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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
三章 白蛇の御手付き
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61 九尾と吸血鬼と先生の事情聴取

 

 「まず始めに、綾部ちゃん。君の目に映るオレは何?」


 栞宮先輩の真っ直ぐな眼差しが私を射貫き、一瞬息が詰まる。


 いきなりですね、先輩。


 「逢魔ヶ時学園、三年生、生徒会副会長、栞宮悠里先輩。私にはそれ以下にも、それ以上にも……まして、それ以外になんて見えません」

 「そう。じゃあ、怜也は?」

 「栞宮先輩と同様、生徒会長の緋之瀬怜也先輩、としかお答えできません」


 私は努めて冷静に返答する。


 貴方の望む答えはなんて、知らないし、知りたくもありません。

 残念ながら、予想は付いてしまうけど。


 「んー、やっぱそうなるかぁ」と、栞宮先輩がぼやく。


 「綾部。お前はあの白蛇に何を言われた? 何の為に拐われたかは聞いたか?」

 「別に、答えが欲しいと言われただけです。それ以外は黙秘します。白慧から聞いてください」


 続いて緋之瀬先輩から質問がくる。

 私は軽く返して、口をつぐむ。


 白慧との一件は私が勝手に、べらべらと話していい事ではないと思ったからだ。


 「そうか、では綾部。あの白蛇の正体が神様だと知っていたか?」

 「……」


 返答に困り、思わず無言になる。


 嘘をつくのは、まずいけど……これ、頷くのもまずい?

 でも、私の霊力は恐らく、私から毒抜きと言う名の吸血をした緋之瀬先輩には、十中八九バレてる。

 きっと、その情報は既に関係者に流れている筈で……。


 「無言は肯定とみなす。いいな?」


 そう言って、緋之瀬先輩は質問を続けた。


 先輩方の正体について思わずはぐらかしたけど、結局結果は変わらないんじゃないか?

 白慧については、あまりはぐらかせないし。

 嘘だけをつき過ぎれば、何れバレる。

 その時、私の立場がどうなるか分からない。


 意味がなくても、素直に応じたくなくて、悪足掻きをするのは、私がそれだけ死にたくないと言う事。

 次の物語シナリオが鬼に流れたら、私には確実に戦闘フラグと言う名の死亡フラグが立つ。

 おまけに、北條さんにも。


 「お前は高い霊力を持っているな? それを隠せる程の制御力を考えるに、後天的ではなく、先天的なものだろう。誰に習った?」

 「何故そんな事を聞くんですか? 私の事、調べたんですよね? なら、全部分かってるのでは?」


 全部、分かっているんじゃないか、と考えた途端に、この問答が煩わしく感じて、早口で捲し立ててしまう。

 声色は、努めて平淡であったが。


 この空間が嫌だ。この空気が嫌だ。

 九尾も、吸血鬼も、天星院も、この学園の誰も綾部鎮馬わたしの味方にはなり得ない。


 安倍家の事だけは何としても、隠さなければ。

 黙っているのと、嘘をつくのではリスクの度合いが違う。

 だから、生徒会の掴んでいる情報が知りたい。


 「ご、ごめんね、綾部さん。今回、君は被害者なのに……」


 私が怒っているとでも思ったのか、篠之雨先生が申し訳なさそうに口を開く。


 まあ、そうですよね、私は被害者で……調べられる謂れは本来ならない。

 でも、霊力を隠していたのは事実で、それを知ってしまえば調べない訳にもいかないんでしょう?


 分かってますよ。

 今回、私の方に問題があるのは。


 「綾部さん、君についてだけど……君が神社の娘である事、白蛇神の穢れを祓った事や、狛犬を式としている事はもう分かってるよ。あの場にあった退魔刀が君のである事も」

 「そうですか」


 何か言いたそうな顔をする緋之瀬先輩を制し、篠之雨先生が語る。


 神社の娘で、狛犬を式として連れ、退魔刀を扱い、堕ち掛けた儚神の穢れを祓う霊能力者。

 うん、これ、完璧に陰陽師じゃない? 逃げ場なし?

 いっそ、自ら陰陽師と名乗った方が心象がいいんだろうか。


 それで、貴方達は私が何だと?


 「ねぇ、綾部さん。本当はこんな尋問めいた事はやりたくないんだ。早く終わりにしたい。白蛇神の事だって……本当は彼から全部聞いてるんだ」

 「……は?」


 篠之雨先生の言葉を聞いた瞬間、思わず素っ頓狂な声が口から零れた。

 私は大切な事を失念していたらしい。


 白慧は、あの蛇神は私が安倍家の陰陽師だと、安倍晴明の先祖返りだと……知っている。

 ああ、あの後気絶したせいで、口止めしていない。


 何処まで、話した?

 全部って何処までなの?


 「全部、知ってるんですか。なら、もう……私に聞く事なんてないんじゃないですか?」

 「綾部ちゃんの口から聞きたかったんだよね」


 顔を顰めて三人を見遣ると、栞宮先輩が肩を竦めて言った。


 敵意はない。何故?

 安倍家だとは知られてない?

 駄目、分からない。


 頭の中を、解決しない疑問が巡る。


 「私から、ですか」

 「そう、本人の口から聞きたいんだよ。ねぇ、綾部ちゃん」


 栞宮先輩が私を呼ぶ。


 息が詰まって、言葉が出ない。

 どうしたら、どうすれば。


 「私、は……私は……」


 顔から血の気が引くのが分かった。

 きっと、今の私の顔は真っ青で、酷い顔色をしているのだろう。


 「綾部、別に俺達はお前を責める気はない」


 緋之瀬先輩? 何、それ。

 安倍家は敵ではないの?

 訳が、分からない。


 頭の中を巡る疑問は止まらずに、思考の波に酔いそうで……気持ち悪くなる。

 けれど、このまま黙り続ける訳にもいかなくて、私は何とか口を開く。


 何を答えていいかも決まらず、ぐちゃぐちゃに乱れた頭で。


 「私は……確かに、そうです。けれど、先輩方とか先生方、学園に何かしたい訳じゃなくて……私はただ……」


 死にたくないだけだ。生きていたいだけだ。

 前世の痛みは消えなくて、まだ痛くて痛くて、だから、私は少しでも長く生きる為に、この学園で起きる事の全てを避けようと、考えていた。


 でも、結局、勝手に巻き込まれに行って、結果がこれで、私は何をやってるんだか。

 知らず知らず、内心で自嘲が零れた。


 ああ、言い訳を。弁明を。今更……?


 「綾部さんの実家は稲荷神社で、綾部さんは……そこの巫女さんなんだよね?」

 「…………え?」


 え、は、え?

 今なんと言った?


 一息付いた後、口渋る私に代わり、篠之雨先生が口を開く。

 そこから紡がれた言葉は、私の予想しているものではなく、思わず声を零す。


 ミコ、みこ、巫女? 誰が? 私が……?

 白慧は私の事を巫女だと、話したの?


 「神社の神使が式なのも、それ故だよね?」

 「え、あ、ハイ」


 確認するような篠之雨先生の問い掛けに、私は思わず片言で頷いてしまう。


 どうやら首の皮一枚繋がったらしい。

 学園側の私の認識は陰陽師ではなく、巫女に変わったそうだ。


 何だろう、この勘違い。

 白慧のお陰?

 あ、何かちょっと癪だ。


 そう思いつつ、強ち間違いではないそれを訂正すると、陰陽師だと肯定する事になるんじゃないか、と私は大人しく巫女の席に甘んじる。

 巫女、なら多分、可笑しな事にはならない。

 敵対する事にはならない。


 安堵からか、一気に肩から力が抜けそうになるのを、悟られないように、何とか気を引き締める。


 「陰陽術は誰から? 神使から?」

 「あ、あー、まあ、そんな感じですかね?」


 栞宮先輩の追加の問いに、首を傾げながら答える。


 私の術は、まーさんやこーちゃんにも習ったが、我が神社の女神様、お祖母様、お母さんにも習ったし、独学だったり、まあ色々な所から習った。


 「綾部、お前には魔眼が効かないな?」

 「質問多いですね? 効かないかもしれないです」


 緋之瀬先輩の、恐らく兼ねてからの疑問であっただろう問いに、私は曖昧に返す。


 安倍家だと、陰陽師だとバレなかったのは良いとして……まだ、質問は続くのだろうか?

 いや、もしかしたら、まだ陰陽師としての疑いが残っていて、それを聞き出す為に尚も続けている、とか?


 やめよう。

 疑心暗鬼になんてなるものじゃない。


 「じゃあ、改めて……オレと怜也は何者?」


 再びされる問い掛け。

 最初とは少し変わったそれに、私は仕方なしに答える。


 「妖怪、ですか……? 雨の日、尾が九本ありましたし、栞宮先輩は九尾の狐で、魔眼持ちらしい、緋之瀬先輩は吸血鬼でしょうか?」


 一応疑問系で、確認するように答えると、栞宮先輩は「せーかーい!」と嬉しそうに笑った。


 「綾部さんはこれから、一応関係者の括りになるんだけど……今までと特に変わりはないから。何か困った事とか、分からない事があったら言ってね?」


 篠之雨先生が柔らかく笑むのに、私は「はい、ありがとうございます」と頷く。

 質問はどうやら、終わりのようだ。


 取り敢えずは、大丈夫……と、言っていいんだろうか?

 先生も生徒会も、何を考えているかなんて分からないのだから、警戒するに越した事はないと思うけど。

 何にせよ、向こうには私が陰陽師である確証はないだろうから、これ以上の墓穴を掘るのを気を付けるべきだろう。


 そこまで思考した所で、不意に緋之瀬先輩から「綾部」と呼ばれ、私は条件反射で「はい」と返事する。

 

 「田沼凛は知っているか?」

 「クラスメイトの田沼くんですよね? 話した事はありませんが、知ってますよ」


 一応、クラスメイトですからね。

 これと言って、特に話した事はないので、名前だけなら、ですけど。


 「近々、田沼と……それに、蒼樹がお前を呼び出すと思うが、その時は応じてやって欲しい」

 「? 分かりました」


 緋之瀬先輩が真剣な表情で私に頼むものだから、私は首を傾げながらも、思わず了承の言葉を零す。


 田沼くんと天条くん?

 何の用だろうか。


 田沼くんは、まあいいとして……天条くんはちょっと嫌だ。

 けど、多分、応じないと「何かあるんじゃないのか?」と疑われそうで、面倒臭い。

 後、今緋之瀬先輩に分かった、と言った手前、お断りしちゃ駄目だよね。


 私は、こっそりと今日何度目かの溜め息を吐き出した。




.

大変お待たせ致しました!

先月中に更新の予定が、今月になってしまいまして申し訳ないです……!


これにて、事情聴取終了になります。

次回は天条くんのターン来る、かも?笑


.

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