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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
三章 白蛇の御手付き
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60 事情聴取、開始

主人公のターンに戻って参りました。


 放課後の教室。

 私は安泉さんを部活へ見送った後、机に突っ伏していた。


 白慧の事件から、約一週間後の火曜日。

 あれから二日後に、保健室で目を覚ました私は、普通の日常に戻っていた。

 私が学校を休んでいる間、 クラスメイトには普通に風邪で休むと告げ、ルームメイトである安泉さんには、私が体調を崩して倒れた為、保険室で緋紗良先生が面倒を診ていると伝えられていたそうだ。


 目が覚めた時、目に入ったのは、ベッドの両脇に頭を付けて眠るまーさんとこーちゃんの姿で、次いで声が出し辛い程の酷い喉の渇きと、身体の痛みに、寝起きのぼんやりとした頭が刺激された。


 起きたばかりの時は倦怠感が凄くて、動く気がしなかったけれど、状況把握の為にも上体を起こす。

 それにより目の覚めたまーさん、こーちゃんに、私が気絶した後の話を聞いた時は、悪夢かと思った。


 思わず顔を青褪めさせてしまったのは、仕方のない反応だと言いたい。

 様子を見に来た篠之雨先生を慌てさせてしまったのは、申し訳ないと思っているけど。


 まあ、問題はそこじゃない。

 私が気絶した後の事、生徒会組が駆け付けて来たらしいのだ。

 おまけに、気絶する前の幻聴は幻聴でなく、倒れる私を抱き止めたのは篠之雨だと聞いている。

 同じく行動を共にしていた隠神刑部狸だと言う、田沼凛くんまで居り、凄く心配していたとか。


 そして、私が今、問題視にすべき最大の事は……私の状態が落ち着いたら、事情聴取と言う名の尋問が待っていると言う事。


 あははは、それ今日の放課後なんだよね。

 乾いた笑いしか出ないよ、はぁ。


 傷は毎日、緋紗良先生が診てくれて、 治癒術も掛けて貰っていたから、お腹の傷も骨折も大分治ってきている。

 今ならば、もう事情聴取してもいい頃だろう、と言う事だと思う。

 今朝、篠之雨先生に「放課後、生徒会室に来て貰っていいかな。例の事で、話があるんだ」と、呼ばれてしまった。


 激しく逃げたいが、逃げる訳にもいかない。

 言い訳、言い逃れは一応あるが、信じて貰うのは難しい。

 篠之雨先生が私を見る目に警戒や敵意がない事から、私に安倍家の疑いは掛かってないと思うが、一般人ではないと確信しているのは確かだ。

 何せ、まーさんとこーちゃんが私と面識があり、尚且つ私に従っている──式神である、とバレているのだから。


 なら、無名の陰陽師、未確認の陰陽師とか、思われているのだろうか?

 向こうの見解は分からない。

 家を調べられたとて、霊力零の父が神主を勤める稲荷神神社としか、分からないだろうし。


 母もお祖母様も仕事中は綾部、ではなく安倍の姓を名乗り、普段は霊力を隠しているから、そう簡単に二人の存在はバレやしない。

 いくら天星院家だろうが、攻略対象だろうが、うちの家族を嘗めて貰っては困る。


 母もお祖母様もやり手だ。

 父以外、贔屓目なしに強い。

 分家の末端が、安倍の姓を名乗れるのは、そう言う事なのだ。


 「はぁ。霊力が高いだけの一般人や、実家が神社だからたまたま関係者になっただけの人間、て言って信じて貰えたらいいのに」


 ぽつりと小さく呟く。

 誰も居ない教室は嫌に静かで、何だか淋しい。


 私は、このまま教室に留まっても仕方がない、と立ち上がり、生徒会を目指して、廊下を歩き始めた。


 因みに、新垣先輩はあの後、一人でさっさと帰ったそうだ。

 お礼を言いに行くべきだろうか、とても迷う。


 白慧に関しては、その身柄は天星院てんしょういん家預かりとなったそうで、後の処遇についてはどうなるのかは分からない。


 「今日はいいお天気だなぁ」


 ちょっとした現実逃避。

 「今日はいいお天気ですね」、て話の繋ぎに良く使われるイメージがある。


 窓からぼんやりと外を眺めながら、廊下を歩く。

 賑やかに響く声は運動部のものだろう。


 平凡な高校生活を送るとか、何それ羨ましい。


 比較的、いつもより遅い足取り。

 けれど、歩いている事には変わりなく、生徒会室がいよいよ間近に差し迫る。

 気分はさながら、絞首台をのぼる罪人か。


 今にも逃げ出したい衝動をなんとか押し止め、生徒会室の前に立つ。

 ゆっくりと深呼吸の後、三回ノック。

 そして、「綾部です」と、大きくも小さくもない丁度いい声音で、中に声を掛ける。


 心臓の音がやけに早く、五月蝿い。

 これが恋なんて甘酸っぱいものだったら良かったのに……。

 いや、やっぱ今のなしで。

 攻略対象と恋は激しく嫌だ。

 絶対に命がいくつあったって足りないし、そもそも私が綾部鎮馬わたしである以上有り得ない。


 「どうぞ」と、中から篠之雨先生の声が聞こえ、私は一瞬扉を開くのを躊躇いながらも、「失礼します」と中へ入る。


 「よく来たな、綾部。体調はどうだ?」

 「一応、大分良くなりましたよ」


 開口一番、緋之瀬先輩に問われた言葉に、私はそう返しながら、室内を見渡す。


 ……三人、だけ?


 生徒会室の中、端から端まで見渡せど、ここに居るのは緋之瀬先輩、栞宮先輩、篠之雨先生のみであった。

 私は目を瞬かせて、三人を見つめる。


 「ん? ……ああ、今日は俺達、三人だけ。他の奴等なら居ないよ? 病み上がりの女の子を大勢で囲んで威圧する趣味はないからね」


 栞宮先輩が私の視線に気付き、そうにこりと笑う。


 私の事を考慮しての人選と人数、て事だと思うんだけど、確かに助かったかも、気分的に。

 あまり大勢に囲まれると圧迫感に気圧されそうだし。


 本来なら、ここに天条くん、瀬戸くん、亜木津先輩、それに八神先輩が加わり、もしかしたら緋紗良先生まで居たかもしれないのだ。

 そう考えると、ね。

 四、五人も少ないのは精神衛生上助かる。


 「あ、でも、ここでの話は皆に伝わっちゃうんだ。ごめんね」

 「いえ、大丈夫ですよ、篠之雨先生」


 まあ、そうですよね。

 私の件は問題視されてたらしいですし、他の方々にも通達されますよね、先生。


 「さて、じゃあ始めてもいいかな?」

 「……どうぞ」


 栞宮先輩がいつもの調子で話を進め、私は平常を装いながら頷く。


 「では、事情聴取を始める」


 緋之瀬先輩の言葉を合図に、私の事情聴取は開始された。




.

取り敢えず、区切ります。

次回、三対一の事情聴取です!

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