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誰が為に放課後の鐘は鳴る

  一口に幽霊と言っても、色々と違いがある。

  ミカみたいに好き勝手動き回る人もいれば、一つの場所に憑いている人もいる。何かに後悔している者もいれば誰かに執着している者もいる。


  それでも、結局のところ彼らの本質は同じものだ。

  肉体を喪失した魂がこの世界に残ったもの。それ以上でもそれ以下でもありはしない。

  肉体という枷を取り払ってなお、魂の方が肉体に執着して形を成したままこの世に残る。此処に残った彼らはそれほどまでに"生"に執着しているのだろう。

  だからほとんど皆が最も元気だった頃、生き生きしていた頃、思い残した事がある頃、つまり自己の中で最も"生"を感じれる姿で霊になる。

  というのがぼくなりの生死と霊への解釈。まぁいくら言葉を並べたところで実際は幽霊たちの生死なんてぼくにとっては些細な差異でしか無い。皆が笑顔ならそれでいい。


  *******


  午後の授業は大した事もなく、某クラスメイトからの熱い視線もなく、(くだん)の霊からの熱烈なアプローチ……はあったけど。

  さぁ気を取り直して放課後は部活動の時間だ。

  実はこの学校には珍しい部活が結構ある。わりかし設立する条件が緩いのが原因なのだが、その代わり受験生以外は部活動に強制参加。

  だから必然的に一つの問題が生じる。力で押さえつける仕組みではやはり世の中は上手く回らない。当然抜け道を見つける人たちが現れる。

  時間になりぞくぞくと部室に集まる部員たち。

  何を隠そう部長はこのぼくである。部長って凄い強そうな雰囲気ない?ないね。ごめんなさい。


「それじゃあ今日も活動をはじめまーす」

「また二人しかいないの……もう慣れたけど」

「今日からはあたしも居まーすっ!」


  一人増えるだけでこうも賑やかになるとは、ミカさんも少しは活躍するじゃないですか。頼むからちょっと静かにしててね。


「紅葉、ミカもいるから三人な。 えーと、で今日の予定も今は特になし。じゃ適当にぶらついて来るわ」

「すぐ帰ってきてよ、退屈だから」

「言われなくてもそうするよ」


  この部活は『ボランティア部』。元々校内の困り事だったり校外での奉仕活動だったりといったように、様々な場所で人助けをするという精神をーーひいては魂をーー鍛え上げられる健全な部活、のはずだったのだけど。

  現在部員は'実質'二人、活動内容は校内の雑務と困った人を助ける何でも屋。今となってはご覧の有様だ、語るに落ちるとはまさにこの事。このような事態に陥る理由は至極単純。うちの高校は部活が強制、この一点にある。

  誰もがずっと学校にいたいわけじゃない、みんながみんな部活動に入る時間があるわけじゃない。そのような人々の行動は多かれ少なかれ決まっている。

  つまり?そう大正解、いわゆる幽霊部員というやつ。そこそこ名前の目立つわりに内容の曖昧な我が部活は帰宅部員達の格好の隠れ家というわけだ。

  幽霊だけじゃなく幽霊部員とも縁があるとはなかなかな皮肉である。 ……お願いだからそんなつまらない冗談は二度と言わないでくれよ。

  ではなぜ逆にこの廃部同然の部活で活動をしているか。その理由(わけ)は、あんまし運動したくなかったから入部したとか。彼女との二人っきりの空間が居心地が良かったとか、多分そういうのは全部おまけで、結局のところ。

  ぼくは自分よりも誰かの為に生きていたい、と考えていたから丁度よかった。それだけだ。

  さて、それでは具体的な活動をしていこう。生憎、ご奉仕といっても、みんなが想像するようなおかしなことじゃないからね。ぼくもしてもらいたいくらいだしね。

  校内の巡回という名のお散歩がぼくの基本的なお仕事。その間、紅葉には部屋番をしてもらう、直接の依頼の時も稀にはある。ウチの部活も今ではすっかり校内の便利屋になってしまって、仕事がないわけではないのだ。特に大人たちからのウケはいい。

  それに彼女は愛想が良いし、ぼくよりずっとしっかりしてるので、これはいわゆる適材適所というやつである。だけども逆に変な男が寄ってこないかってのは心配だ、今日はミカが残ると言い出したのがさらに心配。さっさと済ませて早く帰ろう。


  *******


「おぉ、丁度良かった! 探してたぞ!」

「どうもです。 校長先生」

「ワシのことは初代と呼べといつも言っとるだろうが! 現校長は二十七代目じゃからな」

「はぁ、毎度すんません初代さん」

「わかればよろしい」


  このイカした髭のお爺ちゃんとの出会い頭の挨拶はもはや様式美ですらある。

  校内にだって、幽霊というのはいる。代表としてはトイレの花子さんだったり、走る二宮さんだったりするわけだけど。ぼくらの学校では『伝説の初代校長』ってかんじかな。うーん、この爺さんのどの辺りが伝説なんだろ?

  さらにもう一つ当然の事を確認しておこうと思う。幽霊というくらいだ、彼らは壁もあっさりすり抜けられるし誰に咎められる事もなく動き回れる。とすれば自然とMr.初代をはじめとする"彼ら"は校内の事情に詳しくなる。そうすると親切でお人好しな霊の皆様はありとあらゆる厄介事を持ってくる。

  そうして結局その解決をぼくに委ねる、ぼくはそれを引き受ける、とこういうわけだ。だから挨拶ついでに相談に乗るため、構内の散歩がぼくの仕事になるというワケ。

  しっかし相変わらず幽霊って悪用する使い道が死ぬほど思いつく存在だよね、ぼくも壁抜けとか誰にも気づかれないとかそういうわかりやすい、かつ有効活用し放題の能力が欲しかったな。

  具体的にどうするかって?そんな子供も見てるんですよ、やめてください。


  閑話休題。


「それで、今日はどんな案件なんです?」

「少年の得意分野だろう、迷子だ」

「あーー、なるほど……。 高校生にもなって迷子とは手間のかかることで」

「いや、それが先生の方でな」


  もっとタチ悪いよ!ならぼく今かなり失礼なことを言っちゃったよ!


「あぁ安心せい。 先生のペットじゃ、ペット」

「そういうことですか、紛らわしい」

「体育のテツ先生おるじゃろ? あそこのインコが今朝、脱走したらしくての。 今ものすんごい沈んとってな」


  通称28号ことテツ先生は、マッスルという言葉をそのまま人間に押し込んだ感じの人。ぼくとしては予想外にかわいい一面が見れて驚愕だ。


「了解です。 "視る"ことだけが取り柄ですから」


  今日の依頼もすぐに終わりそうだ。


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