


 すると如何にも冒険者といわんばかりの中年男性3人が食堂にやってきた。夕食というより仕事後の一杯をしにきたのだろう。そのままカウンターへと向かうと注文した。


「いらっしゃい!泊まりが銅2、食事が別で豆銅5、酒は豆銅3になりやす」

「2・5・3か。安いな。泊まりで酒も頼む」


 リーダーらしい男がそう言うと銀貨1枚と銅貨を数枚だしていた。どうやら先払いシステムらしい。泊まりで逃げ食い逃げされてもあがったりの商売だから当然かもしれないとルリは納得していた。


「僕なんでも食べれます。メリッサさんと同じのでいいですよ」

「気使いすぎ、好きなの喰えよルリ」

「初日なんですからぁ仕方ないですよぉ。では、『お任せ』でいいですね」


 ロゼッタは指を三本立てて高々と腕を伸ばした。それを確認した食堂のウェイトレスが親指と人差し指でOKマークを作ってウインクを返していた。


「そういえば冒険者ギルド行ってきたんですよねぇ。メインスキル何でしたかぁ」


 スキルを明確に知る方法はたった3つしかない。ひとつは自分で認識してること、ふたつ目は冒険者カードに記載されること、みっつ目は『鑑定スキル』を保有している人間かアイテムで調べることだ。

 ギルドメンバーは学校で『鑑定スキル』を保有するアイテムで調べていたので、冒険者カードに記載される前から認知していた。


「めっちゃ驚くよメリッサ。見せてあげて」


 胸元に吊り下げられたカードを首から外してメリッサに手渡した。


聖騎士(パラディン)ですかぁ!?」

「声でかいメリッサ。もちょい落ち着こう」


 酒場の様相を(てい)してきた食堂のざわめきが一瞬だけ止まったが、またすぐ元に戻った。


「それになんですかぁこれぇ。幸運は(まれ)に聞くからわかるのですが、奇跡とか祝福ってなんか神官ぽいですねぇ。あと超人ってどういう意味ですぅ?」


 どうやら恵まれているような印象を受ける名称だが、この世界でいうスキルの基本的なものを知らないルリにとってはどのくらいイレギュラーなのか想像がつかない。


「あの、そんなに珍しいのですか?」


 ロゼッタとメリッサは首からカードをはずし、ルリのカードの横に添えて比べてみろと置いた。



 ロゼッタ

 性別:女性 生年:創世歴120104年

 種族:エルフ系 職業:魔法使い(マジシャン)

 Lv:26 ランク:B

 称号:なし 賞罰:なし 二つ名:なし(登録認証後使用可)


 スキル一覧:【高位光魔法:Lv6】

       【高位火魔法:Lv1】

       【精霊召喚 :Lv5】

       【防御魔法 :Lv7】

       【浮遊術  :Lv6】



 メリッサ

 性別:女性 生年:創世歴120104年

 種族:人種 職業:治癒術師(プリースト)

 Lv:18 ランク:E

 称号:なし 賞罰:なし 二つ名:なし(登録認証後使用可)


 スキル一覧:【回復魔法 :Lv6】

       【祈祷術  :Lv8】

       【解毒術  :Lv3】

       【防御魔法 :Lv4】

       【水魔法  :Lv3】



「基本、はじめは初心者(ルーキー)だ。自己申請があれば別だけどな。でも未記入で職業欄が埋まるってことはかなりの才能があるってことだ」

「初めて見ましたぁ」


 主だって表示されているスキルを見ると、ほぼ戦闘に関連するような名称ばかりだ。ルリのスキルのように曖昧(あいまい)な感じがない。


 それよりも少し気になる表記を見つけてしまった。


「ロゼッタさんってエルフなのですか?」

「一応、ね。ジジイがエルフだったんだ。だから私は1/4(クォーター)エルフになるんだ」

「へーなんかカッコイイですね」

「ふん、まあな」


 ルリはロゼッタと半日過ごしてわかったのは照れを隠すタイプだということ。恥ずかしいと横柄な態度になるが、それに比例して喜んでいたりもする。


「あとレベルとかランクというのは、この数値でどのくらい強い感じなのですか?」

「レベルはぁどれだけ戦ったかの経験を表すものでぇランクはその人の強さを表してますぅ。ちなみにロゼッタちゃんは殺人熊(キラーベアー)並の強さですぅ」

「黙ってろメリッサ。あたしが説明する。ランクBってのは超強くてかわいいって感じで、Eは牛のような乳に栄養がいって頭弱い、ということだ」


 ルリはその説明を受けて直視しないように頑張っていたメリッサの胸部に視線をチラッっと投げた。メリッサに見られてたらしく一言。


「ルリちゃんはどこかのだれかと違って未来があるから大丈夫ですよぉ」




「適当に教えてやるな二人とも。ロゼッタ今日は面倒を見てくれて感謝する。それとなぜそんな狭そうに座っている?」


 不意に背後から心地よいハスキーボイスが投げかけられた。マスターの帰還である。


「おかえりなさいクロエさん」

「ますたーおっかー」

「おかえりなさいませ委員長」

「いいかげんマスターと呼んでくれメリッサ」


 苦笑しているところを見るとなかなかに改善できない問題なのだろう。


「ルリ、はじめての街はどうだった?」

「ロゼッタさんと買い物できて楽しかったです。服や本も買っていただきありがとうございました」


 立ち上がり会釈をすると、クロエは頭を掻きむしりながら困った面持(おももち)でルリにお願いをした。


「気を使わないでいいぞ。私は元々こういう口調なのだ」

「が、がんばってみます」


「それからクロエ、あさっての定例ダンジョンどうすんのさ。やっちまうのか星4初攻略!」

「メリッサどきどきしてますぅ」

「中々攻略後の解放祭りの段取りが決まらなくてな。さすがに星4となると数年ぶりで貴族も商人も利権狙いが激しくて困っている。次の休みにまた折衝(せっしょう)しなければならん」

「あちらさんも一攫千金(いっかくせんきん)がかかってるからなー」

「攻略したら欲しいものいっぱいですぅ」


 ルリは話の流れが見えないのでただ黙って聞いているしかない。


「それじゃあロゼッタ、今から打ち合わせしようか」

「げっ今から!?そろそろ寝たいんだけどー」

「悪いが駄目だな。サブマスターの責任というやつだ。・・・それとルリは寝ていた部屋をそのまま使用してくれ。メリッサ、今日は彼女に清拭(せいしき)の湯を運んでくれ。明日からは自分でやってもらうから」

「はぁ~い、ルリちゃん自分のお部屋で待っててねぇ」


 クロエは端的に要件を述べると、肩を落としたロゼッタとともに3階の一室へと消えていった。


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