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第2話

 扉を開けるとそこは3階の個室だったということが一目でわかる吹き抜けになっていた。1階であろう開けたフロアからは賑わう人々でごったがえし食事を楽しんでいた。どうりで見晴らしがよかったわけだ。

 クロエについて階段を下りていくと食欲をそそる美味しい匂いが空腹を思い出させる。刺激された胃は「食べ物をくれー」と鳴いてしまった。


「腹が減ったか。とりあえず食事を用意してもらおう。それとここは宿屋と食堂、それに夜になると居酒屋になる。ギルドで3階をすべて借りている。階段は面倒だがその分安くしてもらっているのだ」


 慣れてない体の操作に四苦八苦しながら階段を下りる。なんとか1階まで無事たどり着けたことに小さい達成感を得た。


「嫌いな食べ物とかあるか?」

「わからないので気にしないで下さい」

「そうだったな、ついてきてくれ」


 クロエのあとにてこてこ着いていく。まわりの人間が大きい。本当に縮んだのか、そもそもこんな体格だったのか今となっては謎だ。

 ふと立ち止まったクロエのお尻にぶつかり止まった。


(やわらかい)


 特に気にしてないようなクロエが話し始めた。いや、ちょっと頬が赤い?


「みんな食事したままでいいから聞いてくれ。先日の子だがさきほど起きた」


 身体を傾けてクロエから前を覗き込んだ瞬間だった――


「きゃ~かわいいですぅ食べちゃいたいですぅ」

「はじめまして御嬢さん」

「・・・・・よろしく」

「なんかお花の香りがしますです」

「どうすんだマスターこれ」


 黄色い声とパワーに圧倒されて固まってしまった。それと恥ずかしい気持ちとアガッてる自分に驚いた。頭の中が白くなってしまい何を話したらいいのかわからない。


 クロエが背中をそっと押してくれて小声で「あいさつしろ」と後押ししてくれた。


「はじめまして、よろしくお願いします。それと名前はまだありません」

「というわけで、仲を深めることも兼ねて名前をきめてやってくれ。それとメリッサ、この子に食事をお願いする」

「わかりましたぁ~本日のランチセットですねぇ」


 メリッサと呼ばれた女性がゆったりとカウンターへ注文しにいくと、そこへ座らせられた。クロエは同じ長椅子のはじに足を組んで座った。


「ロゼから自己紹介してくれ」

「あいよー、あたしは天才魔法使いのロゼッタ、ロゼって呼ばれてる。ちな16歳。よろしくー」


 隣のいかにも染めてます!というピンク髪の女の子が男っぽい口調で自己紹介した。魔法使い?地球ではなことを確信した。


 つづいてロゼッタの向かいの金髪の女性が突っ込んだ。


「年齢まで言わなければいけないものなのか自己紹介とは・・・」

「こいつ21歳のマリーゴールドな。あと騎士で21歳な、21歳」

「なっ、ロゼ、貴様」


 そのやりとりの合間に対面の黒髪ロングの細い子がぼそりと呟いた。


「・・・・・・・リッカ16」


 脇からすっと食事が盛り付けられたお盆が配膳された。木製の簡素なお皿には肉厚なステーキが香ばしい香りとともにジュウッと焼きたての音をあげていた。パンと副菜にサラダやフルーツが盛り付けられていた。


挿絵(By みてみん)


「どうぞですぅギルドメンバーが増えたって言ったら豪勢にしてくれたですぅ」

「とりあえず食べながら聞いていればいい」

「はい、いただきます!」


 分厚いステーキにナイフを入れながら話を聞き続けるが、胃は早くしてくれと催促してくる。


「メリッサです~ヒーラーでぇす。ん?年齢言うルールなの? 16歳ですよぉ」


 なんと自己紹介するとクロエと自分の間にお尻を無理矢理おろしてきた。食べるのに集中して気を紛らわせる。

 クロエはその表情で狭いと文句を言っている。


「ロジーリリーです。獣人で奴隷してますです。拾われたのは1年位前です。年齢はわからないです」


 本来の耳の位置よりやや高いところに犬の様な耳が生えており、少しだけ見える背後では尻尾がふりふりしている。獣人で奴隷、それが当然の世界に凄いなと感嘆していた。


「それとここにはいないが、錬金術師(アルケミスト)のドロシーと私を入れて6名。君を加えて7名になるな」

「―っゴクリ。大所帯なんですね」


 大ぶりのお肉を呑みこみながら、紹介された名前を心で反芻(はんすう)しながら覚えようとする。


「ところで今にも名前が決まりそうだが・・・」


 主にロゼッタ、マリーゴルド、メリッサの3人が盛り上がっている。それを楽しそうに眺める獣人のロジーリリーと無関心そうな黒髪のリッカ。


「シャルロットを薦める。有名な剣の使い手の名前からとった」

「わたしはぁアイリスちゃんとかがかわいいかな~って」

「ヴァイオレットとか良くない?なんか強そーだろ!」


「美味しかった!ごちそうさまでした。ちょっとお盆置いてきます」


「リッカもロジーももう少し参加しろ」

「奴隷が名付け親になったら可哀そうです」


 そこで無口なリッカがぼそりと一言。


「・・・・・・・ルリ」

「あまり聞かない名前だな」

「・・・・あの瞳の色、私の国で瑠璃(るり)色」

「ふむ。では本人に決めてもらうとするか。収集もつかなさそうだしな」


 お皿を返してきた俺は、もとい僕は、今日から『瑠璃(るり)』として新しい人生を踏み出すこととした。3人には悪いが響きが気に入った。


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