06 改めて考える
長い説明文みたいです……。
改めて考える鎮馬ちゃんのお話。
ばふり。
自室に戻って真っ先にした事は、ベットに飛び込む事だった。
今日は酷く疲れた。多分、攻略対象者二人と遭遇したから、心労だろう。
身体を包み込むようなマットレスの柔らかさに、眠気を触発されながら、うつ伏せで身動ぎした後、寝返りを打って仰向けになる。
今、室内には誰も居なく、静けさだけが漂っている。
気を抜くと眠ってしまいそうだ。
今寝てしまうと、夜中に目が冴えてしまいそうなので、何とか閉じかける瞼を持ち上げる。
私は襲い来る眠気を振り払いつつ、ぼんやりと室内を眺めた。
寮内の二人部屋は広くはないが、狭くもない。
キッチンはあるし、小さいながら冷蔵庫もあるし、クローゼットはちゃんと二つある。
炊飯器、オーブンレンジ、それらを乗せる台と、これまた小さな食器棚に、四角いテーブル、そして暖房機。
床は全面にベージュの余り目立たないカーペットが敷かれ、壁は白塗りで窓にはブラインド。
室内の一番奥には、今私が寝ているシングルベットと、その隣に同じ物がもう一つ置かれている。
逢魔ヶ時学園の寮は少し変わっていて、部屋によって作りが少し異なり、入居者の希望通りの部屋が与えられるのだとか。
私と安泉さんの場合は、希望が自炊だった為、キッチンのある部屋が与えられた。
自炊を希望する人は余り居ないそうで、キッチンが備え付けの部屋の数はそこまでないらしい。入居費が少し高くなるし、自炊は面倒臭いからだろう。
私は料理を作るのは嫌いじゃないし、食堂で余計な接点を作るのも嫌だったので、この部屋を選んだが、食材をまだ買っていない為、もう暫くは食堂でお世話になろうと思う。
幸い、人が込む時間はある程度把握しているし、それを避ければ、人目を引く美男美女等と遭遇する確率は低いのだ。
──きしり、スプリング音を立てながら、私は上体を起こしてベット脇に腰掛けると、そのまま思案する。
私の当初の目標は学園への入学回避であったが、それは失敗に終わり、第二目標の攻略対象者との接触回避も失敗に終わった。篠之雨先生は担任な訳で、僅かに接触回避の対象外扱いにするとしても、今日栞宮悠里と接触してしまった時点でアウトだ。
そもそもな話し、私は簡単に思っていたが、同じ学校に通っていながら、完全に接触を回避する事など出来るんだろうか……?
ゲーム内のように、攻略本があり、正確にキャラクターの行動が分かる訳でもないのに。
頑張れば確かに妖気や霊気を探る事で、妖怪と陰陽師である攻略対象者達を避ける事は可能だが、そうするとこちらが陰陽師である事が露見し兼ねない。
陰陽師と妖怪は、霊力と妖力により、それぞれ互いに互いをある程度は認識出来る力を持っている。あいつは弱い、こいつは強い、あいつは妖怪でこいつは陰陽師だ……と、言った感じに。
普段、私は周りの一般人の霊力に自分の霊力を紛れ込ませる事で、自分が陰陽師である事を隠している。
故に、力の使用は自らを陰陽師だと吐露しているようなもので、死亡フラグ建設に繋がるため却下だ。
やはり、成る可く接触回避を目標にしつつ、場面に応じて対応を変えるしかないか。
ゲーム内の登場キャラクターと接触してしまった場合は、親しくならず、記憶に残らない名無しさんになれれば上出来だろう。
今の所はそれくらいしか思い付かない。具体的にこれをすれば死亡フラグは立たない、助かる、だなんて道筋など端からないように思う。ならば、日々の中で模索し、その時々の対応を考え、行使するしかない。
──と、思うのは私の頭が悪いからだろうか……?
小さい時からずっと悩んできた事だが、いまいち解決策が思い付かないのだ。
唯一これをすれば、と思うのは今と変わらずゲームの内容を全て避けると言うものだけ。
後は、陰陽師としての力を研く事くらいだろうか?
「……うーん」
酷い猫背になりながら、足に腕を置いて頬杖を付く。
口からは独り言のように、悩ましげな唸り声が洩れた。
ゲーム内を見る限り、私こと綾部鎮馬の死亡フラグ建設においての重要事項は、私がヒロインと攻略対象者達の仲を引き裂く。または、邪魔をする。妖怪を嫌い、攻略対象者達学園側から嫌われる。式神契約を行わず、いざと言う時に式神を呼び出せない。自分が安倍家の陰陽師だと公言する。無謀にも自分より強い妖怪に単身で立ち向かう。
私の記憶が正しければ、以上である。
今はまだ何一つとして満たしてはいないが、これからどうなるか分からない訳で、それを考えると気が滅入る。
『桃色妖怪記─契約の口付け─』の物語は今から一年間。その一年を無事に凌ぎきる事が出来れば、安穏な学校生活がやっと私に訪れる。そう思えば、少しはマシか。
「ふぅ……」
頭の中を渦巻き、占拠しようとする憂鬱を全て吐き出すように、息を付いた。
いつの間にやら去っていった眠気の変わりに、空いてきたお腹をさする。
時刻は五時過ぎ。この寮の食堂は今なら空いているだろう。混雑する時間はもう少し後だし。
「! おかえり、安泉さん」
「た、ただいま。あの……綾部さん! ご飯、食べに行かない? 今なら、食堂……空いてると思うの……」
まるでタイミングを見計らったように、丁度よく戻ってきた安泉さんが控えめに私を食事に誘ってくれる。
願ってもないお誘いに私は笑顔で頷いた。
いつも食事に誘うのは私からで、安泉さんから誘われたのはこれが初だ。何だか嬉しい。
「……良かった。じゃあ、食べに行こう?」
「うん、行こっか」
ホッと安堵の息を洩らした安泉さんが、柔らかな微笑みを浮かべる。
そんな安泉さんに連れられるまま、私は食堂へと向かうべく、部屋を後にした。
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最後にちろっと雛乃ちゃん登場!
次回はまたまた新キャラ登場です。