オタク女を娶るなら〔ノンフィクション〕
落ちが下品です。上品であると自負する方はスルーでお願いします。
結婚披露宴はおめでたいはずでしょ?
祝福のシャワーを浴びた幸せそうな二人にちょっとだけヤキモチなどを焼き、
新郎新婦を気楽にひやかしながら和気藹々と盛り上がり、そうじゃないの?
弘美の二十五年間の歴代彼氏は全て、背景にバラの花を背負った平面なイケメンだったのです。
その弘美から結婚式の招待状が届いた時に疑問をもたなかった私も間抜けなのですがね。
まあ、初めて本物の人間に恋をしたための燃え上がり過ぎた結果のスピード婚と勝手に思っていたのです。
弘美と旦那さんになる人とは知人の紹介で知り合ったそうな。
優しい人のようでポエムなどを嗜む物静かな彼だとか、私の知っている情報はそんなものでした。
付き合って半年でゴールインのスピード婚なのでそれしか知りませんでした。
結婚披露宴当日、そりゃあおめかしして出かけましたとも、
私はその時すでに既婚者でしたので、家事の息抜きもできるわ他人様が作った美味しい食事にもありつけるなどど、もちろん二人を祝福する気は満々だったんですけどね、そんな邪念も混ざりつついそいそと出かけたんです。
会場に着きましたら、披露宴会場の扉の前で新郎新婦のお出迎えですね。
新郎新婦はそれぞれの友人、知人、親戚にご挨拶。
「おめでとうございます」
「ありがとうございます」
お祝いの言葉が飛び交っている。
おお、弘美!可愛らしいドレスを着て、あなたらしくて似合うじゃないの!
お祝いの言葉を言いましょうね。
「ドラっ!!」
弘美が駆け寄り抱きついてきたのです。顔を見ると涙ぐんでいるではありませんか。
そんなに嬉しいのね?良かったわね、
「おめでとう!」
弘美?まだ私に抱きついてるの?
ま、他のお客様はもう会場に入られて人もまばらだからいいでしょう。
「ドラ……私……結婚披露宴やめる……」
耳元で私だけに聞こえるように言う弘美。
「はいいいい?」
「わかんなくなっちゃったのよ……」
「もしもし? なんですと?」
「嫌いではないんだけど、好きなのかどうなのか自分の気持ちが分からないのよ」
「なに言ってるの、この大勢のお客様どうするのよ!」
「だってね、だってねドラ……わたし彼と手を繋いだ事しかないの……それも二回だけ」
「……は、はい?……チュは? ちゅう?」
「……してない」
(お客様に申しあげます。まもなく披露宴が始まりますので会場内のお席にご着席下さいませ)
親友の熱い抱擁を解いて、私は早口で弘美の耳元で脅した。
「いい!弘美!!とりあえず、これだけの客が集まってるんだから、披露宴は演技してでも最後まで乗り切るわよ!我慢しなかったら、私が承知しないからね!」
「ドラあー」
「わかったわねっ!!」
泣きべそをかいた弘美を私はもう一度睨み、会場内の自分の席に座ったのです。
甘かった……。
弘美は平面イケメン元彼とのキラキラやドキドキや萌え萌えのようなものを、彼から得ていませんでした。
披露宴はどうにか中盤までこぎつけました。弘美は笑顔を作り頑張っているようです。
私は弘美となるべく目を合わせないようにし、両隣の友人と他愛のない会話を上の空でしています。
胃が、胃がキリキリと痛み目の前の柔らかいお肉も喉を通りません。
友人たちが新郎新婦の座る雛壇にお酒を注ぐ時間になりました。
写真撮影を交えながらの賑やかなひと時が終わるころ、
私は立ち上がり、まず新郎にあたりさわりない挨拶をしビールを注ぎ、弘美にジュースを注ぎ、隣に立ちました。
「ドラ……」
弘美の顔が崩れます。
「もう少しだから大丈夫でしょうね!!」
「もう、ダメだよ……」
「ダメじゃない!我慢しな!!」
はああ、胃が、私の胃があああ!!
その後、弘美のファーストキスを目の前で見まして、なんとか披露宴は無事済みました。
二次会もせず、両親に説得され新婚旅行に出かけた弘美がどうなったか知りたいですか?
新婚旅行のお土産を持ってきた弘美が言いましたとさ。
「ラブラブなの! デヘッ」
あんな絵にかいたような
「デヘッ」を私は見たことがありません。
そして、私より先に二人の子供に恵まれましたとさ、めでたしめでたしだとおおお!
オタク女を娶る貴男にアドバイスを一つ!
結婚前に一発やっときなさい!!