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赤い靴発動します〔ノンフィクション娘視点〕

このお話には嘘が二つあります。

それは、後書きにて……

 わたしのお母さんはドラさんといいます。

お母さんのことをわたしはずっとブズだと信じていました。

だって、パパが言うんですもの。


「おい、ブス。 コーヒー淹れて」

「ハイハイ、でぶ! お待ちください」


あ、パパのでぶは本当です。


「んー、美味いねブス」

「そうでしょ、でぶ」


「何かおやつないの? ブス」

「あぁ、美味しいいただきもののお饅頭があるわよ、でぶ」


仲良くお茶をしながらこんな会話をするもんですから、

近所のおばさんに、あなたのお母さんは若く見えて美人ねと言われるまで、

ブスだと思っていたのです。

パパは嘘つきです。でも、ブスと言われてもお母さんは嬉しそうなので、

嘘つきは良いことなのかなと私は学びました。


学んだことは実行しなくちゃいけませんよね。



その前に自己紹介をしますね、

わたしは近所では、おしゃまさんと褒められる可愛い女の子です。

おじちゃんやおばちゃんとも会話のできる愛嬌がある子です。

オシャレさんで、おませさんとも呼ばれています。



では、さっそく、わたしの嘘つきのお話ですが、

結果から言いますと失敗に終わりました。

お母さんに叱られるハメになったんです。


わたしばかりが悪い訳ではないと思うんですよ、お婆ちゃんだっていけないのです。

お婆ちゃんは、いつもわたしに歌を歌って聞かせました。

「赤い靴」という歌なんですけど、わたしはこの歌が大嫌いなんです。

怖いんですもの、女の子が異人さんに連れられてどこかに行っちゃうんですよ!

そして、青い目にされちゃうんです。

この歌の意味が少ししか分からなかった私は、お婆ちゃんに何のお話なの?と説明を求めました。

「人さらい」の歌だよとお婆ちゃんは教えてくれました。

…………怖すぎます。




 ある、夏の暑い日の日曜日

パパがお仕事でいなかったもので、お母さんとお婆ちゃんはわたしと双子の弟を新幹線に乗せたくて駅にいました。

いっぱい人がいて暑すぎて、アイスを二個食べてきたのにまた食べたくなってしまいました。

その時、弟が改札という機械の横の方にアイスの自動販売機を見つけました。

弟は、人をかき分け、アイスの自動販売機に走り寄り抱きつきました。

わたしも弟の後を追いかけアイスを選びます。


「今日はもう、二個もアイスを食べたのだから、ダメよ。お腹痛くなっちゃうからね」


お母さんはもっともなことを言います。

分かっているんですよ私だって、でも食べたいものは食べたいのです。

自動販売機にしがみ付いていた弟はすでにお婆ちゃんに連れ去られてしまいました。

すごすごとお婆ちゃんの言いなりになる弟に代わって、お姉さんの私はなんとかしなければなりません。

ここは、おしゃまさんを発動させて、理詰めでお母さんにかみつきました。


「そんなことを言ってもダメなものはダメなのよ!」


お母さんは、目を三角にして怒りだしました。

そして、わたしを自動販売機からシールのように引き剥がすと、小脇に抱え遠ざかろうとします。

わたしは、アイスという楽園から連れ去られようとしているのです。

わたしの可愛い声が駅構内に響きわたります。


「だれかあーーー!!助けてくださ~~~~~~い!!

人さらいですっ!! だれかあああーーー!!」


大勢の人が立ち止まってくれました。

お母さんにアイスを買ってあげなさいと言ってくださるはずでした。

そう、お婆ちゃんがよけいなことを言わなければ……。

お婆ちゃんは、立ち止まってこちらを見つめる人達にペコリペコリと頭を下げました。


「すいませんね、お騒がせしまして……。この子の母親なんですよ、人さらいではありませんので大丈夫です」


お婆ちゃんが何回か頭を下げると、人混みは去って行ってしまいました。

わたしと弟の楽園も去りました。

お母さんの顔は妖怪鬼ババアになっています。


「家に帰ったら、アイスをあげようと思っていたのに……今日はもう、あげませんっ!」


お母さんそういうことは、早く言ってください!

そうすればわたしは『赤い靴』を発動させなかったのに……。


でも、不思議でなりません。

お母さんのことを、ブスと言ったパパは許されて、

人さらいと言ったわたしは叱られたんですよ。

同じ嘘なのに変ではありませんか?

わたしはこの時、理不尽を学びました。


学んだことは実行しなくちゃいけませんよね……。


おしゃまさんなわたしなんですけど、理不尽ってどうやって発動したらいいのか難しいです。

素直で可愛い子供ですから考えても分からないのです。


そのうちわたしに思春期というむずかしいお年頃がやってくるそうなので、

難しい理不尽はむずかしいお年頃に思いっきり発動したいと思います。


その時はお母さんもきっと喜んでくれるでしょう。








 ①近所のおばさんが言った言葉は本当ですが、残念ながら私は美人ではありません(ごめんなさい)

②赤い靴の歌は人さらいの歌ではありません。

ただし、ウチのお婆ちゃんは今だに人さらいの歌だと信じています。

私は説明するのがめんどくさいのでそのまま放置しています。

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