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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
三章 白蛇の御手付き
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58 再び暗転する視界で


 「それで? 貴方は、これからどうするんですか、白蛇神」


 抱き付いてくるこーちゃんの背を軽く叩き、宥めつつも、私は白慧に視線を向けた。


 「さあね」

 「さあ、て……」

 「今、学園の奴等が境内に来てるから、封印されるんじゃないかな」


 何処か他人事のように、遠くを見つめる白慧に、私は呆れたように小さく溜め息を吐く。


 自分の事でしょうに、そんな……さっきまでの強気で狂気的な神様は、何処行った。


 「それは、ないんじゃないですか。貴方、もう堕ち掛けてないですし、私無事ですし? 神様を封印するなんて高リスクな事しないと思いますよ?」

 「……鎮馬ちゃん、君にとってその状態は無事と言えるの? 流石に驚くんだけど。お腹の怪我とか毒とか全然無事じゃなかったよね?」


 私の言葉に、目を数度、瞬かせた後、「え、この娘、大丈夫?」とでも言いたげな顔で、白慧がまーさんに視線を向けると、まーさんは無言で首を横に振った。


 おい、どう言う事だ。

 まーさんは、私の味方じゃなかったか。


 「生きてれば無事です」

 「鎮馬、その基準は間違っておると思うぞ」


 死亡フラグを考えると、五体満足で生きている今の私は無事と言える、と思ったんだけど。

 何で私、こーちゃんにまでツッコまれてるの。


 「与幸よたかかんなぎも大概だけど、君も大概だね」


 はぁ、と先程の私よろしく、白慧はそう言って溜め息を吐いた。


 え、ちょ、解せないんだけど。

 何で私が呆れられてるの。

 と言うか、私、北條さんと同類扱いされてる?

 いや、悪役とヒロインを同列化させちゃ駄目だから。


 「して、白蛇神よ。夜雀はまだ境内で戦っておるのではないか?」

 「ああ、夜雀なら、多分、もう戦ってないよ。境内に居ても、僕の穢れが祓われたのは気付くだろうから」


 まーさんが、ふとした疑問を口にすると、白慧が思い出したようにそう返す。


 「そうか、ならば、はようずらかるか、鎮馬よ?」

 「あー、そうだね、うん。助けに来てくれたのは分かるんだけど……会いたくは、ないな」


 首を傾げるまーさんに、私は頷き、苦笑する。


 態々助けに来てくれたのだから、お礼を言うべきだし、本来なら大人しくしているべきだったのは分かる。

 分かるんだけど、会いたくないのが本音だ。


 おまけに、式神を連れ、堕ちかけの穢れ祓いをしてしまった現状も完全に不味いだろう。

 せめて、言い訳を考える時間が欲しい。

 ……何て言い訳をしよう。


 「おい、待て、暴力女ぁ」


 この場から逃げるべく、立ち上がろうとした私の目の前へ、新垣先輩がずかずかと歩いて来たかと思うと、何を思ったのか、私の顔に己の顔を近付ける。

 鼻先が触れ合いそうな、そんな近い距離になった新垣先輩の顔に、私は目を瞬かせた。


 「その蛇が終わったんなら次は俺の目を治せ」

 「え、ちょ、近いです、先輩」

 「あ? 離れて欲しけりゃぁ、早く治せ」

 「いや、横暴です」


 近過ぎる新垣先輩の顔に、私は眉根を寄せる。


 急にそんな言われても困りる。

 今の私には何の用意もないし、妖術はそんな簡単に解けるものではない。

 解けないものを解こうだなんてしていたら、先生方が来てしまう可能性が高い。


 「早くしろよ」

 「……はぁ、夜雀の術なら数日で解ける筈です。心配なら医療系の専門家にでも診て貰ってください」


 不機嫌そうに目を細め、催促してくる新垣先輩に私は小さく溜め息を吐くと、そう淡々と返した。


 夜雀の夜盲症は、重度に患わなければ一過性のものだ。

 戦闘中、新垣先輩は直ぐ様、夜雀と距離を取っていた事から、重度ではないだろう。

 なら、緋紗良先生に診て貰えれば、治りを早められそうだけど。


 「あ? テメェは診れねぇのかぁ?」

 「私は専門家を名乗った覚えはありませんが?」

 「篠之雨享椰より高い霊力持ちが何言ってやがんだ、あぁ?」


 目の前の新垣先輩の顔が顰められ、鋭い眼光で睨み付けられる。

 私も負けじと睨み返せば、暫し至近距離で、ばちばちと火花でも散りそうな程の、睨み合いが続く。


 それを制したのは、今だ私に抱き付いているこーちゃん……ではなく、意外にも白慧であった。

 にゅっ、と私と新垣先輩の顔の間に手を差し込み、「何してるの、犬畜生?」と笑う白慧。

 睨み合いの決着を他人に付けられ、新垣先輩は舌打ちをしつつも、大人しく私から離れた。


 白慧の目が笑ってないんだけど、これ如何いかに。


 「ううぅ……鎮馬よ、行くか」


 僅かに涙に濡れた目を袖で拭い、こーちゃんがようやっと私を解放する。

 私はこーちゃんの頭を緩く撫でてから、小さく頷いた。


 早く、帰ろう。

 見付かる前に。見られる前に。


 まだ、私は──ただの綾部鎮馬で居たい。


 「白慧、悪いんですけど、境内に居る人達によろしくお願いします」

 「わかってるよ、大丈夫」


 白慧に頼むのはどうかと思ったけど、他に頼める人、居ないしね。

 仕方がない。

 穢れは祓ったし、白慧からはもう害意を感じない。

 もう大丈夫だと、何となく感じる。


 「っ……あ、れ?」


 手に、足に力を入れ、立ち上がる。

 一応、立ち上がれた身体。

 けれど、それは一瞬で、頭から一気に血液が下がったような気持ち悪さと、パンクしたタイヤのように全身から抜け出す力に、私の身体はぐらりと傾く。


 茫然としたような声が口から零れて、瞼を閉じた訳でもないのに、真っ暗になる視界。


 ああ、倒れてる。力がもう、入らない。

 無理、しちゃったかな。


 なんて、呑気な思考が脳裏を掠め、意識が徐々に薄れてゆく。

 まーさんの声が、こーちゃんの声が、白慧の声が、新垣先輩の声が、何処か焦ったように私を呼んでいて、何とも言えない気持ちになる。

 あの新垣先輩までなんて、きっと私の都合のいい幻聴なのだろう。


 あはは、あの新垣先輩が私を少しだけでも心配してくれたと考えると、何だか笑えてしまう。

 私の耳ももう、可笑しかったんだ、きっと。


 「綾部さん……!!」と、境内に居る筈の、ここに居ない筈の人の声が私を呼んでいたのも、きっと気のせいだよ。


 そう自分に言い聞かせて、私の意識はぶつん、とテレビの電源を切った時のように途切れた。





.

お待たせしました!

少し短めですが、主人公のターン!

次回は生徒会組のターンでお送りします。

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