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悪役からヒロインになるすすめ  作者: 龍凪風深
三章 白蛇の御手付き
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50 ヒロイン不在のシナリオ

生徒会のターンと言う名の凛くんのターン参ります!


 時刻は八時。

 丁度、新垣紅弥あらがきこうや及び、 真來まこ小眞こまが鎮馬の元に辿り着いたのと同時刻。

 生徒会の面々もまた、鎮馬を救出するべく件のやしろ付近に来ていた。


 鎮馬が誘拐された場所が特定出来ていなかった筈が、何故、こうも救出作戦に進展を見せているかと言うとだ。

 時間を遡る事、一時間半前。

 隠神刑部狸の田沼凛たぬまりんが、生徒会室に参入した事が切っ掛けである。


 生徒会室を訪れた凛は、その場の皆に言った。

 居たたまれないような、探るような、それでいて鋭い複数の視線に晒されながらも、それが自分の責任だと言うように。


 「自分は、綾部鎮馬さんが拐われた場所も、拐った奴も知っています。僕は……僕が、白慧やつの協力者だから!」


 凛の告白に、生徒会室は愕然となった。

 まさか、今回の手引きをした者が身内に居るなど、考えたくもない事実だったからだ。


 確かに、内通者の存在を疑わなかった訳ではない。

 けれど、あの白慧ならば、一人でも今回の事を引き起こせるだろう、と言うのもあれば、儚神に関わりたがる妖怪が略居ない(堕ち神に転じた場合、近くに居れば負の感情に引き摺られ、瘴気に当てられる為)と言うのもあり、内通者が存在する確率は低かった。


 故に、内通者の暴き出し、及び処罰は鎮馬救出後に改めて行う結論に至っていたのだ。

 それが、よりにもよって四国の隠神刑部狸が、学園の一年生が儚神の手助けをしただなんて。


 そこからの展開は早かった。

 理皇が凛に事の全てを吐かせ、享椰が救出の手筈を整え、車を用意した。


 簡潔に語ると、凛が吐かされた内容は以下の通りだ。


 鎮馬が拐われた場所は、隣町の森深くに打ち捨てられた水神の社である事。


 鎮馬に白慧の手紙を届け、満月に鎮馬と偽り手紙を渡した事。


 その際、満月のスカートのポケットに入っていた、白慧の水箱の術の媒介としてのビー玉を忍ばせたのが自分である事。


 白慧が気にしている鎮馬の正体が知りたくて、濡れ女を白慧側に付かせ、裏庭に向かわせた事。


 鎌鼬、旧鼠に関しては無関係な事。


 そして、最後に今日の出来事についてこう語った。


 「近々、奴が学園に乗り込んでくるのは知っていました。綾部さんが蛇のお手付きになっていたのも。だから、今日、綾部さんに忠告する為に裏庭に呼び出しました。奴にはもう時間がない。もう直に堕ちます。そうなったら、綾部さんは……でも、綾部さんは来てくれなくて、奴は予想より早く動いて、今日、学園に来て……それで……」


 終わりが近くなるにつれて、消え入りそうになる声。

 凛は途中から自分が何を言っているのか、分からなくなっていたが、それでも言葉を紡いだ。


 奴に味方をしていた。

 けれど、今更になって、それを裏切ったのだと。


 凛の声が完全に空気に解けた瞬間、がたり、と椅子が動く音と共に青色が凛へと迫った。

 次いで、響く殴打音。

 凛の身体が勢いに負けて、後方へ倒れ込む。

 驚愕と痛みに顔を歪めながらも、凛は歯を食い縛り、必死に耐え、悲鳴も恐怖も噛み殺し、目の前の怒れる鬼をただ真っ直ぐに見据える。

 目の端に溜まった生理的な何かは、気付かない振りだ。


 そんな凛に、青鬼は「貴様はっ、貴様がっっ……!!」言葉にならない言葉を発しながら、追い討ちを掛けるように、その胸ぐらを掴み上げた。

 凛の口から「ぐっ!」と、僅かにくぐもった声が零れる。


 「蒼樹」


 握り直し、もう一発と、凛の左頬に振り被られた蒼樹の拳が、悠里が名を呼んだ事で寸での所で制止させられる。

 目で、何故止めるのかと訴える蒼樹に、悠里は「一発目はオレも殴りたかったから止めなかったけど、二発目は駄目だよ。副会長として、それ以上は見過ごせない」 と語った。

 それに同意するように、咲奈も頷き、その隣では享椰が、思わず取った鎖縛さばくの構えを解き、息を付く。


 「蒼樹くん、田沼くんを離して上げてくれるかい? 彼の処罰は僕等の仕事だよ」

「……っ分かってます。けど、こいつが満月を…………いえ、そうですね。早く、綾部鎮馬を迎えに行きましょう。伝えなければならない事が出来ました」


 享椰の言葉に若干渋るも、頷き、握っていた拳を緩めると、凛から手を離す。

 唐突に解放された凛の身体が、床へと落ち、そのままへたり込む。

 それを横目に、真剣な表情を浮かべた蒼樹が、迷いなく鎮馬の救出を急ごう、と告げた。


 「ごめんなさい。謝っても仕方ないのは分かっています、でも、それでも、ごめんなさい」


 凛は俯き、きゅっと唇を噛み締めた後、今にも泣きそうな声色で言葉を振り絞った。


 これが、ここに到るまでの経緯いきさつである。


 凛は白慧の協力者であったが、途中で裏切り生徒会側へと寝返った。

 最終確認のように、理皇が半ば脅しのように、嘘がない項を述べさせている為、罠である事もないだろう。


 「今の供述に嘘があれば、俺はお前を滅する。嘘はないと頷けるか? 田沼凛」と、声を低くし、刀の切っ先を突き付けた理皇に、恐怖から顔を真っ青にした凛が、もし嘘を付いていたとしたら、とんだ役者である。

 それに、「嘘はありません。一族の血に誓って」と、凛は震えながら宣誓したのだ。

 鎮馬は確かに、この打ち捨てられた水神の社に居るのだろう。

 自らの一族に、誇りがあるのならば。


 そうして、享椰を筆頭に、理皇、悠里、咲奈、蒼樹、そして案内役の凛を加えた六名が今回の救出作戦のメンバーとなった。


 「本当は破壊せずにひっそりとやりたいけど、それをするには時間が足らないから、社の結界は僕と理皇くんで破壊する。破壊した後、白蛇神か夜雀、また別の妖か、蛇の眷属が来ると思う。だから、理皇くん、悠里くん、蒼樹くん、咲奈ちゃんは相手の対応を。その間、田沼くんは僕と綾部さんを探す」


 享椰が、作戦と呼んでいいかも分からない作戦の説明をし、最後に皆に再確認するように「いいね?」と、問い掛ける。

 皆は一様に頷く。

 若干一名、青毛を揺らし、頷きながらも、不服そうに凛を睨んでいる者も居たが、享椰は敢えて見ないようにした。


 「……綾部鎮馬さん」


 凛が、何処か悲哀を含んだ声色でぽつりと呟く。


 折角、あそこから逃げてきたのに。

 嘲笑と侮蔑の視線から、やっと逃げてきたのに。

 今度は蛇の儚神に脅され、人を傷付け、人拐いの手伝いをさせられた。

 その事実に、凛は繰り返し内心で呟く。

 最悪だ、最低だ、と。

 ごめんなさい、ごめんなさい、と。


 あの日、あの時、遭遇した白慧に「言う事を聞かないと殺しちゃうよ」と、無邪気に刃先を向けられ、恐怖から「手伝うから殺さないで」と、頷いてしまうなんて……いけなかったのだ。


 神様との約束事は絶対。

 たがう事は赦されない。


 蛇神の手伝いをすると約束して、最後に邪魔をした一匹の女々しい狸。


 きっと自分には何かしらの報いがあるだろう事を覚悟しながら、凛は生徒会の面々に混じり、鎮馬救出に当たった。


 「助ける、から……きっと、こんなの、やっぱり、駄目だから」


 ──自分の為に。自分を守る為だけに、無関係の女の子を貶めるなんてあっちゃ駄目なんだ。


 小さく呟かれた凛の言葉は、誰にも届く事なく、風に解けて消えた。




.

次回は再び主人公ターンに戻ります。

生徒会組はシリアスしてるのに、けも耳ーズのせいか割りとシリアスしてない主人公組(笑)

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