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第6話 始末書

 ******


 本日は登校3日目。

 2日もこういう状態が続くと流石に死にかかってくるというものだ。

 そして、ふっきれてくるというものだ。

 今度はよりスピードを上げ、オールという荒技によって全体の7割程を終わらせてきた。

 趣味に没頭してのオールでは味わえない、ある種体感したくもない特殊な達成感と共に登校した俺は、周囲で騒ぐクラスメートに「頼むから寝かせてくれ」と頭を下げ、ホームルームまでの5分間を睡眠時間に費やすことにした。


 しかし、7割終わったのだからこれで今日は昨日よりずっと楽になれるはずだ。

 しかも、今日の時間割に数学という見るに堪えない文字は存在しない。

 素晴らしいことだ。

 今日もあろうものならば、時間割の数学と明記されている部分のみをペンでほじくり返しているところだった。


 が、数学がないというのがせめてもの救いというだけの話であり、やはり頭が痛くなる時間割だ。

 時間割に表記される講師陣の名前を見れば、思わず「よくもまぁこの学校はクソ教師を揃えたものだな」と改めて口に出して再確認してしまう。


 5分の睡眠によって、ごく僅かな体力と飛び去っていたはずの眠気を回復してしまった俺は、今更ながら七海に声をかけようと思っていたことを思い出し、教室の中を見渡すが七海がまたしても見当たらない。

 なぜ、ここまで教室にいる時間が短いのか。

 他クラスに仲のいい友人でもいるのだろうか。

 まぁ、なんにせよ席が隣である以上話す機会くらいあるだろう。


 そう思い席についた俺が次に意識を取り戻した時には、机の前にお怒りのご様子で轟浩二が立っているという状況に遭遇していた。

 どうやら、1時間目の授業が始まる前に眠ってしまい、今まで眠り続けていたらしい。

 轟浩二は、授業の始まりと終わりに起立からの礼からの着席という王道的な挨拶行為を省くタイプの人間だから、ある意味目が覚めなかったのだろう。

 授業終了までの時間はすでに10分を切っている。

 この時間まで気づかなかったというのに、なぜ今更気づきやがるのかと、自分の不運を呪いつつ、俺は爽やかな笑顔で表面的な余裕を取り繕った。

 内心けっこう焦っている。

 問題を起こして、両親に連絡しましょう的な流れは避けたい。

 焦燥を表面に出したほうがいいに決まっているが、俺のプライドはそれを許さない。

 この程度の相手に、心内を見透かされるというのは特にだ。

「ごきげんようです」

「よく眠れましたか?」

「かなり気持ちよく。これもひとえに先生の子守唄のような心地よい授業のおかげかと」

「からかっているのか?」

「いえいえ、そんなことはありません」

「言うことはそれだけか?」

「えぇーっと、大変申し訳ありません」

「そんな涼しい顔で言うことか?」

 自分は一応あなたをたてて、格下相手に謝罪をすることを嫌う俺のプライドを曲げてまで謝罪しているのに、文句あるんですかーーという底意地の悪い本心は包み隠して話を続けることにする。

「いえ、本当にすいません」

「なんでそんなに疲れてるんだ」

「えーっと、徹夜で宿題してました」

「つまりはお前が悪いよな?」

「まぁ、そうですね」

「今回は見逃してやるから、保健室に行って仮病使って寝てこい」

「凄いこと言いますね」

「俺も昔よくやった」

「いや、知りませんよ」

「4時間目まで寝ておけ」

「わかりました」

 ラッキーとばかりに俺は教室を出て行くことにした。

 授業が授業なので評価表の点数を上げることはないが、俺の個人的な好感度は多少上がった。

 ーー都合いい男だな、おれは。


 ******


 本当ならば、ずっと寝ていたかったが、仕方なく昼休み頃に教室へ戻ってきた俺は、めんどくさがって特に昼食をとることもせず、七海を探した。

 また、七海が教室にいないからだ。

 だが、校内を一周しても見つからない。

 なんだか、七海を探して校内を幾度も周回しているおかげで、校内の構造は完全に掴めたのだが、本来の目的である七海を探し出せた試しがないのであまり嬉しくない。

 広い校内を一周して見つからないので、流石に嫌になった俺は、効率を重視して放課後に話しかけることにした。

 放課後の方がゆっくり話をできるだろうし、きっとその方がいいのだろう。

 そういう神のお告げだと都合よく解釈することにした。

 どうにも今日1日で、俺の都合いい男さ加減が随分際立った気がする。


 ******


 ようやく放課後だ。

 今日は流石に見逃さない。

 教室から帰り支度を済ませて、早速出て行こうとする七海を走って追いかけ、なんとか右腕を掴んだ。


「なぁ、七海。毎日放課後忙しなく何処かに行っちゃうみたいだけど、今少し話せる時間あるか?」

「…」

 なぜか、七海は黙っている。うつむいたままだ。

 どこか儚げなその表情が、俺の不安を掻き立てる。

「なぁ、七海?」

「なんですか?」

 なぜ、突然丁寧語になるのだろうか。

 俺は遠く突き放されたような気分になった。

 表情が硬い。

 緊張とかそういうものではない。

 俺を敬遠しているのがよくわかる口調だ。

 まさか、記憶喪失とかそういうものではないだろう。

「俺けっこう心配してるんだぞ。なんだかお前元気ないみたいだから」

「…気のせいですよ」

「じゃあなんでそんなに俺によそよそしいんだ?」

「だから気のせいですって」

「だってお前…」

「気のせいですってば!!!だから私構わないでください!!!!話しかけないでください!!!」

 悲鳴のような怒鳴り声で、そう怒鳴りつけられた。

 場所が廊下だっただけにすぐに周囲の目線がこちらに向く。

 校内トラブルの状況を把握しようと思ったのか、友紀も現場に駆けつけ、野次馬にうまく溶け込みながらこちらの様子を観察していた。

 多少なりの動揺はあるが、俺の性格からか存外その辺りは冷静でいられた。

 動揺以上に、疑問が増幅したからだ。

 ここまでくると、様子がおかしいとしか言いようがない。


 俺の腕を振り払った七海は、ゆっくりと近づいて俺に囁いた。

「私と仲良くしない方がいいですよ?」

 七海は、その一言を残してその場から立ち去ってしまった。

 友紀もさりげないアイコンタクトをしてからすぐにそこを立ち去る。

 この状況をどう分析すればいいのか、その場で思考を始めた俺に、クラスメートの女子たちが話しかけてくる。

「桐谷くん。あんまりあの娘には関わらない方がいいよ…?」

「どういう意味だそれ」

 女子たちの言葉に単純な疑問を抱いた俺は、至って純粋に問いかけただけなのだが、女子たちは困ったような表情で互いに顔を見合わせるだけで答えようとしなかった。

「なんで、関わらない方がいいんだ?」

 もう一度問いかけたところ、女子たちはその場からいそいそと立ち去ってしまった。


 状況を見ていた友紀が恐らく、学校外で話の場を設けようと連絡を取ってくるはずだ。

 そう考えた俺が校舎を出てケータイを開くとやはり、友紀からメールが一件届いていた。


 ******


「秀は、いったいあの子に何したの?」

 俺の自宅に上がり込んだ友紀は、冷蔵庫に用意しておいてやったオレンジジュースを勝手にコップに注ぎながらしれっと俺に聞いてきた。

 人の家の冷蔵庫を勝手に開けるような非常識野郎だったのかこいつは。

「別に嫌われるようなことはしてない。元気がなさそうだったから、少し心配しただけだ」

「いらない気遣いだったから、鬱陶しかっただけじゃないの?」

「そんなことですぐに腹をたてるような奴じゃないと思うんだけどな。それに今まではタメ口だったのに、突然丁寧語をつかわれたし」

「前から知り合いだったような口ぶりね」

「ここへ越してきたその日に、偶然拾って交番に届けた財布があいつのだったんだよ。で、直接お礼を言われた」

「…もしかして、イタリアンにはその子と…?」

「いや、違うよ」

「…ふーん。そう」

 とりあえず、俺はイタリアンのことに関してこれ以上言及しなくて済むようにシラを切っておくことにした。

「まぁ、そういうことだ。あんなに激しく怒られる意味がわからないんだよ」

「で、どうするの?私に今ここで慰めて欲しい?」

「まぁ、慰めてくれるというなら断らないけど。とりあえず彼女にいったいどのような心境の変化があったのかは気になるんだよなぁ」

「じゃあ、少し調べてみる?」

「まぁ、手段を考えて、調べてみようかな」

「ふーん。じゃあ、校内の設備点検とか諸々は私に押し付ける?」

「まぁ、できればやっていただけると…」

「仕方ないなぁ…。じゃあ秀の興味本位に付き合ってあげるから、今度絶対例のイタリアンに連れて行ってね」

「はいはい、わかったよ」

「まぁ、そうと決まれば、今日はもう話すこともないし解散しましょう!」

「おいおい待てよ、まだ慰めて貰ってないぞ」

「…じゃあどうして欲しいの?」

「そうだなぁ。どういうコースがあるんだ?」

「じゃあ、熱い抱擁と情熱的なキスのコースでどう?」

「お前、まだキスとかしたことないだろ?」

「失礼ね!まぁ、間違ってないけど。だから、あなたにファーストキスをプレゼントするわ」

「とか色っぽい声で言いながら寄り添ってきても、俺はちゃんと自制するぞ。ファーストキスは悪いから遠慮しとく」

「じゃあどうするの?」

「じゃあ、そうだな…。乳揉みでいくか!」

 一応冗談のつもりだったのだが、どうも完全に失言だったようで、1秒と経たずに破壊力抜群の右拳が顔面に飛んできた。

「揉ませるかアホ!てか、慰める気なんかないっての!」


 ーーわかってるってば、そんな吐き捨てるように言わなくても…。


 ******


 友紀を見送った俺は、幸いにも家の場所を知っている七海のところへと向かうことにした。


 ーー扉を開けてくれるだろうか。

 そんな不安に駆られながら、俺は家のインターホンを鳴らした。

 しかし、案外玄関のドアはすぐに空いた。

 学校ないほどではないが、表情の硬い七海が出てくる。

「どうしたんですか?」

「なぁ七海。さっきの話の続きをしないか?」

「シツコイですね。話すことはないんです」

「なぁ、七海。さっきお前は気のせいだって言ったけどさ。そういうのよそよそしいって言うんだぞ?」

「…」

「だいたいな。『私と仲良くしない方がいいですよ?』ってな。財布の拾主だからってわざわざお礼をするために食事にまで一緒にした相手に言うことかそれ」

「それはだって!あの時、あなたがウチの学校に転校してくるなんて知らなかったから…」

「お前の学校関係者になった途端に嫌われたということか、そういうことだな?意味わかんないから」

「…とにかく帰ってください」

「帰らないって言ったら?」

「警察呼びます」

「…それは少し困るんだよなぁ」

「だったら帰ってください」

 こうなると、俺も引くしかない。

 どうやら本人から直接聞くのは無理そうだ。

 明日から注意深く観察し、彼女の心境の変化について推察してみるというのが方法としては妥当だろう。


 そう思った俺は、本日のこれ以上の詮索を止めると共にとりあえず目の前の課題である数学のプリントの束の完全なる始末に向かうべく、自宅へと帰還するのだった。


 ******


 登校4日目。

 新しい学校の環境にもだいぶ慣れてきている。

 岸春からの課題もキッチリと終わらせ、はれて今日は七海の観察に専念しようと思った俺は、少しばかり早めに登校した。

 普段俺より早く登校している七海の朝の様子を見るためだ。

 だが予想外なことに、20分近く早めに登校した俺にも増して七海の登校は早かったのだ。

 席にバックを置き、何処かに行っているようだ。

 探すしかないかと思い、自分の席に荷物を置いて教室を出ようとしたその時、七海は戻ってきた。

 初めてこの学校に登校したあの日以来、重苦しい表情しか見ていないだけに、相変わらずの七海の暗い表情には心配というものより疑問という感情が色濃く出るようになっていた。


 意外なことに、今日は七海から話しかけてきた。

「今日は…早いんだね」

「まぁな」

 しかし、会話はたったのこれだけしか成立しなかった。

 席に着いた七海は、バックから出した本を開き、読みふけり始めた。

 十分な観察が可能な隣の席を手に入れている俺は、同じように席に着き、本を読み流しながらさりげなく七海を気にかけた。

 気のせいか、本の世界に入り込んでいる七海はいつもより少しばかり幸せそうだった。

 この世界に触れ合わなくてすむという点で、俺も本という情報媒体を高く評価し、非常によく読むものなのだが、彼女にも同じように、この世界が触れ合たくない対象となる理由が存在し、それが心境の変化に影響を及ぼしているのだとしたらどうだろうか。

 果たしてその理由はなんなのか。

 幾つか推論をたてることは可能だが、明確な答えは出せないため、やはり観察は必要になってくる。


 こうして、七海の様子見1日目は幕を開けた。


 ******


 それにしても、なぜウチのクラスは、疲れを引きずりやすい1時間目にばかり数学の授業を持ってくるのか。

 1時間目のチャイムが鳴り、相変わらずの腹立たしい顔で教室へ入ってきた今泉岸春を見た俺は、そう思いながら頭を抱えた。


『今日の宿題確認は授業の最後に回す』と宣言した岸春は、俺に『終わったのか』と問いかけることも特になく授業を始めた。

 ーー『終わったぞ』と自慢気に言ってやりたかったが。


 …まあなぜこうも毎回巧みに俺を失望させるのか。

 またしても前回の授業より酷い。

 2回目の授業の際も、そして今回もかなり覚悟をして授業に臨んだつもりなのだが、俺の覚悟など容易く跳ね除け、そして予想を遥かに上回る低質な授業。

 思わず称賛したくなるヒドさだ。

 本当に、他の教師と一線を画す素晴らしいゴミ授業。

 オマケに理不尽極まりない。

 机に置いていたシャーペンを床に落とした際のかすかな音がうるさいという理由で10分近くの間説教を続け、生徒の身体的コンプレックスを散々弄ったあとに折檻までした時は、開いた口が塞がらなかった。

 授業中の岸春は完全に異常だ。

 だいたい、普通他人に文句を言ったらクールダウンするのが常人だというのに、ヒートアップしてどんどん言葉が下劣になっていくとはどういうことなのか。


 審査官として、流石にこの状況には物申しておいたほうがいいのか、そうするべきではないのか悩んでいると、どうやら授業が終わりに近づいたらしく、岸春はチョークを置いて宿題確認を始めた。

 岸春はクラス委員に全員の宿題を集めて持ってくるように指示したあと、今度は俺に別で前にもってこいと指示をした。

 ナップザックから例のプリントの束を取り出し、教卓に置くと、岸春はニヤニヤと気持ちの悪い表情を浮かべながらプリントをめくって大方の出来を確認した。


 ーーさぁ、これで文句はないだろう。

 そう思ったその時だった。

「なんだこれ。なんでお前全部解けてるわけ?」

「…はっ?」

「かなり難しいハズなんだがなぁ、これ。なんで全部終わってんの?」

「…お、終わらせろとあなたが言ったんですよ?」

「普通だったら終わらないの」

「無理して終わらせただけです」

「答えみたのかなぁ〜?」

「全部自力です」

「もういいわ。お前、全部やり直してこい。ノートの宿題も含めてな」

「…」

「ちゃんとやり直せよ。同じの提出しやがったら家帰れないぞ」

 そう言って、岸春は新しいプリントの束を取り出した。

 なぜ、プリントの束を持ってきているのか。

 俺がやってこないと踏んでいたからか。終わらせられないという前提での、追加課題だったのか。

 そうとも考えられるが、どうやら違うらしい。

 このニヤつき方は…完全にやられた。

 初めから、もう一周させる気だったのだ。

 全部終わろうが終わらなかろうが、関係ない。

 どのような条件であろうと、難癖をつけて二周させるつもりだったのだ。


 そう思った途端、俺は自らが審査官であるという事実によって自らの思考を完全に肯定し、行動に移していた。


「…お前さっきからいい加減にしろよ」

「なんだと?」

「いい加減にしろって言ってんだよ、ゴミ教師」

「正気か?退学になりたいのか?」

「あーあ、何が退学だ教師ヅラしやがって。てめえこそ脳外科行ったほうがいいぞ」


 よく、俺を理知的で打算的、狡猾で性格の悪い意識高い系の捻くれ者だと思っているやつがいる。

 特に間違っていないが、全てが全てそうではない。

 俺とて、怒りの感情に身をまかせるということの快感を知っている普通の人間だ。

 ことに、人に毒を吐くこと・人を怒らせることに関しては常人離れして長けている。


 ここまで言えばだいたいわかるだろう。

 このあと、いったいどういう展開が待ち受けていたのかということは。


 ******


 俺は今、職員室の奥にある執務室に詰め込まれている。

 しかも周りには教員が5〜6人。

 と言うのも、つい先ほどまで今泉岸春を”産業廃棄物”と書いてルビは”野糞”の物体ですと言わんばかりの侮蔑の目で見下し、相手が相手なら自殺者さえ出かねないほどの罵詈雑言を巧みに操りいじめ弄んでいたために、ドン引きしたクラスメートが他の教員を呼び、なんとこういう状況になっている。

 連行される過程で偶然すれ違った友紀の唖然とした顔が、中々に滑稽で思わず思い出し笑いをしてしまいそうだが、なんとかそれを堪えつつ”始末書100枚書き”などという体たらくな環境資源の無駄遣いを絶賛実行中だというのが現在の状況だ。

 もちろん、自分が審査官であることは口にしていない。

 すると、そこへ西条茂木が入ってきた。

 西条茂木は部屋の中を見回してから、他の教員に出て行くようにと言って、俺の正面に座った。

「桐谷くん、話は聞いたよ」

「そうですか」

「俺もね〜、今泉先生は嫌いなんだ」

「…西条先生が?」

「まぁ、あの人ほら。授業もめちゃくちゃで性格も悪くて、いいところ無いし」

「…それは、聞かなかったことにしておきますね」

「ふふ、感謝するよ。しかしまったく、いくら今泉先生が間違っているからって、あれはマズイよ」

「それは…すいません」

「今泉先生は?」

「今、折檻等について校長からお叱りを受けているよ。君に担任だからという理由で南宋先生も一緒だ」

「そうですか」

「それにしても、始末書処分とは。…君のお父様に感謝することだね」

「お…父様?」

「始末書処分で済んだのは、きっと君のお父様が文部科学省の幹部だからだよ」

「…えっ?」

「…えっ?違うの?」

「…あーいやいや、そうですそうなんですよね」

「それじゃあ、そういうことだからね。始末書頑張りなよ!」

 そう言って、茂木は部屋を出て行った。

 どうやら、同じく今泉を嫌う者としてエールか何か送りに来たらしい。

 元々、茂木は好感触の教員だったため素直に受け取っておくことにする。

 しかし、今の会話によって改めて一つ確信したことがある。

 俺だけでなく、茂木もヤツの授業をよく思っていなかったということだ。

 自分一人の意見で無いということがわかるだけでも少し気が楽だ。

 正直、評価表の作成は不安要素がある。

 自分の評価が的外れであり、自分の評価こそが間違っているという可能性があることだ。

 それだけに、茂木の発言によって、まるで自分の意見を後押しされたような気分になったのだ。


 ーーよしっ、少し元気も出たことだし、さっさと始末書終わらせてここから出ようじゃ無いか。


 そう元気づいた俺はふと、七海から目を離す状況になっていることに気づいた。

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