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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
一章 物語プレリュード
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05 引き続き本の話

引き続き篠之雨先生のターン!なの、かな……?



 「あの、篠之雨先生」

 「ん? 何かな?」


 誤解を解いた私は、再び流れ出した沈黙に僅かな居心地の悪さを感じ、口を開いた。

 篠之雨先生は首を傾げて私を見る。


 「先生の目的って、さっきの質問ですよね?」

 「うーん、一応はね?」


 篠之雨先生に浮かんだ疑問を投げつけると、先生は首を捻り、悩ましげに笑う。私は構わずに続けた。


 「なら……何故まだ居るんでしょうか?」

 「折角だし、まだお話しようかなって……駄目かい?」

 「……いえ、別に駄目ではありませんけど」


 篠之雨先生が首を傾げて問い返してくる。

 私は視線をさ迷わせながら、どう答えたものかと口ごもり、内心で苦笑を零した。

 また嫌いかだなんて問われたら困りものだし、どうやってお帰り頂こう……?


 「綾部さん、この学校どう?」

 「篠之雨先生、私まだ入学したばかりですよ……?」


 曖昧に答えて黙り込んだ私を見て、篠之雨先生は話しを変えた。

 飽く迄もここに居座るらしい篠之雨先生に、私は今度は苦笑を表に出して答える。

 出来るなら、今直ぐにでも職員室にお帰り願いたかったのだが、振られた話題を無下にする訳にもいかない。


 「そっか、まだ分からないかぁ。これからだもんね」

 「はい、これからです」


 これから、妖怪とか陰陽師とか戦闘とか与幸の巫とか死亡フラグとか色々大変なんですよ。なんて言える訳もなく、出掛けた言葉を飲み込んで頷く。

 まだこれは私だけがしか知らない事で、知る筈のない事なのだから。

 篠之雨先生は私の心内など知る訳もなく、「楽しいこと、いっぱいあるといいねぇ」とのほほんと言った。

 そののんびりとした雰囲気が羨ましく思うのは私だけだろうか?


 「?……っ?!」


 会話の最中、不意にがちゃりと扉が開く音が室内に響く。

 私と篠之雨先生は首を傾げて、そちらに顔を向けた。

 今度は、何? 誰?

 現在進行形で居座る私が言うのもなんだけど、今の時期図書室に来る人なんて滅多に居ないと思ってたんだけど。

 訝しげな表情で視線を向けた先、入ってきた人物を視界に捉え、私は絶句した。


 「しっののっめ、セーンセ!」

 「……副会長、どうしたんだい?」


 陽気な声を響かせながら、彼── 栞宮悠里かんみやゆうりがこちらに歩み寄ってきた。

 満面の笑みを浮かべる栞宮先輩に、きょとんとした表情の篠之雨先生。

 私は彼らを交互に見据えながら、首を捻る。

 何故……? いや、うん。篠之雨先生に会いに来たのは分かる。名前呼んでるし。

 でも、何故このタイミング? 私が居る時に来るの?

 ああ、全ては私が篠之雨先生と一緒に居たせいか……。

 私はまたしても回避出来なかった接触に、頭を抱えた。


 「会長が呼んでましたよー」

 「え、本当? 何だろ……?」


 所々跳ね目な癖っ毛が目立つ、胸元辺りまでの長さの金髪を揺らし、栗色の瞳を細め、にっこにっこと笑う栞宮先輩に、再び首を傾げて篠之雨先生が思案する。

 そんな二人を私は静かに見据えた。

 この人、栞宮悠里は篠之雨先生同様、私が避けなければいけなかった攻略対象者の一人。 飄々としていて、掴み所がなく、明るく陽気な性格に加えて、頭が良い彼は、この学園の三年生で、生徒会の副会長であり、九尾の狐と言う妖怪である。

 そして、女の子好きと言う厄介な所を持っていて、ゲーム内でやたらと綾部鎮馬に絡んできた要注意人物なのだ。

 要注意と言う点に置いては、攻略対象者全員に等しく言える事なのだが、栞宮先輩は別格。

 この人は頭が良すぎると、私はゲームプレイ中に常々思っていた。

 普段はそんな感じしないのに、何か、自分の考えの三歩上を行くような……要は、立ち向かう前から勝てる気のしない相手なのだ。


 「篠之雨先生……こんな忙しい時期に女子生徒と図書室デートですか? 妬けちゃいますね~」

 「ちょ! 副会長! 変な誤解を生むようなこと言わないの!」


 ちらりと私を視界に捉えた後、篠之雨先生に視線を向け、栞宮先輩がにやにやと笑いながら茶化す。

 篠之雨先生は目を丸くすると、焦ったように栞宮先輩を咎める。

 栞宮先輩はそんなもの我関せずと言った風に、空いていた私の右隣の席に座った。

 図書室には、長テーブルが六つ、それを囲むようにそれぞれに椅子が六つ置いてあり、今現在の状況は右に栞宮先輩、真ん中に私、左に篠之雨先生と言った風に座っている。

 無視された篠之雨先生が、恨めしそうに栞宮先輩を睨む。


 「キミ、名前は? オレはねぇ、栞宮悠里、三年生だよ」

 「…………綾部、一年生です」


 篠之雨先生を尚も無視する栞宮先輩があろう事か、私に話し掛けてくる。

 私はこのまま名無しさんで十分だというのに、わざわざ名乗る栞宮先輩に、暫し悩んでから、苗字と学年だけを告げた。

 恐らく相手はこれで満足はしないだろうが、名前など教えるものか。

 攻略対象者との接触回避を失敗した私の、勝手な僅かながらの抵抗であった。


 「ね、オレ……名前聞いた筈なんだけど? 何で苗字だけ?」

 「苗字だけあれば困りませんよね?」

 「え~、オレはフルネーム名乗ったのにズルくない?」

 「副会長! 新入生を困らせないのっ!」


 案の定と言うべきか、更に絡んでくる栞宮先輩に淡々と対応する。

 そんな私を困っていると判断してか、篠之雨先生が栞宮先輩を止めに入った。

 栞宮先輩は「篠之雨先生ってばいけず~」だなんて言いながら、頬を膨らませてむくれているが、いくら美形と言えど高校生がその反応はどうかと。


 「ねぇ……その本」

 「……なんでしょうか?」

 「妖狐と女子高生の恋愛物語、だっけ?」

 「そうですけど……何か?」


 ふと、栞宮先輩の視線が、私のまだ持ったままであった本に向かう。

 凝視される手元に、私が首を傾げて声を掛けると、栞宮先輩からは意外な返答が返ってきた。

 栞宮先輩がこの本を知っていた事に、私は驚愕しつつ問い返す。

 自分と同じ妖狐を題材に使われた小説だから、気になるのだろうか?


 「ふーん。貸して?」

 「……え? あっ」


 言うが早いか、ひょいっと栞宮先輩が私の手の中から本を奪う。

 呆然と掠め取られた本を目で追いながら、私の伸ばした手は宙を切った。

 その事で、隣で篠之雨先生が再び栞宮先輩を注意するが、聞こえないフリでまた無視されている。可哀相な先生。


 「…………」

 「……っどうか、しました?」



 無言でぱらぱらと中身を見始めた栞宮先輩が、何か興味をそそるようなものでもあったのか、ある一点で手を止める。

 私が不審に思い、遠慮がちに声を掛けると、栞宮先輩は真剣な眼差しで私を見据えた。

 な、何……? ほんと、どうかしたんですかっ……?

 いきなり纏う雰囲気の変わった栞宮先輩に、私は逡巡としながら見返す。


 「…………僕は人間じゃない。妖狐なんだ、妖怪、なんだ。それでも、君は僕を好きになってくれるの?」

 「…………っ!」


 真っ直ぐに見つめられ、たっぷりと間を空けて唐突に告げられた言葉に息を呑む。

 驚愕に身体が硬直し、心臓が激しく鼓動を刻んだ。

 落ち着け、落ち着け自分。状況から察するに、栞宮先輩は本の台詞を読み上げただけに過ぎない。

 本気で私に、自分が妖怪だと吐露した訳じゃない。

 そうは理解しているのに、五月蝿いくらいに鳴り響く心音は治まらない。

 それもその筈、この台詞はゲーム内で栞宮先輩がヒロインに向けた台詞に極似しているのだ。

 人気の無くなった渡り廊下での会話。美麗に描かれた、真っ直ぐに見つめ合う二人のスチル絵。

 先輩は妖怪を差別しないヒロインに向けて言う。


 『オレは人間じゃない。九尾の妖怪で、キミを傷つけるだけの存在だよ。それでも、キミは……オレを好きになってくれるの?』


 今言われた台詞と比べるように、脳内で再生された声に身震いを覚えた。

 偶然にしても、本の台詞を読んだだけだとしても、本来ヒロインに告げられるべき台詞を先取りしてしまうなんて、冗談じゃない。

 私はゲームの内容に関わりたくはないのに……。


 「こら! 新入生をからかうんじゃない!」


 ──べしり。

 困惑する私に気付いてか、焦ったように篠之雨先生が立ち上がると、栞宮先輩に近付き、小気味いい音を響かせてその頭を叩いた。

 様子からして、栞宮先輩の正体を吐露するような台詞に慌てたのだと思う。

 対する栞宮先輩は「いったいなぁ、も~」と、頭を押さえ、篠之雨先生を恨めしげに見つめながらも、私に本を返してくる。

 私は本を受け取りながら、呆然と栞宮先輩達のやり取りを見つめた。

 台詞の余韻か、頭の中がまだ僅かに混乱して、口も開けない。


 「ほら、行くよ」


 黙り込んで二人を見つめる私を余所に、篠之雨先生が栞宮先輩を立ち上がらせると、言いながら襟首を掴んで引きずる。

 去り際に篠之雨先生はまた明日、と笑顔で私に告げ、栞宮先輩はしたり顔で手を振っていた。

 私はただただそれを見送った。


 「……何だったの」


 ぽつり、二人が居なくなった図書室内で呟いた。

 ようやっと思考が纏まり、まるで台風のように吹き荒れて去った二人に、眉根を寄せる。

 先程のは恐らく、栞宮先輩が篠之雨先生をからかったのではないだろうか。したり顔してたし。篠之雨先生慌ててたし。

 でなければ、あの行動の意味が分からない。

 差詰め、本に目を通してる最中、手頃な台詞を見つけて、使用したんだろう。

 私は栞宮先輩の篠之雨先生へのからかいに巻き込まれたんじゃないか。

 そこまで考え、私は二冊の本を借りて図書室を後にした。




.

新キャラ登場です!

九尾さんは台風の如く去って行きました。

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