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こんな異世界もあるのです〔黒歴史〕

 しまった、場違いだと思った。

だがもう遅い、私は入学してしまったのだ。

オシャレが好きだから、創作活動が好きだから、ちょっと絵が書けるから。

そして、親の言いなりで簿記学校に行きたくなかったから、私はそこにいた。


右隣を見てみる。

西洋アンティークドールがいる。

左は男優風の女子、斜め向うには浪花のヤンキーで、

その隣がスカートをはいた女子より可愛い男子。

顔と服に安全ピンだらけのパンクスがいて、

奥には五分刈りのお姉さま……。

金髪が普通に見えるこのカオスな教室内で、普通という自覚がある私はビビっていたのだ。



なんなのだろう、このてんでバラバラな異世界人達は?

外見もさることながら、

自己主張が強すぎて何を言っているのか理解ができない。


これが〇〇学〇デザイナー学部

登校初日の感想である。




教師達も強烈な個性の持ち主だった。

担任は黒しか着ない30代イケメンバイセクシャル。

講師は、行かず後家と、髭ずらホモである。


だが、呑気にビビっていられたのは最初のうちだけだった。

課題てんこ盛りの毎日が待っていたのだ。

課題にはデザインやパターンを書く道具、作品を作る為の服地や小物などの材料費がかさむ。


金が足りず、必然的にバイトをするようになり、

私は食費をギリギリまで、切り詰めた。

昼食はパン一個、夜は一山百円の野菜を買い何日も小分けにして凌いだ。


レストランでバイトをし、臨時でファッションショーの裏方などもやり、

スッポンポンのモデルに怒鳴られながら、早着替えの手伝いをした。


そんなハードな毎日なのに、

教師達はこれでもかと課題を出しながら、生徒に遊ぶ事を勧めた。

街に繰り出し、人を見て感じ、遊び、アンテナを高くして感性を磨きなさいと言うのだ。

皆、遊ぶ金など無いが、徹夜が日常茶飯事で妙なハイテンションの異世界人達は、授業が終わると感性を磨くために、連日街に繰り出すのだった。





 ある日、バター醤油ライスで生活を凌いでいたパンクスの異世界人が、私のボロアパートに転がり込んで、押入れの下段に住みついた。


パンク人は身体に穴を開けるのが趣味らしく、耳は勿論、鼻、舌、ヘソに穴を開けた。耳の軟骨にニードルを刺してくれと頼まれたが、小心物の私には出来ないと断った。

外出する時は必ず髪を逆立てるので、逆毛を立ててハードジェルで固めるのを手伝わされ、履いた状態で、指摘された網タイツの場所に穴を開けてやり、パンク人の耳のピアス穴に安全ピンを四、五本通してやった。


パンク人は、私をパンク人にしたかったらしく、ロングの黒髪を無理やり立たせて、鋲が沢山打ち込まれた革ジャンを着せ帰化を迫ったが、私はどうにもパンク人の文化にはドップリとは浸かれなかった。

そして私は彼女に手を引かれ、夜の街に繰り出し、パンクの集いという彼女の故郷に連れて行かれた。


広く暗い室内のクルクルと回るライトの下で、パンク人達がカクテルを片手に激しく揺らめいている。

元々薄暗い場所が好きな私は、カウンターに背を向けちびりちびりと甘い酒を舐めながら、空間を味わい彼らを眺める。

あの輪に入ることは出来ない性分だが、退廃的な刹那の狂気を見るのは酒のつまみには丁度良かった。


そんな店内に身をゆだね、辺りをボウっと眺めていると、

似て非なる黒の一団が目に留まる。

生ぬるい血液のような心地よい空気が、ガラスのように固く脆いものに変わった。

パンク人と抗争真っ最中のヘビメタ人御一行様だったのだ。


参ったなと思った。血気盛んなパンク人を止められない非力な私は、逃げる準備をした。

案の定、パンク人である彼女はグラスの氷をヘビメタ人に発射し始めた。

誰が投げたのかと周りは騒然となり、一触即発のところで店側が配慮したのか、

ヘビメタ人が崇拝する曲に変わった。


ヘビメタ人達は歓喜の声を上げ、行儀よく整列し頭を振りだし祈りの儀式が始まった。

その後もパンク人である彼女は敵に氷を数個投げつけたが、暗がりの中でトランス状態のヘビメタ人たちは気付かずに事なきを得た。


興ざめした彼女と共に私は異世界を出て終電で帰宅し、

翌日は学校という名の多類異世界人収容所に遅れずに向かうのだった。




パンク人との生活は約半年で終わりを告げた。

彼女がパンクの本場ロンドンに留学したからだ。

ロンドンにバリバリのパンクファッションで乗り込んだ彼女は、

数人のイギリス人から否定された。


「OH!! クレイジー! ヤメナサイ!」


 本場で否定されたのはショックだったのだろう。

パンク人は帰国した時には日本人になって帰ってきた。



歳を重ねパンク人は日本に順応し、現在、公務員と結婚し妻として母として幸せな生活を送っている。

公務員の旦那さんは彼女がかつてモヒカン頭の異世界人だった事を知らない。

なぜなら、出会った時はすでに日本人になって数年たっており、パンク人臭はすっかり消えてエレガントになっていたのだから。

そして今もロングスカートの似合う優雅な奥様なのである。


私はあの頃、彼女のことを自分とは別の世界の人間だと思っていた。

だがたぶん、彼女も私のことを自分とは違う〇〇人と思っていたのだろう。

自分が何人だったのか聞きたいような気もするが、今では同じ日本人になったのだから、まあ、いいだろうと思うのである。







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