プロローグ
ライトノベルはエンターテイメント!楽しんでいただければ幸いです。
大陸西方地域 王国ミストラル
堅牢な外郭から足を伸ばし広大な草原で魔法の修練に来ていた。
その帰りの街道に一匹の狼のような生き物が立ちふさがっている。
敵意のないそれの額には溢れる魔力で輝き淡く光る金色の宝石が確認できた。
クロエは初めて見るカーバンクルという幻獣に知識欲がそそられるが僅かに警戒し短刀へと手を伸ばす。
歩いている彼女と獣の距離は縮まっていくが逃げる様子すら窺えない。2m弱の距離まで近づき、どうしようかと考えあぐねていたら不意に声をかけられた。
「我が名は『唯一無二の神獣、無限カーバンクル』がコヨーテ。・・・ギルド『花の乙女』のマスター、クロエだな」
神獣と自らを名乗り上げるそれは神々しさや畏怖の念を抱くような圧倒感はない。だが、ほとばしる魔力は空間に満ち溢れ支配しているのは肌から感じていた。神獣と自称するだけに相応しい魔力だ。
「如何にも。私が『花の乙女』のマスター、クロエ・テスタロッサ」
一拍の間が置かれると幻獣は再び口を開いた。
「ひとつ、頼まれて欲しいことがある」
そう呟いてクロエに視線を向けると、くいっと首を草むらに向けた。カーバンクルの存在に気をとられまったく気づかなかった。
手入れされることなく自然のまま生えた草むらには、麻の貫頭衣を着た少女が仰向けに寝ていた。伸びきった金髪と白い肌は妖精と見間違えるほどだ。
「預かれ、ということですか?」
「我が魂の同胞にして永遠の盟友。その魂は崩れ、失い、欠片しか残らなかった。生まれ変わりや転生輪廻とは異なり、もはや別物。新しい運命を歩けるまでで良い」
「その子も元はカーバンクル・・・だったのですか?」
「かなり変わっていたがれっきとした人間だった。・・・人を人の輪に戻す、それだけのことだ」
遠い昔を慈しむ瞳で虚空をながめている無限カーバンクル。
「コヨーテ様、恐れ多くも私たちのギルドは―」
「わかっている。すべてを知りお前たちに託すのだから。その子の脇にある袋を見ろ。それから、その子に新しい名を――では、さらばだ花の乙女クロエよ」
袋を確認しようと意識をそむけた瞬間にはもうコヨーテの姿はなかった。
クロエは少女に歩み寄り、片膝をつきその子の傍らにあった大き目の麻袋に手を伸ばす。 乱雑に縛られた紐を緩めると、中から様々な色と形の大きな宝石が転がり落ちた。落ちたひとつの宝石の土を払い、太陽に透かしてみる。煌めく内部には常識を遥かに超えると思われる魔力が満ちみちていた。
(養育費にしては高すぎるのではないだろうか。値段の想像もつかない。これでギルドの金欠問題も解消される)
クロエは宝石をしまうと麻袋をベルトにかませ、まだ意識のない少女を背中に抱えた。
―!?
(嘘!?嘘でしょ?コヨーテ様全て知ってるって!え―――どうしよ!?)
背中にナニカか暖かいものが当たっていた。
ギルド『花の乙女』当方、女性専門ギルドにつき男性お断り!!