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大家さんに陳情したらノリが良くて、逆にムカツク

作者: イマエサン

 今、住んでいるアパートは6畳と4畳半とキッチンで構成され、風呂とトイレは別になっており、一人で住むには十分な広さだ。家賃も5万4千円となかなかリーズナブルで、離れがたい。


 そんな快適な物件であるにもかかわらず、ここ数年、空き部屋が目立つ。

 人付き合いが苦手で町内会も辞めてしまった私には、住人が少ないことのデメリットをさほど感じていなかった。

 せいぜい、真下が空室のため、洗濯物が落ちたときには諦めなければならないことくらいだ。


 しかし、最近になって、空室であることのデメリットを無視できない状態になった。

 一階の庭の植物が育ち過ぎて、これまで見たことのないような虫が2階のベランダまで出没するようになったのである。

 人が住んでいたときには手入れされていたのに、伸び放題だ。


 また、1階のベランダには猫が住み着いており、可愛い仕草を見せてくれてはいるものの、猫だけにニャンニャンを繰り返しているのか、日を追うごとにその数が増加しているようにも見受けられる。糞尿の臭いも馬鹿にできない。


 7月のある日、陳情の機会は巡ってきた。

 イーバンクの自口座から京都銀行の自口座にお金を振り込んでいたつもりが、他人宛の口座に振り込んでいたことが判明し、家賃もまたそのようになっている可能性があったため、大家さんに電話をすることになったのである。


「あのう。家賃なんですけど、きちんと振り込まれていますか。」


「もし、振り込まれていないと言ったら、もう一度振り込んでいただける、という理解でオッケーですか?」


「オッケーじゃないです。振り込まれているのなら、振り込みません。」


「だったら、振り込まれています。」


 千葉県に在住の関東人らしいジョークにイラっとしながら、早速本題に入った。


「話は変わるんですが、空室はまだ埋まらないんですか。Uさんが出て行ってから3年近く経ちますよね。」


「埋まるわけがないですよ。だって、募集していないんですから。」


「え?だって家賃収入が……」


「アパート経営を甘くみてもらっては困りまんがな。」


 大家さんは、東京の者が関西弁を喋ったときのイントネーションで言い放った。


「長い間住んでいると部屋の中はもうボロボロ。次の人に入ってもらうとすれば修繕しなければならない。最近は厳しくなって、退去するときの修繕費用を用立ててもらおうとしただけで訴訟を起こされる時代でね。まあ、経年劣化の部分はこちら持ちになるということもあって、募集していないというわけですよ。」


「下の部屋の庭が大変なことになっているので、なんとかしてもらえませんか。」


「草ですよね。わかってはいるんです。でも、業者に頼むと高くって。」


「とても言いにくいですけど、共益費を払っている分、やっていただきたいのですが。」


「言いにくいと言う割には、あっさり言っちゃったね。いただいている共益費だけでは、とてもじゃないですけど、足りまっせーん。」


(なんかムカツクな。)


「猫は住み着くし、変な虫は登ってくるし、困っているんですよ。」


「何もしないとは言ってません。来週の土曜日、京都の親戚の家に行くので、その際に草を刈ろうと思っていまして。Mさん、その日、お休みですよね。」


「はあ、おそらくは。」


「Mさんは、1階の庭にある草をどうにかしてほしいと思っているんですよね。」


「ええ。」


「千葉県から京都にバカンスで訪れた私が、Mさんが休みであろう土曜日に、Mさんの下の部屋の庭に生えている草を刈ろうとしている……私が何を申し上げたいか、賢明なMさんであれば、もうお分かりですよね。」


「お疲れ様です。頑張ってください。」


「残念です。」


 数日後、1階の庭はキレイに整地されていた。作業の様子を眺めていたが、大家さんではなく、専門業者が手際よく処理していた。

 かくして陳情は成功した。決して大家さんの口車に乗ってはいけないと改めて思った出来事だった。

 まあ、しばらく猫はいいか。癒されるし。

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